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王都

115.箱庭という名の……

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箱庭に向かう途中では、巡回をしていたらしい私兵が倒れていた。
その姿に、戦々恐々としながら、私はアリエルの後ろをひたすら走って追いかける。
一体どうやって私兵達を再起不能にしたのか……。
恐らくは彼女の薬品のせいだと思うけど、敢えて聞くのも怖いし時間がない。
そう思い、考えないようにした。

「ここです!この扉の向こう!」

行き止まりの扉の前で、アリエルは振り返った。
その扉もさっきの地獄の門のように、不気味な装飾がされている。
私はアリエルの前に出て、颯爽と扉を開けようと試みた。
でも、全体重をかけて押してもびくともしない。
力が足りなかったのかしらね?
もう一度力を入れて押せば……。

「シルベーヌ様………あの……」

後ろからアリエルが、申し訳無さそうに声をかけてくる。

「何!?もう、この扉、全然動かないわ!どういうこと!?」

憤慨する私をチラッとみて、アリエルは扉を
すると……わりと簡単に扉は開いた。

「い、嫌だわ!騙されたわ!」

恥ずかしさの余りそう口走ったけど、もちろん騙されてなどいないのは知っている。
………是非これからは、扉に押すか引くかを明確に書いておいて貰いたいわね!
私のようなせっかちさんのために!
でも、この件に関して、アリエルもスピークルムも何も言わなかった。
その理由は、開いた扉の先にあった箱庭の異常な様子のせいだ。


淀んだ空気。
どこかから聞こえる鎖を引き摺る音。
悲鳴に似た啜り泣く声。
………箱庭。
そう呼ぶからには、もっと明るく清潔感溢れるものだと勝手に思っていた。
美しいものが好きな王なら、そうするかもと。
だけど、目の前に広がる光景はもう……地獄と言ってもいいようなものだった。

奥までびっしりと並んだ鉄の檻。
中は薄暗く、ランプが所々あるのみだ。
私は間近な檻の中を伺った。
その檻の扉は開いていて、南京錠が何かで焼ききられたような跡がある。
咄嗟にそれが、アリエルがいた檻で、持っていた薬品を使って脱出したのだと気付いた。
次に、その檻の真正面を確かめる。
すると、そこにはうすぼんやりとした中に座り込む、白いドレスの女性の姿があった。
よく見ると、その片足には行動を制限するための鎖がつけられている。

「あなた!ねぇ!大丈夫!?返事をして!」

鉄柵にすがって、声をかけた。
白いドレスの女性は、力なく顔を上げる。
私は、その面影に見覚えがあった。
サクリス!!そう、彼に似ている!

「フロール王女??フロール王女でしょう!?」

彼女の瞳が完全に私を捉え、足を引き摺りながら、こちらへ身を寄せた。

「フロール王女!?」

「…………はい…………」

フロールは弱々しくこちらを見上げる。

「助けに来ましたよ!今、あなたの兄、サクリスも戦っています。さぁ、あと少し、頑張って脱出しましょう!!」

「…………お、にいさま……が?」

フロールの目に少し輝きが戻った。
虚ろな瞳に光が灯り、自身の肩を抱きながら震えて涙を溢している。

「さぁ!立ち上がって下さい、出来ますか?」

「……ええ!もちろんですとも!!」

フロールは鉄柵を掴み、ふらつく体を支えながらゆっくりと立ち上がった。











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