107 / 169
王都
107.憂い
しおりを挟む
ナーデルから王都へ入ると、そこは更に閑散としていた。
初めてここに来たときには、もう少し活気があったはず。
フードの下から見えた景色は、もう少し華やかだった気がしたのに……。
こんな短い間に、一体どうしてしまったんだろう。
そんな私の疑問は、ローケンが口にした。
「王都とは、いつもこんな?」
抽象的な疑問だったが、ルイはその意図にすぐ気づいた。
「最近は……大体そうですね。以前は、こんなことなかったのですよ。先王の時代は、それは見事な都で……おっと、口が滑りました。忘れて下さい」
「ええ。そうしましょう」
2人の男は、無言で車外を眺めた。
やがて、馬車は大通りに入った。
本来なら、大きな店が立ち並び、華やかなドレスを来た夫人や、パリッとしたスーツの紳士が往来するであろう場所。
だけど、実際は閉店の札が掛けられた店舗と、物乞いのように座り込む疎らな人々が見えるだけだった。
「……どうしてこんな状態に?」
思わずルイへ問いかけた。
これはあまりにも酷すぎる。
廃墟寸前じゃないの!
「……私兵が幅を利かせるようになってから、やつらが好き放題し始めて、治安がとても悪くなりました。大通りでも略奪が始まり、商人は逃げるように去っていきました。城を守る衛兵も各領地からの志願兵ですから、早々に立ち去ってしまい……もう、王都は無法地帯なのですよ。シルベーヌ様、私は……出来ることならここから引き返すことをお勧めしたい!ですが、そうすれば、最後の望みも絶たれるような気がするのです。皆さんが何を計画しているのか知りませんが、ここまで来たら、誰かが引導を渡さなくては……と、思うのです」
ルイの切実な声が、私の胸を軋ませた。
全盛期から没落までをこの短期間で見てきたのだ。
その辛い思いは私には想像もつかない。
だけどたった1つ、私にもわかることがある。
何が間違っていて何が正しいのか、ということを。
ヴァーミリオンで見た、鮮やかで楽しい熱気を。
あれこそが、町のあるべき姿のはず。
その民の姿を喜びとすることが、施政者たるものの最大の務めなのだから。
決意を新たにした私の目に、やがて王宮が映った。
何も知らずに来たあの時、王宮はとてもきらびやかに見えたけど、その裏でこんな事件が起きていようとは夢にも思わなかった。
知らないというのは、怖いことだわ。
だから、知って、正しいことをしよう。
騎士団が私に力を貸してくれる。
うん、大丈夫、怖くない。
馬車は大きな門をくぐり、正面に着いた。
待ち構えていたのは、派手な身なりの私兵で、ルイの顔が嫌悪に歪んだ。
「お前達はどうして表にいるのだ?」
ルイの問いに、私兵の男が答えた。
「王の命令でな、冥府の女を見てこいってさ。どうやら美しく化けたらしいな。取り入りたいのかね?」
男はイヤらしい笑みを浮かべた。
「シルベーヌ様に無礼であろう!そこをどけ!宰相様に呼ばれておるのだ」
「ふぅん……ま、いいけどよ」
男はアッサリと引き下がり、どうぞ、と、おどけた仕草をする。
馬車に座り直したルイは溜め息をついて、そっとローケンに心中を吐露した。
「情けない……ラシュカがこのような国になろうとは誰が思ったでしょう……」
「ルイ殿……」
「すみません。シルベーヌ様も、ローケン殿も……いけませんね。つい愚痴を溢してしまいました……」
「いいのですよ。国を憂いている者がいる。それは、国にとっては希望です。まだ、やり直せるということなのですから」
「……そうでしょうか?」
「そうですとも!さぁ、シルベーヌ様と私を王宮へ案内してください」
「………そうしましょう」
ルイは、弱々しく笑って馬車の扉を開けた。
初めてここに来たときには、もう少し活気があったはず。
フードの下から見えた景色は、もう少し華やかだった気がしたのに……。
こんな短い間に、一体どうしてしまったんだろう。
そんな私の疑問は、ローケンが口にした。
「王都とは、いつもこんな?」
抽象的な疑問だったが、ルイはその意図にすぐ気づいた。
「最近は……大体そうですね。以前は、こんなことなかったのですよ。先王の時代は、それは見事な都で……おっと、口が滑りました。忘れて下さい」
「ええ。そうしましょう」
2人の男は、無言で車外を眺めた。
やがて、馬車は大通りに入った。
本来なら、大きな店が立ち並び、華やかなドレスを来た夫人や、パリッとしたスーツの紳士が往来するであろう場所。
だけど、実際は閉店の札が掛けられた店舗と、物乞いのように座り込む疎らな人々が見えるだけだった。
「……どうしてこんな状態に?」
思わずルイへ問いかけた。
これはあまりにも酷すぎる。
廃墟寸前じゃないの!
「……私兵が幅を利かせるようになってから、やつらが好き放題し始めて、治安がとても悪くなりました。大通りでも略奪が始まり、商人は逃げるように去っていきました。城を守る衛兵も各領地からの志願兵ですから、早々に立ち去ってしまい……もう、王都は無法地帯なのですよ。シルベーヌ様、私は……出来ることならここから引き返すことをお勧めしたい!ですが、そうすれば、最後の望みも絶たれるような気がするのです。皆さんが何を計画しているのか知りませんが、ここまで来たら、誰かが引導を渡さなくては……と、思うのです」
ルイの切実な声が、私の胸を軋ませた。
全盛期から没落までをこの短期間で見てきたのだ。
その辛い思いは私には想像もつかない。
だけどたった1つ、私にもわかることがある。
何が間違っていて何が正しいのか、ということを。
ヴァーミリオンで見た、鮮やかで楽しい熱気を。
あれこそが、町のあるべき姿のはず。
その民の姿を喜びとすることが、施政者たるものの最大の務めなのだから。
決意を新たにした私の目に、やがて王宮が映った。
何も知らずに来たあの時、王宮はとてもきらびやかに見えたけど、その裏でこんな事件が起きていようとは夢にも思わなかった。
知らないというのは、怖いことだわ。
だから、知って、正しいことをしよう。
騎士団が私に力を貸してくれる。
うん、大丈夫、怖くない。
馬車は大きな門をくぐり、正面に着いた。
待ち構えていたのは、派手な身なりの私兵で、ルイの顔が嫌悪に歪んだ。
「お前達はどうして表にいるのだ?」
ルイの問いに、私兵の男が答えた。
「王の命令でな、冥府の女を見てこいってさ。どうやら美しく化けたらしいな。取り入りたいのかね?」
男はイヤらしい笑みを浮かべた。
「シルベーヌ様に無礼であろう!そこをどけ!宰相様に呼ばれておるのだ」
「ふぅん……ま、いいけどよ」
男はアッサリと引き下がり、どうぞ、と、おどけた仕草をする。
馬車に座り直したルイは溜め息をついて、そっとローケンに心中を吐露した。
「情けない……ラシュカがこのような国になろうとは誰が思ったでしょう……」
「ルイ殿……」
「すみません。シルベーヌ様も、ローケン殿も……いけませんね。つい愚痴を溢してしまいました……」
「いいのですよ。国を憂いている者がいる。それは、国にとっては希望です。まだ、やり直せるということなのですから」
「……そうでしょうか?」
「そうですとも!さぁ、シルベーヌ様と私を王宮へ案内してください」
「………そうしましょう」
ルイは、弱々しく笑って馬車の扉を開けた。
0
お気に入りに追加
2,687
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。
朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。
傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。
家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。
最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「結婚しよう」
まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。
一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。
子爵令嬢は高貴な大型犬に護られる
颯巳遊
恋愛
子爵令嬢のシルヴィアはトラウマを抱えながらも必死に生きている。それに寄り添う大型犬のようなカインに身も心も護られています。
自己完結で突っ走る令嬢とそれを見守りながら助けていく大型犬の恋愛物語
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される
佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。
異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。
誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。
ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。
隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。
初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。
しかし、クラウは国へ帰る事となり…。
「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」
「わかりました」
けれど卒業後、ミアが向かったのは……。
※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる