助けた騎士団になつかれました。

藤 実花

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ヴァーミリオン領

62.嫉妬メラメラ大作戦

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エレナを応接室に待たせたままで、私達は先に騎士団詰所に向かった。
詰所にはもう騎士団全員が揃っていて、ディランが来るのを待っていたようだ。
昨晩は皆それぞれ自宅に戻り、祭りの夜を家族で過ごした、と聞いている。
そこでどんな話がされたのかはわからない。
でも、何かを吹っ切ったような顔をした彼らは、どこか決意に満ちているように見えた。

「エレナが来た」

詰所大広間で、ディランが言った。

「ふん、お出ましか。しかし、情報が早いな」

「祭りだったしな。他所の者も大勢来てた。騎士団が戻ったことも、すぐに伝わるだろうさ」

スレイの言葉にフォーサイスが答える。

「で、どうやって問い詰める?すぐに口を割ったりはしないだろう?」

今度はロビーが言った。

「俺に考えがある。後々みんなの力を借りることになるが、話を聞き出すのは俺がやろう……あと……」

ディランは言いにくそうにチラリと私を見た。

「何?何か手伝うの?」

「すまないが、頼めるだろうか?」

「ん?うん。私に出来ることなら」

「シルベーヌ様にしか出来ない」

その真剣な眼差しに、私は「もちろん」と元気良く答えた。
そして、クレバードが用意してくれた軽い朝食を空きっ腹に放り込んだのであるっ!


*****

「ああ、シルベーヌ。君はなんて美しいんだ、空に輝く星だってその美しさには敵わないだろう!」

朝日に煌めく男は、ありったけの魅了魔法でも放つかのように、微笑んでいる。

「ま、まぁ!ありがとう!う、嬉しいわー……え、えと……えー……」

そして、私は眩しさに目を逸らしながら教えられた言葉を思い出そうとしていた!
慣れないことを言うのは、思いの外、体力も気力も使う。
私は人生において使ったことのない言葉をこの短時間で幾度となく発し、精神がゴリゴリ削られていた……。

「シルベーヌ様、もっと自然に」

フレアのダメ出しが来た!

「う、うん。がんばります」

今、詰所大広間ソファーの上では、毎度お馴染みディランに抱上げられ、その腕に嵌まった私のあられもない姿が、絶賛公開中である。

少し前、元気良く「もちろん」と答えたのを私は激しく後悔していた。
この『対エレナ、嫉妬メラメラ大作戦』(命名フレア)は、エレナのディランに対する盲愛を利用して、何らかの行動を取らせようとするものだそう。
わかりやすく言えば、ライバル役の私を登場させ、エレナに対抗心を起こさせるってこと。
そして、動きがあったところを現行犯で捕らえる、という作戦……なんだけど、ほんとに上手く行くの?というのが私の正直な感想よ。
ディランは絶対守るって言うし、最悪スピークルムがいるから、身の安全は保証されるけど、大変なのはこれ。
この作戦の下手な小芝居なのですよ。
嫉妬させなきゃいけないってことは、ディランと私のデレデレした……ええと、仲睦まじい様子を見せなくてはならないと。
そのための練習なの。

「いつもより、少し多めにしなだれかかるくらいでいいんだよ?」

いつもより?ていうか、しなだれかかったこと、ありました?
首をもげそうなほど傾げた私を見て、ディランは含み笑いで言った。

「くくっ……全体重を預けて。特に何も言わなくてもいい。俺の言葉に全て笑って頷いて?」

「あ、それなら出来そう」

「そうね、その方がいいかも。では、シルベーヌ様は喋らないで下さいね」

フレアはニッコリ微笑んだ。
それ、暗に『下手くそは黙ってな』ってことよね?
まぁ……いいけど。

フレアから許可がおり、私達はやっと、エレナと対峙することを許された。
やれやれ、ずっとこんなことしてたら、体がもたないわよ!と大きく息を吐いた私。
そんな私を未だ離さない騎士団長殿は、これから始まる大勝負を楽しんでいるかのように、軽やかな声で笑い飛ばした。












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