助けた騎士団になつかれました。

王都

１０２．ディランの怖れるもの

下敷きは効果抜群だった。
ドミニオンも然程違和感がなかったのか平然と走り、私のお尻への衝撃も格段に減った。

それからは休むことなく走り続け、日が傾きかけた頃、ナーデルの町に辿り着いた。
町は王都近くのわりには寂れていて、普通は仕事帰りでごった返すだろう大通りも、人影は疎らだった。
これも王の愚行の影響なのかしら？

あまりに人が少なく目立つので、ディラン以外はここから少し離れた隠れ家に直行することになった。
ディランと私は、ローケンの乗った馬車に並走し、大通りの真ん中にある宿屋の前に到着した。

「では私とシルベーヌ様は宿屋に。ディラン、あなたは例の隠れ家へ……あとは、計画通りに」

ローケンは馬車から降りると、ドミニオンに近付き言った。

「ローケン、少し時間をもらえるか？」

と、ディランが言う。

「……いいですよ。でも宿屋の中に入ってからにしましょう……出来るだけ手短に」

ディランは頷くと、私をドミニオンから下ろし、手を引いて宿屋の中に向かった。
宿屋は、必要な物以外は何もなく、店番も女将が一人いるだけで、こじんまりとしている。
後から入ってきたローケンが、女将に押さえていた部屋番を告げると、二つの木の鍵が手渡された。
それを受けとり３人は二階へと向かう。

「シルベーヌ様はそちら、私はこちら。用があれば声を掛けてください……ディラン、手短に」

「わかっている」

そう念を押すとローケンは自室に消えた。
私も預かった木の鍵を、ローケンと同じ様に差し込み中に入った。
もちろんディランも一緒に。

殺風景な灰色の壁に、一対のテーブルセット。
後は狭めの一人用ベッドが窓の近くにおいてある。
窓からは、大通りが見下ろせたけど、やはり人は少なかった。

「シルベーヌ様」

「はい？」

私は椅子に腰かけずに、ベッドに座った。

「俺は死んでから怖いものは何もない。王を弑することも厭わない。いや王だけでなく誰であっても同じだ」

「………うん」

「だが、怖いものが一つだけある」

「なに？」

「シルベーヌ様を失うこと」

「ん？」

「シルベーヌ様がいなくなってしまうこと。それが怖い……それだけが怖いんだ」

ディランはベッドに座った私の前までやって来た。
見上げた彼の瞳は、ユラユラと揺らめき、その直後間近に迫り私の鼓動を少し速める。
それからディランはストンと跪き、私の手を取り、祈るように言った。

「だから……絶対に死なないで欲しい。どんなことをしても、生きていて欲しいんだ。何よりも自分を守ると！ここで俺に約束してくれ！」