助けた騎士団になつかれました。

藤 実花

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ヴァーミリオン領

80.アリエル・レイン

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魂を失くしたエレナの体を光が包む。
光はゆっくり体の中心へと収束し、パシッ!という軽い音と一緒に消えた。
残されたエレナの体に、まだ変化はない。
一体どんな人が来るのかしら?と、私は少しドキドキしながら見守っていた。

「ん…………」

エレナの指先がぴくんと動き、小さく声も発した。
新エレナ(アリエル)は、ゆっくりと体を起こし、視線を上げると目をカッと見開いた。

「あ…………」

びっくりたような声に、ローケンが心配させまいと声をかけた。

「初めまして。アリエルさん?私は………」

「す………」

す??
アリエルはローケンの言葉を遮り、目を見開いたまま、辺りを見渡した。
そして突然正座をし、額を床にバタンバタンと押し付けた。

「すみません!すみません!もう、本当にすみません!あたしみたいなゴミが選ばれちゃってすみませんーー」

「え、ちょっと……あの、アリエルさん!?」

ローケンは彼女を慌てて止め、血の滲んだ額を手で押さえた。

「本当にすみませんっ!あたしなんかですみませんっ!」

頭を下げるのを止めても、アリエルの口は止まらなかった。
私も騎士団も、もちろんローケンも、その卑屈っぷりに唖然としている。
全く見たことのないこの人種に、掛ける言葉が見つからない。
いやそもそも、言葉が通じるのかが疑問よ!?

「おーい、アリエル・レイン?」

スピークルムからハーミットの声がした。

「あ!はいはいはいはい!」

「はい、は一回でいいんだよー!何回も言うなよー、うぜー」

「すいません!どうも、すいません!」

「ま、いいけど……ちゃんと役に立ってよ?そこの人達の言うこと、ちゃんと聞くんだぞ?」

「はいは………はいっ!」

スピークルムに向かって正座し、アリエルは綺麗に一度頭を下げた。
ハーミットとの通信が切れると、部屋にはまた静寂が訪れ、更に微妙な空気も漂っている。
それを打破するように、アリエルは一度咳払いをし、ゆっくりとこちらを見て言った。

「皆様、お世話になります。アリエル・レインです。あ、今はエレナ?というのでしたか?ハーミットさんから事情は伺いました。お任せ下さい。あたし、立派に死んで見せますので!」

ハーミットの喝がきいたのか、アリエルは卑屈を返上し普通に挨拶をした。
いや「立派に死んで見せます」と言うのを普通といっていいかは謎だけど、会話出来るだけマシになったわね。

「やれやれ、漸く挨拶が出来る。私はローケン。こちらはシルベーヌ様。冥府の王女様。で、騎士団の皆さん」

ローケンはざっくりと紹介し、私も挨拶を返した。

「よろしく、アリエルさん」

「よろしくお願いします。知ってますよ?宵闇の女神様ですね。五獄でも有名でしたから!本当にお美しいのですねぇー」

アリエルはうっとりと、頬に手を当てた。
中身はアリエルだけど、外側はエレナ。
彼女をあまり知らない私とローケンは別として、ディランや騎士団はあまりの違いに身震いしているようだった。

「恐ろしい……あのエレナが……」

「あれだな……古来からとり憑かれるっていうことがあったが、それはきっとこういうことだったんだな」

と、ディランとフォーサイスはヒソヒソと話していた。

「さて、じゃあ、細かい打ち合わせといこうか?」

ローケンは緋色の本を取り出した。
パラパラとページを捲り、手を止めたところで、部屋の扉が激しく叩かれた。

















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