上 下
100 / 169
ヴァーミリオン領

100.渦巻く陰謀!?王都へ向かって

しおりを挟む
子爵邸、応接室ーー 

「それでは、皆さん。各々準備は良いでしょうか?」

ローケンの問いに、私、ディラン、サクリスが頷く。

ガストからの便りが届いた翌日、全ての準備を整え、関係者全員がここに集結した。

王都へは馬で約1日かかり、途中、王都最寄りの町ナーデルに駐留し、そこで迎えを待つ。

それぞれの役割としてはこうだ。
私は、ガストからの使者を待ちそれから王宮へ。
騎士団は、一旦ナーデルで待機し、先に潜入した私やアリエルからの連絡を待って王都に進撃。
サクリスは、一旦ナシリスへ向かい手勢を揃えてから騎士団と王都で合流。
ローケンは、私の側近として一緒に王宮へ侵入するという手筈だ。

「ここから先は、時間との戦いです。シルベーヌ様達が潜入してから、1日が勝負だと思って下さい」

「元より短期決戦だと思っている!あの愚王の側にシルベーヌ様がいるなんて、考えただけでもおぞましい!」

「なんだ、復活しやがって……まぁ、オレ達も心得てるぜ。まかせときな、シルベーヌとフロールは必ず助ける!」

ディランとサクリスの間には見えない火花が散った。
ローケンはやれやれまたか、という顔をし肩を竦めた。

「それでは皆さん。段取り通りにお願いします。では、表に向かいましょうか!」

ローケンは、サクリスとディランに向かって、優雅に『どうぞ』と先を譲った。
サクリスとディランはどちらが先に出るかというくだらない事で揉めた結果、家主であるディランがその権利を得た。
勝ち誇ったようなディラン。
舌打ちをしたサクリス。
私とローケンが、後ろで冷たい目をしていたことなど、きっと彼らは知らないわね。


表玄関を出ると、そこにはピシッと隊服を着た騎士団がフォーサイスを先頭に整列している。
総勢100名が並ぶ姿は壮観で、私は、改めてヴァーミリオン騎士団が王国最強だと知ることになった。

ディランは一番前で誇らしく鬣をなびかせたドミニオンを撫で、領主らしく、また、団長らしく檄を飛ばした。

「我らヴァーミリオン騎士団は、これより、人の理に背く者を退治しに行く!我らこそ正義、正義は我らにある!そして、シルベーヌ様が安心して暮らせる世界を我らが創るのだ!」

「だから、どうして私の名を出すの!?」

思わず出た本音は、その後の大地が揺れるような咆哮にかきけされた。
どこかで聞いたわね……ああ、ムーンバレーと同じじゃない?
でも人が多いぶん、こっちの方が派手で恥ずかしいわ。
これでまた名前を連呼なんてされたら……。
そう思っていた私の肩をディランがグイッと抱き寄せ、雄叫びを上げた。

「シルベーヌ様のために!!」

げっ!やっぱりそう来るのね!?

「シルベーヌ様のためにーー!!」
「うぉーーシルベーヌ様のために!」
「シルベーヌ様ぁ!!」

騎士団のシルベーヌ連呼は、出立の鐘の音を完全に消した。
ムーンバレーでは、谷だから響くのかなと思ったけど、それは関係なかったらしい。
騎士団の咆哮はここ、ヴァーミリオンでも絶好調に響いている。
むぅ……ここまでされると、私も何かやりたくなってきた!
ちょっと昂ってるのかしら!?
そして!気分が乗った勢いそのままに、私は右腕をグッと天に突き立て言った。

「がんばろーー!ね?」

その一言は余計だったかもしれない……。
と思ったけど既に遅し。
一拍の空白の後、地鳴りと共に起こった再度のシルベーヌ連呼。
それは、子爵邸を揺らしヴァーミリオン領に軽い地震を起こしたのだった……。















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します

大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。 「私あなたみたいな男性好みじゃないの」 「僕から逃げられると思っているの?」 そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。 すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。 これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない! 「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」 嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。 私は命を守るため。 彼は偽物の妻を得るため。 お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。 「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」 アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。 転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!? ハッピーエンド保証します。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

処理中です...