助けた騎士団になつかれました。

藤 実花

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王都

106.君の騎士はここに(ディラン)

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きっとローケンに怒られるな……。
あれほど、目立たぬように言われていたのに、大勢でシルベーヌ様を見送るなんて。
だが、隠れ家でじっとしてることなど俺達には出来なかった。

黒い馬車が停まった宿屋の戸口から、最初にフォード家の執事が出てくる。
斜め向かいの民家から様子を伺う騎士団に気付いた様子はない。
そして、その後ろからローケンに手を引かれたシルベーヌ様が現れた。
ウィレムの仕立てた深い青のドレスを着て、俺の送った首飾りを胸に、少し不安げに歩いている。

「いゃあん、素敵!シルベーヌ様、よく着こなしているわ!あれほどの濃い青に負けないなんてさすがよね?そう思わない?だんちょ?」

いつの間にか、俺の背後にはウィレムが陣取っていて、興奮のあまり背中をバンバン叩いてくる。
痛いし、うるさい!
本人は小声のつもりだろうが、甲高いから建物に反響するんだよ!

「ウィレム、静かにしろ!目立ってしまう!」

「あらっ、はーい。ウィレム、お口チャックしまーす」

と、人差し指でバッテンを作って見せた。
可愛いつもりか?少し引くぞ?
気を取り直して、俺達はシルベーヌ様に視線を移した。
すると、さっきの声に気付いたのか、ローケンが眼光鋭くこちらを睨んでいる!
まずい!
あいつは怒らせると怖い。
それは、幼馴染みの俺が一番良くわかっている。
昔、学校の授業を妨害した隣の席のやつを次の日転校させたこともある。
家の都合で、なんて嘘だろう。
あの優秀な頭脳で、ありとあらゆる策を講じ追い払ったんだ。
思えば昔から死神と呼ばれていたな、ああ怖い。

そんな死神に睨まれながらも、俺はシルベーヌ様を盗み見た。
俺の上にはクレバードが下にはロビー、そのまた下にはヒューゴが。
建物の角から顔だけ覗かせている光景は、向こうから見たらかなりおかしいだろうな。
だが!
俺達の(俺の)シルベーヌ様を、見送るのは騎士団の務め!!
ローケンに睨まれようが、止めるわけにはいかないのだ!

「シルベーヌ様、大丈夫でしょうか?」

頭上からクレバードが言った。

「大丈夫だろ?何かあればすぐ駆けつけりゃいい!王宮の私兵なんて、屁だわ。俺達は最強だぜ?」

下でロビーが意気込んだ。

「そうですよ。今回は僕も戦闘に参加しますからね!シルベーヌ様にカッコいいところを見てもらわないと!」

ヒューゴ、ある意味お前が最強かもしれないな……。
鼻息も荒いヒューゴに微笑みながら、俺はシルベーヌ様を見る。
すると、ふと、視線を逸らしたシルベーヌ様がこちらを見た!

(シルベーヌ様!!君の騎士はここだぞ!!心配ない!!皆付いてるからな!)

きっとその時、騎士団全員がそう思ったに違いない。
俺達の気持ちを確かに感じ取っていたシルベーヌ様は、不安げだった目をふっと細め、優雅に美しく微笑んだ。





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