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ヴァーミリオン領
67.柘榴亭の新メニュー
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「シルベーヌ様はこちらに……」
クレバードが椅子を勧めるのを断り、私は厨房の見学を申し出た。
だって、どうやって作ってるのか興味あるし?
美味しいものを作り出す様子って、絶対楽しいに違いないっ!
目をキラキラさせた私を見て、クレバードは「仕方ないですね」と笑った。
急いで厨房に入るクレバードを、私も急いで追いかける。
すると、突然の熱波に襲われた。
渦巻く熱風、轟く包丁の音。
殺気立つ料理人に、叫ぶ給仕の人。
………ここは戦場ですか……。
厨房……と書いて戦場と読むんでしたっけ?
私のその光景に思わず唖然とした。
落ち着いて観察すると、中には4人の料理人がいる。
彼らはそれぞれ分担で作業をしていて、一人は揚げ物を、一人は野菜を刻み、一人は煮物を、一人は焼き物を担当していた。
クレバードはごく自然にその中に入ると、髪が落ちないように布で頭をきゅっと縛る。
そして、さっと手を洗うと包丁を持って、魚を捌き始めた。
素早く頭を落とし、内臓をとり、3枚におろす。
あっと言う間の出来事に、私は目を瞬かせた。
クレバードは、おろした魚を揚げ物担当に渡し、あっという間に次に取りかかる。
その見事な技に、私は暫くみとれていたけど、ハッとここに来た目的を思い出した!
ご飯を頂かなくては……いえ、違うわ、お手伝いをしに来たのよ!
そ、そうよ、タダで食べようなんて思ってないんだから!
それにはレスタを探して、何か仕事を貰わないといけないわね!
「あのーーっ!レスタさーん!私も何か手伝います!」
私は店内で給仕するレスタに向かって叫んだ。
「え!?シルベーヌ様がかい?ダメだよ、そんなことさせたらディラン様に怒られるよ!」
大きな皿を器用に三つ持ちながら、レスタは振り返り答えた。
ううっ、忙しいのにごめんなさい!
でもお手伝いしたいの!
「大丈夫です!ディランは怒ったりしないので!簡単なことなら私にも出来ます!なんでもします!」
「うーん、仕方ないねぇ……じゃあ、指示するから出来たものをお客様に運んでくれるかい?」
「はい!!よろしくお願いします!」
レスタは、私に薄い桃色のエプロンを貸してくれた。
それを付け、いざ店内に立つと早速声がかかった。
「シルベーヌ様、これを3番ね、そして、これを5番。番号はテーブルに書いてあるからね!」
「あ、はいっ!」
美味しそうな白身魚のムニエルを、3番テーブルへ。
フルーティーなドレッシングがかかったサラダを5番テーブルへ。
それをそつなくこなすと、また新しい仕事が頼まれた。
「シルベーヌ様、これ1番、これ7番、そして、6番ね」
「は、はいっ!」
鹿肉のソテーに、彩り野菜のマリネ、牛ほほ肉のシチュー。
もうメニューの名前も、テーブル番号も覚えてしまったわ。
さあ!ドンと来い!と思った時、昼の混雑時間は終わった。
お客は、みんな昼からの仕事に向けて帰って行った。
店内に誰も残っていないのを確認して、厨房から料理人達が顔を出し、腰を押さえたり肩を叩いたりしながら、空いている席に座る。
世話しなく動いていた給仕の人やレスタも、やれやれといった顔で休憩に入った。
「シルベーヌ様、お疲れ様です」
クレバードは私の横に座り、大きな皿を目の前に置いた。
「こっ!これは!?私の?」
「はい。シルベーヌ様の賄いです。有り合わせと、残り物で申し訳ないんですが」
残り物!?有り合わせ!?
これが?
私の目の前には、沢山の食べ物が彩り良く、美しい配置で盛られている。
賄いって………素晴らしい!!
「なんて美味しそうなの……これ、昼メニューでも人気が出そうね!」
「ははっ、こんな寄せ集めみたいなもの、みんな好まないでしょう?」
首を振ったクレバードに、私は詰め寄った。
「そんなことないわ!きっとこういうの女性は好きよ?一皿に少しずつ沢山のもの!このお得感と満足感。ちょっとずつお味見してるみたいでしょう?」
「……そんなものでしょうか?」
クレバードと4人の料理人は怪訝な顔をした。
しかし、給仕の女性2人は私の意見に頷いている。
「それ、わかります!!食べたい物がいっぱいあっても、そんなに量が食べられないから頼めないんですよねぇ」
「そうそう。少しずついろんなものを食べられるなら最高よ!」
「ね?ほら、女の子は好きなんだって!!」
私は女性達とがっちり手を握りあった。
「そうかね!それなら、試しにお昼に女性限定として出して見るかい?最初は数量も限定でいいさ。様子を見ながらやってみようか?」
レスタは感心したように私を見た。
「ここは、男性は多いけど、女性はなかなか来てくれなくてね。きっと、量の問題もあったんだねぇ」
量の問題は私には関係ないですけどね。
と、心の中で言ってみる。
「それにしても、シルベーヌ様は優秀だね!覚えも早いし、アイデアもある。本当にディラン様の恋人じゃなかったら、クレバードの嫁に来て貰いたいくらいだねぇ」
『おおっ!!なんとまぁ!シルベーヌ様モテモテデスな!!あーでも、優秀ではないデスけど………ぐぅっ!』
余計なことを言い始めたスピークルムを、私はぎゅーっと握りしめた。
全くもう!社交辞令と本気の区別もつかないのかしら?
私はレスタの誉め言葉に、にこやかに笑って返し、待ちに待った目の前の賄いに手を付けた。
クレバードが椅子を勧めるのを断り、私は厨房の見学を申し出た。
だって、どうやって作ってるのか興味あるし?
美味しいものを作り出す様子って、絶対楽しいに違いないっ!
目をキラキラさせた私を見て、クレバードは「仕方ないですね」と笑った。
急いで厨房に入るクレバードを、私も急いで追いかける。
すると、突然の熱波に襲われた。
渦巻く熱風、轟く包丁の音。
殺気立つ料理人に、叫ぶ給仕の人。
………ここは戦場ですか……。
厨房……と書いて戦場と読むんでしたっけ?
私のその光景に思わず唖然とした。
落ち着いて観察すると、中には4人の料理人がいる。
彼らはそれぞれ分担で作業をしていて、一人は揚げ物を、一人は野菜を刻み、一人は煮物を、一人は焼き物を担当していた。
クレバードはごく自然にその中に入ると、髪が落ちないように布で頭をきゅっと縛る。
そして、さっと手を洗うと包丁を持って、魚を捌き始めた。
素早く頭を落とし、内臓をとり、3枚におろす。
あっと言う間の出来事に、私は目を瞬かせた。
クレバードは、おろした魚を揚げ物担当に渡し、あっという間に次に取りかかる。
その見事な技に、私は暫くみとれていたけど、ハッとここに来た目的を思い出した!
ご飯を頂かなくては……いえ、違うわ、お手伝いをしに来たのよ!
そ、そうよ、タダで食べようなんて思ってないんだから!
それにはレスタを探して、何か仕事を貰わないといけないわね!
「あのーーっ!レスタさーん!私も何か手伝います!」
私は店内で給仕するレスタに向かって叫んだ。
「え!?シルベーヌ様がかい?ダメだよ、そんなことさせたらディラン様に怒られるよ!」
大きな皿を器用に三つ持ちながら、レスタは振り返り答えた。
ううっ、忙しいのにごめんなさい!
でもお手伝いしたいの!
「大丈夫です!ディランは怒ったりしないので!簡単なことなら私にも出来ます!なんでもします!」
「うーん、仕方ないねぇ……じゃあ、指示するから出来たものをお客様に運んでくれるかい?」
「はい!!よろしくお願いします!」
レスタは、私に薄い桃色のエプロンを貸してくれた。
それを付け、いざ店内に立つと早速声がかかった。
「シルベーヌ様、これを3番ね、そして、これを5番。番号はテーブルに書いてあるからね!」
「あ、はいっ!」
美味しそうな白身魚のムニエルを、3番テーブルへ。
フルーティーなドレッシングがかかったサラダを5番テーブルへ。
それをそつなくこなすと、また新しい仕事が頼まれた。
「シルベーヌ様、これ1番、これ7番、そして、6番ね」
「は、はいっ!」
鹿肉のソテーに、彩り野菜のマリネ、牛ほほ肉のシチュー。
もうメニューの名前も、テーブル番号も覚えてしまったわ。
さあ!ドンと来い!と思った時、昼の混雑時間は終わった。
お客は、みんな昼からの仕事に向けて帰って行った。
店内に誰も残っていないのを確認して、厨房から料理人達が顔を出し、腰を押さえたり肩を叩いたりしながら、空いている席に座る。
世話しなく動いていた給仕の人やレスタも、やれやれといった顔で休憩に入った。
「シルベーヌ様、お疲れ様です」
クレバードは私の横に座り、大きな皿を目の前に置いた。
「こっ!これは!?私の?」
「はい。シルベーヌ様の賄いです。有り合わせと、残り物で申し訳ないんですが」
残り物!?有り合わせ!?
これが?
私の目の前には、沢山の食べ物が彩り良く、美しい配置で盛られている。
賄いって………素晴らしい!!
「なんて美味しそうなの……これ、昼メニューでも人気が出そうね!」
「ははっ、こんな寄せ集めみたいなもの、みんな好まないでしょう?」
首を振ったクレバードに、私は詰め寄った。
「そんなことないわ!きっとこういうの女性は好きよ?一皿に少しずつ沢山のもの!このお得感と満足感。ちょっとずつお味見してるみたいでしょう?」
「……そんなものでしょうか?」
クレバードと4人の料理人は怪訝な顔をした。
しかし、給仕の女性2人は私の意見に頷いている。
「それ、わかります!!食べたい物がいっぱいあっても、そんなに量が食べられないから頼めないんですよねぇ」
「そうそう。少しずついろんなものを食べられるなら最高よ!」
「ね?ほら、女の子は好きなんだって!!」
私は女性達とがっちり手を握りあった。
「そうかね!それなら、試しにお昼に女性限定として出して見るかい?最初は数量も限定でいいさ。様子を見ながらやってみようか?」
レスタは感心したように私を見た。
「ここは、男性は多いけど、女性はなかなか来てくれなくてね。きっと、量の問題もあったんだねぇ」
量の問題は私には関係ないですけどね。
と、心の中で言ってみる。
「それにしても、シルベーヌ様は優秀だね!覚えも早いし、アイデアもある。本当にディラン様の恋人じゃなかったら、クレバードの嫁に来て貰いたいくらいだねぇ」
『おおっ!!なんとまぁ!シルベーヌ様モテモテデスな!!あーでも、優秀ではないデスけど………ぐぅっ!』
余計なことを言い始めたスピークルムを、私はぎゅーっと握りしめた。
全くもう!社交辞令と本気の区別もつかないのかしら?
私はレスタの誉め言葉に、にこやかに笑って返し、待ちに待った目の前の賄いに手を付けた。
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