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ヴァーミリオン領
93.覚えておいて欲しい
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「君が好きだ」
ディランは、真剣な眼差しで私に言った。
ん?ということは?
ディランが好きで告白したい人って、私ということになりますが?
「わっ?私?………がど、で、すか?」
噛んだ………今、この場面でこんな恥ずかしいことがあろうか……。
「シルベーヌ様がこの世で一番大切だ」
ディランはこんな恥ずかしい私にツッコミもせず、爽やかに微笑む……。
違う……その対応は余計に恥ずかしくなるやつです。
もし、今、スピークルムがこれを聞いていれば、けたたましいファンファーレを鳴らし、クラッカーまで鳴らして煩く冷やかしたに違いない。
そうだったら、いくらか私の気も楽だった。
でも、実際は静まり返った応接室に、恥ずかしさで死にそうな私と、そんな私を微笑みで殺そうとするディランとの一対一である。
「…………………そ、そっ、それはどういった種類のアレかしら?」
私は話題を変えることを試みた!
すると今度は声が上擦った!
もう……やだ。
「アレとは?」
「あの、ほら!ええと、《好き》の種類?……ほんのかるーい《好き》から結婚したい、一生添い遂げたいくらいのおもーい《好き》……どっち?まさか、重い方?」
それはないわよ、ねぇ?
出会って間もないヒョロガリに、そこまでの感情があるわけないわよね?と思っていると、ディランの顔がぱあっと綻んだ。
「勿論そうだ!シルベーヌ様が、受け入れてくれるなら、俺の方は(もうかなり前から)準備万端だ!!」
何の準備が万端なんです?
相手の了承を得る前にどんな計画が進行しているんです!?
ディランのひたすら重い愛情表現が、どうやら本気の愛であることが判明したけど、当の私と言えば……。
かれこれ18年、じめじめした冥府で、のほほんと暮らし、愛やら恋やらの相手もいない上に、特にそういったものに憧れもなかった。
王宮で日がな一日、モヤシを栽培しながら、地上の図鑑を読み漁るのが日課の……そんな私に突然のモテ期なんて。
青天の霹靂ですよ?
恋愛のやり方すら知らないんですけど、これ、どうしたら?
でも、今はまず……目の前で煌めきを振り撒き続ける彼に、何か答えを返さなくてはいけない……よね?
私はディランを真っ直ぐ見て、心のままに答えた。
「………わかりません」
これは本音です。
「………わからないとは?」
「ディランに同じ気持ちを返せるかがわからないの……」
「……俺のこと、嫌いか?」
途端に煌めきが失われ、青い瞳が曇った。
「嫌いじゃないわ!寧ろ好感を持ってる。例えば……号令を出すときなんかカッコいいと思うし、目がきれいだなーとか、キラキラしてるなー、とか。たまに眩しすぎることがあるけど、それで見とれちゃったりすることもあるし……」
そして、ドキドキすることもある。
とは言わずにおいた。
そのことをいうのが恥ずかしかったし、言ってしまえば、何かが根本から変わるような気がして怖かった。
言葉を失って沈黙した私に、ディランは恐る恐る尋ねた。
「サクリス殿下よりは、好感を持たれているのだろうか?」
「え?なんでサクリス?……まぁ、そうね、ディランの方が、ね」
実際、ドキドキするのはディランだけで、サクリスにはそういうのはなかったような気がする。
「ふ…………」
ディランは口の端を上げて一言発し、それから、堰を切ったように笑いだした。
「ふははははははっ!あははははっ!」
「ディラン!?壊れたの?」
「いや、あははっ、大丈夫!何でもない。何でもないんだ。壊れてないよ!ああ、ふぅん、そうか、うん、よし」
だから、何が「よし」なの?
「今はそれで十分だ。シルベーヌ様、俺はやっぱり君が好きだよ。何があってもこれは変わらない、それを覚えておいて欲しい」
「あ……はい、うん。ありがとう。覚えておくね」
と、良くわからない答えを返す私。
ただ、ディランの機嫌は頗る良い。
笑いが収まった後も、ニヤリとしたり、やたら思い出し笑いをする。
少し気持ち悪い……けど、それも機嫌が直った証拠。
私は役目を終え、ほっと胸を撫で下ろした。
ただ、それとともに、胸の内に生まれたじんわりと暖かい何かが、そっと疼くのも感じていた。
ディランは、真剣な眼差しで私に言った。
ん?ということは?
ディランが好きで告白したい人って、私ということになりますが?
「わっ?私?………がど、で、すか?」
噛んだ………今、この場面でこんな恥ずかしいことがあろうか……。
「シルベーヌ様がこの世で一番大切だ」
ディランはこんな恥ずかしい私にツッコミもせず、爽やかに微笑む……。
違う……その対応は余計に恥ずかしくなるやつです。
もし、今、スピークルムがこれを聞いていれば、けたたましいファンファーレを鳴らし、クラッカーまで鳴らして煩く冷やかしたに違いない。
そうだったら、いくらか私の気も楽だった。
でも、実際は静まり返った応接室に、恥ずかしさで死にそうな私と、そんな私を微笑みで殺そうとするディランとの一対一である。
「…………………そ、そっ、それはどういった種類のアレかしら?」
私は話題を変えることを試みた!
すると今度は声が上擦った!
もう……やだ。
「アレとは?」
「あの、ほら!ええと、《好き》の種類?……ほんのかるーい《好き》から結婚したい、一生添い遂げたいくらいのおもーい《好き》……どっち?まさか、重い方?」
それはないわよ、ねぇ?
出会って間もないヒョロガリに、そこまでの感情があるわけないわよね?と思っていると、ディランの顔がぱあっと綻んだ。
「勿論そうだ!シルベーヌ様が、受け入れてくれるなら、俺の方は(もうかなり前から)準備万端だ!!」
何の準備が万端なんです?
相手の了承を得る前にどんな計画が進行しているんです!?
ディランのひたすら重い愛情表現が、どうやら本気の愛であることが判明したけど、当の私と言えば……。
かれこれ18年、じめじめした冥府で、のほほんと暮らし、愛やら恋やらの相手もいない上に、特にそういったものに憧れもなかった。
王宮で日がな一日、モヤシを栽培しながら、地上の図鑑を読み漁るのが日課の……そんな私に突然のモテ期なんて。
青天の霹靂ですよ?
恋愛のやり方すら知らないんですけど、これ、どうしたら?
でも、今はまず……目の前で煌めきを振り撒き続ける彼に、何か答えを返さなくてはいけない……よね?
私はディランを真っ直ぐ見て、心のままに答えた。
「………わかりません」
これは本音です。
「………わからないとは?」
「ディランに同じ気持ちを返せるかがわからないの……」
「……俺のこと、嫌いか?」
途端に煌めきが失われ、青い瞳が曇った。
「嫌いじゃないわ!寧ろ好感を持ってる。例えば……号令を出すときなんかカッコいいと思うし、目がきれいだなーとか、キラキラしてるなー、とか。たまに眩しすぎることがあるけど、それで見とれちゃったりすることもあるし……」
そして、ドキドキすることもある。
とは言わずにおいた。
そのことをいうのが恥ずかしかったし、言ってしまえば、何かが根本から変わるような気がして怖かった。
言葉を失って沈黙した私に、ディランは恐る恐る尋ねた。
「サクリス殿下よりは、好感を持たれているのだろうか?」
「え?なんでサクリス?……まぁ、そうね、ディランの方が、ね」
実際、ドキドキするのはディランだけで、サクリスにはそういうのはなかったような気がする。
「ふ…………」
ディランは口の端を上げて一言発し、それから、堰を切ったように笑いだした。
「ふははははははっ!あははははっ!」
「ディラン!?壊れたの?」
「いや、あははっ、大丈夫!何でもない。何でもないんだ。壊れてないよ!ああ、ふぅん、そうか、うん、よし」
だから、何が「よし」なの?
「今はそれで十分だ。シルベーヌ様、俺はやっぱり君が好きだよ。何があってもこれは変わらない、それを覚えておいて欲しい」
「あ……はい、うん。ありがとう。覚えておくね」
と、良くわからない答えを返す私。
ただ、ディランの機嫌は頗る良い。
笑いが収まった後も、ニヤリとしたり、やたら思い出し笑いをする。
少し気持ち悪い……けど、それも機嫌が直った証拠。
私は役目を終え、ほっと胸を撫で下ろした。
ただ、それとともに、胸の内に生まれたじんわりと暖かい何かが、そっと疼くのも感じていた。
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