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王都

129.罠

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速やかに脱出する………。
確かにディランはそういったわ。
私もそれには大賛成。
だけどね?
担いで走ることないと思うのよ!?
小麦粉の袋じゃないのよ、私!
お陰で髪の毛は逆流するわ、空きっ腹で胃がおかしくなるわでもう大変よ!

「ああ、皆のところに着いたぞ!」

そう言って、やっとディランは立ち止まった。

「シルベーヌ様っ!」

「良かった!ご無事ですね!」

「あ、うん……心配かけて、ごめん」

アッシュやマルスやミルズ、皆が声を掛けてくれるけど、今、私の顔には藻のように髪の毛が張り付いて、大変なことになっているはず……。
だから、あまり見られたくないのよね。
そんな私の乙女な気持ちも知らず、ディランは騎士団に再度号令を掛けた。

「王女達を中心に後ろに半分、前に半分、分散して警護に付け!最前列は俺とロビーで行く!」

え、私は?
この位置から言うと、私も最前列じゃないの?
小麦粉は数に入らないということ?

「シルベーヌ様、あと少し辛抱してくれ。地上に出たら降ろすから(降ろしたくはないが)」

「あー、うん。なるべく早くお願いします……」

仕方ないわね。
降ろされて自分で走っても、どんくさい私がお荷物になったら悪いし。
だったら、本当のお荷物になってしまいましょう!!
ええい!我慢するわよ!!

「では、行くぞ」

隊列を整えた騎士団は、謁見の間へと走り出した。
途中私兵に遭遇することもなく、私達は短時間で扉の前にでた。

王に連れられてこの扉を通ったとき、鍵は向こう側からかかっていたはず。
ということは、内側からは開かないんじゃないの?
私が口を開きかけたと同時に、ロビーが取手に手をかけた。
すると。

キィー…………

静かな軽い音を立て扉は開き、ロビーとディラン(と私)は勢いよく踊り出た。
鍵、かかってなかったのね?
私、また何か勘違いでもしたかしら?と呑気に考えていると、何かがヒュンという音を立てて耳元をすり抜けた。

「ひゃっ!!」

すり抜けたものは、そのまま壁にぶつかりキンという音を出して床に落ちる。
「矢」だわ!
まさか!?
背後を確認すると、そこには弓を構えた私兵が数人、剣を構える私兵が数十人、不気味に笑いこちらを見ていた。

「シルベーヌ様!!ケガは、ケガはないか!?」

ディランは素早く私を下ろすとその背後に庇い、矢傷がないか慌てて確かめた。

「大丈夫よ。それよりも……」

「ああ、待ち伏せだ」

幸運なことに、王女達はまだ扉から出ていないから矢の攻撃に晒されることはないんだけど。
問題は、ディランと、ロビーと私よね。
二人は私を庇うように前に立ってなんとか矢の攻撃を防ごうとしてくれている。
私兵は矢をつがえ、少しでも動けば放つぞ、とそんな顔をしている。

「ディラン・ヴァーミリオン!!」

私兵の後ろから、叫ぶ声が聞こえる。
それは、あの変態王だ。
形成が逆転したとみるや、王はゆっくりと歩み出て来た。

「その雑草並の生命力には敬意を表すぞ?全く……不死身か?」

「お前を殺しに帰ってきたんだよ。あの世からな」

「もう大人しくここで死ね。鉱山とシルベーヌを私に任せてゆっくり冥府へ旅立つがよい」

変態王は隙間から様子を伺う私をイヤらしくチラッと見た。
ひいっ!と声を出しそうになったけど、ここは我慢だわ!

「寝言は寝てからいうんだな。お前の手には何一つ残らない。もちろん鉱山も国も、シルベーヌ様もだ!」

「ふん。ならば力ずくでいこう。放て!」

王の言葉で私兵の弓が一斉に放たれた。































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