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ヴァーミリオン領

81.毒の小瓶

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ドンドンドンドン!! 

「申し訳ございません!ディラン様は、ディラン様はそちらにおりますか!?」

いつも冷静なウェストウッドの声が、慌てふためいている。

「どうした?今立て込んでいるんだが……」

「失礼しますっ!!」

ディランが声をかけた途端、ウェストウッドは部屋に飛び込んできた。
そして、バタンと勢い良く後ろ手に扉を閉めて、ずれた眼鏡を戻しながら言った。

「宰相が……ガスト・フォード様が来ました!!」

「は?」

ディランは目を剥いた。
宰相?ガスト・フォード?
あ、あの気の弱そうなおじさんね。
え?でも、今真夜中じゃないの?
こんな時間に非常識ねぇ……なんていうのは今どうでもいいわよね………。

「このタイミングでか!?」

フォーサイスもディランと同じ顔をしている。

「まるで見ていたようですね。いや……見ていたなら先のタイミングで止めるでしょうが」

腕を組んだローケンは、眉間にシワを寄せた。

「そういえば……俺達が出立した後に一度来たんだったな?」

ディランの問いにウェストウッドは大きく首を縦に振った。
その事は、ジョゼフからも報告をうけている。
だけど、ウェストウッドは騎士団の前でもう一度語った。

「皆様が出立した夕方……様子のおかしかったエレナ様を、宰相が慌てて連れ帰ったのです。そして、無言で馬車に乗せると彼は何かを探してウロウロしていました」

「何か??」

ローケンが尋ねた。

「はい。何かはわかりません。ただエレナ様のいた客間のベッドの下とか、化粧台の抽斗の中とか……もう必死で。お手伝いしましょうか?と声をかけたのですが……」

「断られたんだね?」

「はい」

ローケンはディランを見た。
それを受けて、ディランが隊服のポケットからあるものを取り出す。
それは、小さな美しい硝子の小瓶だった。

「きっとこれだ」

「間違いないでしょう……ということは宰相はエレナがやることを知っていた?証拠の小瓶を回収しに来た?」

「………じゃあ、毒を用意したのは宰相か?」

「それは、まだわかりません……が、クロに近いことは間違いないでしょう」

「……応接室にいるのか?」

ディランはウェストウッドに尋ねた。

「はい。エレナ様を連れ帰るので、呼んできて欲しいと。何かに怯えた様子でしたが……」

「ふぅん、そう……まだどういうことかわかりませんが、一旦娘と会わせて見ましょうか?そして様子を探りましょう、アリエル?」

「はっはい!出番ですか?」

アリエルはまだ正座していた。
今までそれどころではなかったウェストウッドは、その事実に漸く気付くと、顎が外れるくらい口を開けた。

「エ、エ、エレナ……様!?」

「いや、もう彼女はいないんです。今から彼女はアリエル。あ、宰相の前ではエレナと呼んで下さいね?」

ローケンが言うと、アリエルは立ち上がり恥ずかしそうに頭を下げた。
ウェストウッドは暫くまじまじとアリエルを見ていたが、そこは有能で頭の回転の早い執事。
すぐに納得し優雅に微笑んだ。






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