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ヴァーミリオン領
99.ウィレム姉さん
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ドレスは、予め採寸したかのように、私の体にぴったりと合った。
『着ている』という言葉は相応しくないわ。
もう体の一部みたいに馴染み、着心地も何もかもが最高だった!
「シルベーヌ様?もういい?」
ウィレムが外から声をかける。
「あ、はーい。出ていくわ」
薄いカーテンを開けると、床に新しい靴が用意されていた。
靴はドレスと同じ深い青。
踵の部分に漆黒の蝶のモチーフが付いていて、私はゆっくりと足を入れた。
ひんやりとした感触が優しく足を包みそこには僅かな違和感すら感じられない。
ひょっとしたら、寝てる間に足形も取ったのかしら……うん、ウィレムならやってそう。
一人で納得し顔を上げると、指を組んでうっとりと見下ろすウィレムと目が合った。
「素敵。私のドレスも最高だけど、素材がいいと効果は倍増ね!」
「そ、そう?大丈夫かしら?昼間だし、私貧相じゃない?」
「貧相??全然?」
ウィレムは、顔の前で手をブンブンとふった。
「可愛いわぁ、美しいわぁ、さすが私達のシルベーヌ様ね?だんちょ?あ、あら?」
ウィレムが振り向いた先には、柱の影に隠れたディランが、半分だけ目を覗かせている。
隠れているの!?その努力は無駄よ?
だって、殆んど見えてるもの!!
「だんちょー……何してるの?早くこっちに来て、シルベーヌ様を見なさいよ!もう、変なとこで弱腰ねぇ?」
ほんとね、いつもグイグイくるのにね?
「う、うん、ああ。うん」
挙動不審なディランが、のそのそとやって来た。
彼は面白いくらい遠慮していて、目が泳いでいる。
「ディラン?変よ?どうしたの?」
見るに見かねて、声をかけてしまった。
「大丈夫よ。シルベーヌ様の美しさが真っ直ぐ見れないだけよー。うふふ、初恋って、厄介よね?」
ウィレムは人差し指を頬にあて、ニンマリとしながら、私に囁いた。
やがて、目の前にやって来たディランは、息も絶え絶えに声を振り絞った。
「………とてもっ!………きれいだっ!」
「どっ、どうもっ!ありがとうっ!」
ディランの緊張が伝染した私は、力の限り叫んでしまった。
そして、俯いてしまったディランの前で、私もなぜか俯いてしまう。
そんな2人をウィレムは楽しそうに囃し立てた。
「いやん!青春!初恋!甘酸っぱい!だけど、時間も押してるからやることやっちゃいましょ?」
「やること!?」
ディランは大声で叫んだ。
「………お直しよ?……全く、何を想像したのかしら?イヤらしい……」
ウィレムは顔をしかめ、ディランを見た。
「いや、別に何も想像してないっ!何もな!」
「ふぅーん……」
ウィレムはジト目をして、私のドレスの撓みや引きつりを点検していった。
「ふふふ、さすが私。殆んど直すところがないわ!ただ一つ、腰回りだけはどうしたのかしらね?キツいわ」
うっ!!
「腰回り」それは禁句よ、ウィレム姉さん!
案の定、ハッとしたディランがここぞとばかりにウィレムに言った。
「そうなんだ!実は朝大広間でな、シルベーヌ様の腰回りがでかくなったと話題に上がってな!」
ディランは、それはもう嬉々として語った。
今朝大広間にいなかったウィレムに教えたかったのね。
だけど、ウィレムの反応は、ディランの欲しかったものではなかった!
「はぁ!?バッカじゃないの?腰回りがでかくなったなんて、女の子に言うもんじゃないのよ!あー!もう、男ってほんとバカ!」
「え………そ、そうなのか……」
ウィレムに怒鳴られてディランは私を見た。
その目は、怯えている。
「うーん、まぁ、ヒョロガリだからいいんだけど……あんまり腰回りを見られたり、話題にされるのはちょっとね……」
と言うと、ディランは「ガーン」という効果音が出そうなくらい落ち込んだ。
「ふんっ!落ち込むといいわ。もっとデリカシーというものを覚えるのね!」
バシッと言い切ったウィレムは、腰回りに巻き尺を当て、採寸をし直した。
そして、ふんふんと鼻唄を歌いながら何かを書き出すと、満足したように顔をあげた。
「これでいいわ。すぐに直しておくからねっ」
「ありがとう!」
「うふふ、王都に乗り込んで華麗に王様を誘惑しちゃいましょ?そしてー!ぶっ倒すっ!!」
ウィレムは拳を握り込むと、おどけてネコパンチを繰り出した。
そのパンチはとても可愛かった。
だけど最後の「ぶっ倒す!」はドスが聞いていたよ……ウィレム姉さん……。
『着ている』という言葉は相応しくないわ。
もう体の一部みたいに馴染み、着心地も何もかもが最高だった!
「シルベーヌ様?もういい?」
ウィレムが外から声をかける。
「あ、はーい。出ていくわ」
薄いカーテンを開けると、床に新しい靴が用意されていた。
靴はドレスと同じ深い青。
踵の部分に漆黒の蝶のモチーフが付いていて、私はゆっくりと足を入れた。
ひんやりとした感触が優しく足を包みそこには僅かな違和感すら感じられない。
ひょっとしたら、寝てる間に足形も取ったのかしら……うん、ウィレムならやってそう。
一人で納得し顔を上げると、指を組んでうっとりと見下ろすウィレムと目が合った。
「素敵。私のドレスも最高だけど、素材がいいと効果は倍増ね!」
「そ、そう?大丈夫かしら?昼間だし、私貧相じゃない?」
「貧相??全然?」
ウィレムは、顔の前で手をブンブンとふった。
「可愛いわぁ、美しいわぁ、さすが私達のシルベーヌ様ね?だんちょ?あ、あら?」
ウィレムが振り向いた先には、柱の影に隠れたディランが、半分だけ目を覗かせている。
隠れているの!?その努力は無駄よ?
だって、殆んど見えてるもの!!
「だんちょー……何してるの?早くこっちに来て、シルベーヌ様を見なさいよ!もう、変なとこで弱腰ねぇ?」
ほんとね、いつもグイグイくるのにね?
「う、うん、ああ。うん」
挙動不審なディランが、のそのそとやって来た。
彼は面白いくらい遠慮していて、目が泳いでいる。
「ディラン?変よ?どうしたの?」
見るに見かねて、声をかけてしまった。
「大丈夫よ。シルベーヌ様の美しさが真っ直ぐ見れないだけよー。うふふ、初恋って、厄介よね?」
ウィレムは人差し指を頬にあて、ニンマリとしながら、私に囁いた。
やがて、目の前にやって来たディランは、息も絶え絶えに声を振り絞った。
「………とてもっ!………きれいだっ!」
「どっ、どうもっ!ありがとうっ!」
ディランの緊張が伝染した私は、力の限り叫んでしまった。
そして、俯いてしまったディランの前で、私もなぜか俯いてしまう。
そんな2人をウィレムは楽しそうに囃し立てた。
「いやん!青春!初恋!甘酸っぱい!だけど、時間も押してるからやることやっちゃいましょ?」
「やること!?」
ディランは大声で叫んだ。
「………お直しよ?……全く、何を想像したのかしら?イヤらしい……」
ウィレムは顔をしかめ、ディランを見た。
「いや、別に何も想像してないっ!何もな!」
「ふぅーん……」
ウィレムはジト目をして、私のドレスの撓みや引きつりを点検していった。
「ふふふ、さすが私。殆んど直すところがないわ!ただ一つ、腰回りだけはどうしたのかしらね?キツいわ」
うっ!!
「腰回り」それは禁句よ、ウィレム姉さん!
案の定、ハッとしたディランがここぞとばかりにウィレムに言った。
「そうなんだ!実は朝大広間でな、シルベーヌ様の腰回りがでかくなったと話題に上がってな!」
ディランは、それはもう嬉々として語った。
今朝大広間にいなかったウィレムに教えたかったのね。
だけど、ウィレムの反応は、ディランの欲しかったものではなかった!
「はぁ!?バッカじゃないの?腰回りがでかくなったなんて、女の子に言うもんじゃないのよ!あー!もう、男ってほんとバカ!」
「え………そ、そうなのか……」
ウィレムに怒鳴られてディランは私を見た。
その目は、怯えている。
「うーん、まぁ、ヒョロガリだからいいんだけど……あんまり腰回りを見られたり、話題にされるのはちょっとね……」
と言うと、ディランは「ガーン」という効果音が出そうなくらい落ち込んだ。
「ふんっ!落ち込むといいわ。もっとデリカシーというものを覚えるのね!」
バシッと言い切ったウィレムは、腰回りに巻き尺を当て、採寸をし直した。
そして、ふんふんと鼻唄を歌いながら何かを書き出すと、満足したように顔をあげた。
「これでいいわ。すぐに直しておくからねっ」
「ありがとう!」
「うふふ、王都に乗り込んで華麗に王様を誘惑しちゃいましょ?そしてー!ぶっ倒すっ!!」
ウィレムは拳を握り込むと、おどけてネコパンチを繰り出した。
そのパンチはとても可愛かった。
だけど最後の「ぶっ倒す!」はドスが聞いていたよ……ウィレム姉さん……。
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