助けた騎士団になつかれました。

藤 実花

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王都

107.憂い

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ナーデルから王都へ入ると、そこは更に閑散としていた。
初めてここに来たときには、もう少し活気があったはず。
フードの下から見えた景色は、もう少し華やかだった気がしたのに……。
こんな短い間に、一体どうしてしまったんだろう。
そんな私の疑問は、ローケンが口にした。

「王都とは、いつもこんな?」

抽象的な疑問だったが、ルイはその意図にすぐ気づいた。

「最近は……大体そうですね。以前は、こんなことなかったのですよ。先王の時代は、それは見事な都で……おっと、口が滑りました。忘れて下さい」

「ええ。そうしましょう」

2人の男は、無言で車外を眺めた。


やがて、馬車は大通りに入った。
本来なら、大きな店が立ち並び、華やかなドレスを来た夫人や、パリッとしたスーツの紳士が往来するであろう場所。
だけど、実際は閉店の札が掛けられた店舗と、物乞いのように座り込む疎らな人々が見えるだけだった。

「……どうしてこんな状態に?」

思わずルイへ問いかけた。
これはあまりにも酷すぎる。
廃墟寸前じゃないの!

「……私兵が幅を利かせるようになってから、やつらが好き放題し始めて、治安がとても悪くなりました。大通りでも略奪が始まり、商人は逃げるように去っていきました。城を守る衛兵も各領地からの志願兵ですから、早々に立ち去ってしまい……もう、王都は無法地帯なのですよ。シルベーヌ様、私は……出来ることならここから引き返すことをお勧めしたい!ですが、そうすれば、最後の望みも絶たれるような気がするのです。皆さんが何を計画しているのか知りませんが、ここまで来たら、誰かが引導を渡さなくては……と、思うのです」

ルイの切実な声が、私の胸を軋ませた。
全盛期から没落までをこの短期間で見てきたのだ。
その辛い思いは私には想像もつかない。
だけどたった1つ、私にもわかることがある。
何が間違っていて何が正しいのか、ということを。
ヴァーミリオンで見た、鮮やかで楽しい熱気を。
あれこそが、町のあるべき姿のはず。
その民の姿を喜びとすることが、施政者たるものの最大の務めなのだから。

決意を新たにした私の目に、やがて王宮が映った。
何も知らずに来たあの時、王宮はとてもきらびやかに見えたけど、その裏でこんな事件が起きていようとは夢にも思わなかった。
知らないというのは、怖いことだわ。
だから、知って、正しいことをしよう。
騎士団が私に力を貸してくれる。
うん、大丈夫、怖くない。


馬車は大きな門をくぐり、正面に着いた。
待ち構えていたのは、派手な身なりの私兵で、ルイの顔が嫌悪に歪んだ。
 
「お前達はどうして表にいるのだ?」

ルイの問いに、私兵の男が答えた。

「王の命令でな、冥府の女を見てこいってさ。どうやら美しく化けたらしいな。取り入りたいのかね?」

男はイヤらしい笑みを浮かべた。

「シルベーヌ様に無礼であろう!そこをどけ!宰相様に呼ばれておるのだ」

「ふぅん……ま、いいけどよ」

男はアッサリと引き下がり、どうぞ、と、おどけた仕草をする。
馬車に座り直したルイは溜め息をついて、そっとローケンに心中を吐露した。

「情けない……ラシュカがこのような国になろうとは誰が思ったでしょう……」

「ルイ殿……」

「すみません。シルベーヌ様も、ローケン殿も……いけませんね。つい愚痴を溢してしまいました……」

「いいのですよ。国を憂いている者がいる。それは、国にとっては希望です。まだ、やり直せるということなのですから」

「……そうでしょうか?」

「そうですとも!さぁ、シルベーヌ様と私を王宮へ案内してください」

「………そうしましょう」

ルイは、弱々しく笑って馬車の扉を開けた。




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