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ヴァーミリオン領
89.死臭ではないの?
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「あのぅ、シルベーヌ様だけでは心許ないでしょう?あた……私も一緒に潜入しましょう、か?」
アリエルはおずおずと挙手して言った。
うん、待って。
何でもう行くことになってるのかな?ん?
「エレナ!?一体どうしたのだ?お前そんな優しいことを言う娘ではなかったろう?」
ガストはあまりに驚きすぎて、彼女に失礼なことを言ったのには気付いていない。
「え?あ、そうですか?」
そして言われた本人も気付いていない………。
アリエルは、首を傾げ続けた。
「私、自分がどんな大変なことをしたのか、わかっています。とても償えることだとは思いませんが、最後に皆さんのお役に立ちたいのです」
指を組み、ガストを見つめるアリエル。
それは演技などではなく、彼女自身から出た言葉であるような気がした。
50年前、夫を殺した。
その罪を背負い贖罪の日々を過ごしていたはず。
きっと、拭われない罪の意識に苛まれてきたんだろう。
今回巡ってきた幸運で、アリエルの魂は自由になれるんだけど、それでも、彼女は最後まで贖罪を続けたいのね。
なんて、健気な!!
ハーミットがアリエルをリストにいれたこと、わかる気がするわ。
彼女がこんなに頑張っているのに、冥府の王女たる私が、尻込みしてどうするの!
「し、仕方ないわね。行くわよ。私とアリ……エレナで潜入しますっ!」
めちゃくちゃ怖くて不安だけど、スピークルムがいるから大丈夫よね?
と、心の中で言ったけど、休眠状態に陥った(さっき働きすぎたから)彼からは、何の応答もない。
その代わりに真横でディランが「はぁ!?」と大声を上げ、私を覗き込んだ。
「ディラン、大丈夫よ。スピークルムが守ってくれると思うから心配しないで。いざとなったら強制的に魂を食べてもらうからー」
私はディランに囁いた。
すると彼は、ぎゅうぎゅうと私を抱き締め、なぜかぐいぐいと自分の頭を私の首元に擦り付ける。
「な、何してるの」
問いかけた私は、その時、同じ行為を冥府で飼い猫がしていたことを思い出した。
その可愛い行動をなぜか?とスピークルムに尋ねると『大好きだから、構って欲しいのデスよ』と言った。
が!
もう一つ気になることも言っていたのだ。
『マーキングの意味もあるらしいデスが』と。
マーキング。
自分の物だと主張して、印をつける行為よね?
ふふ、まさかね。
「ディラン?」
「うん、今、俺の匂いをつけてるから、少し待って」
「な!?どうして!?」
まさか、ほんとにマーキングしてたとは!
「愚王を牽制する。シルベーヌ様は俺の………だということを主張しておかないと。それに、他に不埒な考えを持つ者がいるかもしれないからな!」
そう言ってふわりと視線を斜め上に向けた。
「……………………ごめん。あの、ディランの匂いを付けても、変態王にはわからないと思うけど?」
「そんなことはない!同じオスなら、わかるはずだぞ」
………既にあなたはオスという分類はされない存在なのですがね?
そして、その匂い……。
もしや一般的に言う死臭ではないの?……なんてこと絶対に言えない!
本人気にしてるものね。
それに、実際無臭だし……ええ、無臭よ。
常軌を逸したディランのマーキングは、応接室に異様な雰囲気を作り出した。
変態王顔負けのその行為は、周りの者を呆れさせ、その中でもサクリスはひきつったように顔をしかめている。
結局、ローケンが呆れて止めに入るまでマーキングは続き、私はこの大型猛獣のフェロモン(死臭?)をたっぷり浴びる羽目になったのだ。
アリエルはおずおずと挙手して言った。
うん、待って。
何でもう行くことになってるのかな?ん?
「エレナ!?一体どうしたのだ?お前そんな優しいことを言う娘ではなかったろう?」
ガストはあまりに驚きすぎて、彼女に失礼なことを言ったのには気付いていない。
「え?あ、そうですか?」
そして言われた本人も気付いていない………。
アリエルは、首を傾げ続けた。
「私、自分がどんな大変なことをしたのか、わかっています。とても償えることだとは思いませんが、最後に皆さんのお役に立ちたいのです」
指を組み、ガストを見つめるアリエル。
それは演技などではなく、彼女自身から出た言葉であるような気がした。
50年前、夫を殺した。
その罪を背負い贖罪の日々を過ごしていたはず。
きっと、拭われない罪の意識に苛まれてきたんだろう。
今回巡ってきた幸運で、アリエルの魂は自由になれるんだけど、それでも、彼女は最後まで贖罪を続けたいのね。
なんて、健気な!!
ハーミットがアリエルをリストにいれたこと、わかる気がするわ。
彼女がこんなに頑張っているのに、冥府の王女たる私が、尻込みしてどうするの!
「し、仕方ないわね。行くわよ。私とアリ……エレナで潜入しますっ!」
めちゃくちゃ怖くて不安だけど、スピークルムがいるから大丈夫よね?
と、心の中で言ったけど、休眠状態に陥った(さっき働きすぎたから)彼からは、何の応答もない。
その代わりに真横でディランが「はぁ!?」と大声を上げ、私を覗き込んだ。
「ディラン、大丈夫よ。スピークルムが守ってくれると思うから心配しないで。いざとなったら強制的に魂を食べてもらうからー」
私はディランに囁いた。
すると彼は、ぎゅうぎゅうと私を抱き締め、なぜかぐいぐいと自分の頭を私の首元に擦り付ける。
「な、何してるの」
問いかけた私は、その時、同じ行為を冥府で飼い猫がしていたことを思い出した。
その可愛い行動をなぜか?とスピークルムに尋ねると『大好きだから、構って欲しいのデスよ』と言った。
が!
もう一つ気になることも言っていたのだ。
『マーキングの意味もあるらしいデスが』と。
マーキング。
自分の物だと主張して、印をつける行為よね?
ふふ、まさかね。
「ディラン?」
「うん、今、俺の匂いをつけてるから、少し待って」
「な!?どうして!?」
まさか、ほんとにマーキングしてたとは!
「愚王を牽制する。シルベーヌ様は俺の………だということを主張しておかないと。それに、他に不埒な考えを持つ者がいるかもしれないからな!」
そう言ってふわりと視線を斜め上に向けた。
「……………………ごめん。あの、ディランの匂いを付けても、変態王にはわからないと思うけど?」
「そんなことはない!同じオスなら、わかるはずだぞ」
………既にあなたはオスという分類はされない存在なのですがね?
そして、その匂い……。
もしや一般的に言う死臭ではないの?……なんてこと絶対に言えない!
本人気にしてるものね。
それに、実際無臭だし……ええ、無臭よ。
常軌を逸したディランのマーキングは、応接室に異様な雰囲気を作り出した。
変態王顔負けのその行為は、周りの者を呆れさせ、その中でもサクリスはひきつったように顔をしかめている。
結局、ローケンが呆れて止めに入るまでマーキングは続き、私はこの大型猛獣のフェロモン(死臭?)をたっぷり浴びる羽目になったのだ。
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