助けた騎士団になつかれました。

藤 実花

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ヴァーミリオン領

84.司法機関の死神

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「悪魔…………それは、人ですか?どうも抽象的で……」

ローケンは眉間にシワを寄せた。

「………私には人の皮を被った悪魔に見えるのだよ……言えるところまでは言おう。私もエレナを利用された……もう、守るものもない」

ガストは気の弱そうなオジさんの顔から、少し精悍な顔つきになった。
何かを吹っ切った、そんな顔に。

「まずは、ディラン・ヴァーミリオン、悪魔にとって、君はとても邪魔な存在だった」

「俺か!?何故?」

「悪魔は美しい物が好きなのだ。それは、人でも、宝石でも、な?」

「……鉱山か!?」

「その通り。悪魔はどうしてもそれが欲しかったのだよ。ここからは、私個人の考えだが……どうにか君を怪しまれずに殺せないかと考えて遠征を命じ、更に君に疎まれていたエレナを篭絡し手駒に使う。遠征先から帰ってこない君を何週間後かに捜索隊が発見して死亡を確認。そして、鉱山は悪魔の手にというシナリオだろう」

ディランは天井を仰ぎ目を閉じた。
ローケンは、足を組み直し頬杖をつく。
私は話の内容の物騒さに震え、ディランの肩をぎゅっと掴んだ。

「………宰相。あなたは《個人の考え》というが、ほぼ確信しているように見えます。その悪魔はあなたに近しい人で、その思考、行動もある程度把握している人物ですね?」

ローケンが探偵然としてガストに尋ねた。

「そうだ」

「はぁ………なんと面倒なことに……」

ガストは即答し、ローケンは頭を抱えた。
ディランも悪魔の正体に思い至ったらしく、肩におかれた私の手を強く握った。
きっとこの中で状況を理解してないのは、50年前の人のアリエルと、ラシュカのことを全く知らない私だけだ。

「悪魔の正体はさて置き、裏を取ってもいいですか?私も頭を整理したいので」

気を取り直したローケンは、こめかみに人差し指をあて、極冷静に言った。
こういう冷静さが、ハーミットの評価するところだろうな。

「構わんよ。私としても、気になることが多いのでな」

「助かります。それでは……」

ローケンは居ずまいを正し、緋色の本に挟まれた自身のメモを取り出すと、ガストへ質問を開始する。

「まず、エレナ様をディランの婚約者にしたのはあなたでしたね?それは、悪魔の命令でしょうか?」

「違うな」

「………では、なぜ?」

「悪魔から遠い所へ娘をやりたかった。どんな理由をつけてでも、出来るだけ裕福で、人望のある優秀な男の所に」

ガストはチラリとディランを、そしてアリエルを見て更に続けた。

「我儘で傲慢な娘だが、それでも私には可愛い娘だ。親バカを許してもらいたい……」

「すみません《悪魔から遠い所》という箇所がとても気になるんですが……だって、そんな必要ないでしょう?」

ローケンが身を乗り出した。
審問官の勘なのか、どうやらそこに何かを感じたらしい。

「ローケン・グリーグ。さすが司法機関の死神と言われた男。目の付け所が違うな」

ガストは鷹揚に笑ったが、私は別のことで感動してしまっていた。
死神ですってよ!?
ハーミットの鑑識眼のなんとすばらしいことか。
もう冥コンセンター内定じゃない?
この静かな尋問が続くなか、私の心の内を知るのは、斜め前に座ったアリエルのみ。
話に付いていけない彼女も、私と同様こちらを見て、一生懸命笑みを堪えていたのだった。










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