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ヴァーミリオン領
72.領主の責務(ディラン)
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エレナが部屋から出ていないのをもう一度確認すると、俺達は準備を始める。
暗くなる少し前に、子爵邸にやって来たフレアとフォーサイスにシルベーヌ様を託し、絶対に守るように!と、言い含めて母の部屋へと送り出した。
騎士団は、ムーンバレー遠征組とジョゼフ以外はそれぞれの家に帰宅する。
あまりものものしくても「敵」が動き辛くなるからだ。
皆は子爵邸の中で息を潜め、その時を待っている。
そして俺は1人、自室に向かった。
扉を閉め鍵はかけずそのままに。
用心深い人間なら、怪しんで二の足を踏むだろうが……エレナにそこまでの洞察力はないだろう。
かなりの直情型だしな。
俺は馴染みのある椅子に腰かけ、やりかけの仕事を済ませようと筆を走らせた。
領主の仕事を父から引き継いで、もう随分経つ。
最初は失敗も多かったが、一度失敗すれば、二度はしなかった。
ヴァーミリオンの人々は皆優秀で、其々が考え行動している。
領主など、領民の提案を吟味し可否を決定することしか実際の仕事はないに等しい。
各組合が、毎月キッチリ報告書をあげてくるし、組合同士がお互いを審査しているから不正が出来にくいという仕組みになっている。
面倒臭いのは鉱山運営くらいか……。
近いうちに誰かにこれを引き継がなくてはならない。
俺が死んだことにより、ヴァーミリオン家は途絶えたことになる。
血縁も辿ってみたが、皆老人ばかりで若い者はなく、養子として迎え入れられそうな子供はいない。
特に鉱山は、我欲無く運営出来るものに任せたかったが、そんな者は見当たらなかった。
おそらくだが……相続するものがいなくなった場合、それは国のものになるのではなかったか?
困ったな……。
国に接収されるとなると、王や宰相が私利私欲に走るのは目に見えている。
かといって……俺はもう、死んでいるからな。
死んで良かった……とまでは言わないが、この状況は俺にとって価値のあるものになっている。
何より、シルベーヌ様と出会えたこと。
それは、至上の喜びといえる。
だが領内の民のことも放ってはおけない。
愚王や宰相にここを直轄されることになれば、民が苦しむ姿しか想像出来ないのだ。
俺は窓の外に目を向けた。
ヴァーミリオン領内は、各家の炎が揺らめいてとても明るい。
鉱山で潤ってから、次々に人が増え店が増え、笑顔も増えた。
当然問題も増えたのだが、それは想像の範囲内であって、大したことじゃない。
「なんとかしなければな……」
そう呟くと、また書類に目を通す。
そうして、時が過ぎ……。
部屋の中に妙な煙が充満しているのに気づいた。
煙は薄紫で、辛みと甘みが混じった、変な臭いがした。
来たのか……?
そう思い神経を研ぎ澄ませた。
部屋の中には人の気配はない。
だが、微かに部屋の外、扉の向こうに誰かの気配を感じた。
そうか、この煙に何かを混ぜているな。
俺はベッドに歩み寄ると、そのまま倒れこんだ。
別に眠くもなんともなかったが(死んでいるからな)こうでもしないと話が進まない。
観客も退屈しすぎて、イライラしている頃だろう。
俺は舞台の脚本通りに、扉の向こうのヤツの思惑にのった。
暗くなる少し前に、子爵邸にやって来たフレアとフォーサイスにシルベーヌ様を託し、絶対に守るように!と、言い含めて母の部屋へと送り出した。
騎士団は、ムーンバレー遠征組とジョゼフ以外はそれぞれの家に帰宅する。
あまりものものしくても「敵」が動き辛くなるからだ。
皆は子爵邸の中で息を潜め、その時を待っている。
そして俺は1人、自室に向かった。
扉を閉め鍵はかけずそのままに。
用心深い人間なら、怪しんで二の足を踏むだろうが……エレナにそこまでの洞察力はないだろう。
かなりの直情型だしな。
俺は馴染みのある椅子に腰かけ、やりかけの仕事を済ませようと筆を走らせた。
領主の仕事を父から引き継いで、もう随分経つ。
最初は失敗も多かったが、一度失敗すれば、二度はしなかった。
ヴァーミリオンの人々は皆優秀で、其々が考え行動している。
領主など、領民の提案を吟味し可否を決定することしか実際の仕事はないに等しい。
各組合が、毎月キッチリ報告書をあげてくるし、組合同士がお互いを審査しているから不正が出来にくいという仕組みになっている。
面倒臭いのは鉱山運営くらいか……。
近いうちに誰かにこれを引き継がなくてはならない。
俺が死んだことにより、ヴァーミリオン家は途絶えたことになる。
血縁も辿ってみたが、皆老人ばかりで若い者はなく、養子として迎え入れられそうな子供はいない。
特に鉱山は、我欲無く運営出来るものに任せたかったが、そんな者は見当たらなかった。
おそらくだが……相続するものがいなくなった場合、それは国のものになるのではなかったか?
困ったな……。
国に接収されるとなると、王や宰相が私利私欲に走るのは目に見えている。
かといって……俺はもう、死んでいるからな。
死んで良かった……とまでは言わないが、この状況は俺にとって価値のあるものになっている。
何より、シルベーヌ様と出会えたこと。
それは、至上の喜びといえる。
だが領内の民のことも放ってはおけない。
愚王や宰相にここを直轄されることになれば、民が苦しむ姿しか想像出来ないのだ。
俺は窓の外に目を向けた。
ヴァーミリオン領内は、各家の炎が揺らめいてとても明るい。
鉱山で潤ってから、次々に人が増え店が増え、笑顔も増えた。
当然問題も増えたのだが、それは想像の範囲内であって、大したことじゃない。
「なんとかしなければな……」
そう呟くと、また書類に目を通す。
そうして、時が過ぎ……。
部屋の中に妙な煙が充満しているのに気づいた。
煙は薄紫で、辛みと甘みが混じった、変な臭いがした。
来たのか……?
そう思い神経を研ぎ澄ませた。
部屋の中には人の気配はない。
だが、微かに部屋の外、扉の向こうに誰かの気配を感じた。
そうか、この煙に何かを混ぜているな。
俺はベッドに歩み寄ると、そのまま倒れこんだ。
別に眠くもなんともなかったが(死んでいるからな)こうでもしないと話が進まない。
観客も退屈しすぎて、イライラしている頃だろう。
俺は舞台の脚本通りに、扉の向こうのヤツの思惑にのった。
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