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ヴァーミリオン領

69.スピークルムのオススメ

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クレバードに専属料理人宣言をされてから、私はボーッとしながら子爵邸に帰ってきた。
そして、とりあえず居心地のいい、ディランの部屋に勝手に入って寛いだ。
なんか………疲れた………。
ヴァーミリオン領に来てから、急展開する人間関係の激しさに、正直気持ちがついていってない。
サクリスの件もそうだし、相変わらずディランの愛(忠誠心)は重すぎる。
それに加えてクレバード。
あ、いや、クレバードは恋愛云々じゃないよね?
料理を作りたいって言ってくれただけだし……。

『シルベーヌ様?本当にそう思ってるんデス?』

「どういう意味?」

お節介従者が口を出す。

『お節介とは酷い。まぁいいデスよ。一般的な人間の三大欲求って何かわかりますか?』

「ええと、食欲?………と?」

『………あー、まぁそうデスよね?食欲しかないシルベーヌ様に聞いたのが間違いでしたよ!正解は食欲、睡眠欲、性欲デス!騎士団の皆さんは死人デスし、そのどれも既に持ち合わせないものデス。しかし、シルベーヌ様にはそれがありますでしょ?特にシルベーヌ様にとって、最も大切な食という項目をクレバードは自分一人が担当するというんデスよ!!これは、ある意味究極の独占欲!しかも、自分の作ったものでシルベーヌ様の体の中を埋めようとするんデスから、考えようによっては非常にエロい!エロい思考デスよーー!!』

「ごめん。なんかたくさん喋ったわりには一つも理解出来ないんだけど?」

意気込んで喋っていたけど、最後のエロい!というところしか良くわからなかったわ!

『はぁ……カマトトもいい加減にしないとイヤミデスよ!!』

「カマトトって何??悪口ってことはわかるけど!!」

スピークルムは、ブラブラと左右に揺れながら、どう言ったものかーと言葉を選び、突然閃いたらしくピカッと光った。

『つまり、クレバードもシルベーヌ様を愛しているということデス!!』

「ああ、それならわかるわ。何でもっと早くそういわな…………う、うぅん?」

愛している?はぁ?愛してる!?
いや、あり得ない。
クレバードとそういう雰囲気になったことないし、そんなこと言われてもないし、ただ、私、食べてただけだしぃ??
と、考えた私の脳内は、スピークルムにはお見通しだ。

『バカデスねぇ?恋なんて突然ストンと落ちるものなんデス!これ定番デスから!とはいっても?お子ちゃまのシルベーヌ様では気づかないでしょうね?当のクレバードも、キラキラ団長と渡り合うつもりはないみたいデスし?』

「何でディランが出るのよ?」

『団長は最有力候補デス。従者の私としても、あれは死んでなければイチオシデスね』

死んでなければて……。

『とにかく、シルベーヌ様に対する愛が酷い。しんどい。クソ重いデス』

うん、それは薄々感じてた……。

『ほら、私、自分を一度でも身につけた人の心が読めるでしょ?もうね、狂気の愛が流れ込んで来て、正直ドン引きデス』

「………え?ディランの心も読めたの?初耳なんだけど。それにしても……イチオシのわりには、酷い言いようね……」

『ああ。それは失礼したデス。でもデスね、どんくさくて、にぶちんのシルベーヌ様には、ああいった(ヤンデレ)人の方がいいんデス』

括弧の中が気になるんだけど!?
でも、いいわ、詳しく聞くとまた怖くなりそうだから。

『デスが、総合的に見て、ナシリスの王子を相手に選ぶのが無難かなぁと思うのデスよ』

「何で?一番良くわからない人だと思うけど?」

『三大欲求。この全てをシルベーヌ様と共有出来るからデス!!』

スピークルムはやけに自信たっぷりに言いきった!
そのわけを聞きたいわね!

『一緒に眠れるし、食事も出来る。王子だから、生活に不自由しない。しかも、バナナは食べ放題……そして、一番大事なことが!』

「それは何!?」

『子作りが可能デスっ!!』

…………………………………。
…………………………………。

真剣に聞いた私がバカだったわ。
そりゃあ、死人に子作りは無理でしょうよ。
そういうことじゃなくて、純粋な……ええと心の繋がりというか?
そういうのがあったら、大丈夫なんじゃないかな?
綺麗事かもしれないけど、本当にそう思うのよ。
私の心を読めるはずのスピークルムは、ここに来てピタリと黙った。
あれほど捲し立てておきながら、この沈黙は何??
怖い!

スピースピースピースピー…………。

…………………………………………え?


全力で喋りまくった従者は、健やかな寝息をたてている。
人を煽りに煽って放置とは……。
このもやもやした思いをどうしてくれる!?
私はスピークルムを首から外し、大きく振りかぶって、ベッドに投げつけておいた。
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