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ヴァーミリオン領
61.地獄の話
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「んーー………朝か……」
朝日が差し込む柔らかく白いシーツの上。
弾力のある、質のよいベッド。
どうやら私は、何処かの部屋に寝かされているらしい。
確か昨日……ディランに首飾りを買ってもらい、それから、屋台でお酒を勧められて飲んだのよね。
ほんのちょっとだけ、と口にすると、その飲みやすさと美味しさにとまらなくなってしまって……。
そして、何杯かを一気飲みした後、私の意識はなくなった。
想像するに、倒れた私をディランが運び、部屋に連れてきた……のだと思うわ。
そして!
また、隣でキラキラを振り撒きながら笑っている!!
というわけね!?
「おはよう。良く眠れたみたいだな」
「あ、うん。おはよう。あのー、昨日はー、そのー、迷惑かけちゃって、ごめんなさい」
「あははっ、いや?シルベーヌ様は軽いし、迷惑なんて。ただ、一気飲みは駄目だぞ?俺がいたから良かったものの、一人であんなことになったら大変だ」
あんなこと、というのは倒れたことよね?
その他には何もやってないよね?ね!?
ああ、もう一気飲みしない!!絶対!
いや、たぶん………。
「すみません。気を付けます……」
しゅんとした私を見て、ディランはまたキラキラといい笑顔をした。
「ところで、ここ子爵邸?誰のお部屋?」
「俺の部屋だよ」
辺りを見回すと、何やら難しい本が沢山入った本棚が天井まであった。
それは、窓を除く三方を取り囲むようにして配置されている。
これを全部読んだのかしら?
だとするととんでもない天才なんじゃない!?
私は軽く青ざめながら上半身を起こし、その一冊を手に取り開いてみる。
すると、見たことのあるタイトルが目に飛び込んできた。
『冥府の国と地獄の話 』
その本は、冥府のことについて書かれているもので、アルハガウンでは教科書代わりに使われている。
そんなものがどうしてここに?
そう思っていると、ディランがヒョイと本を取り上げ身を起こした。
「内緒にしておいて欲しいんだが、実は昔、王都の図書館へ行ったとき、偶然これを見つけて……とても興味深くて、夢中になって読んだんだ。そして、書店に同じものがないか必死で探したんだがどこにもない。仕方なく……」
「仕舞いこんだのね?」
「………はい」
本を胸に、済まさそうな顔をしたディランは、怒られた子供のように体を小さくした。
「もう、ダメねぇ。泥棒は地獄へ行くわよ?この本にも書いてなかった?」
「そう!それなんだが!」
なに?突然キラキラし始めて。
ディランはズイッと私に近づいた。
「地獄はあるのか?」
「………あるわよ?」
「そうか!!そうなんだ、へぇ!やっぱりな。で、どんな感じだろうか?」
この食いつきは、何??
そして、キラキラ度が増してるんだけど?
「どんな感じ?うーん、私も冥府での授業でしか知らないけど……その授業ではね、罪の重さに応じて七段階あるって言われてた。泥棒や比較的軽い罪の者は一獄に行くらしいわ」
「で、何をするんだ?」
「一獄では主に労働ね。たまに冥府の河川事業に駆り出されてるのを見たわ」
「河川事業……それはいつまで?」
「冥鏡が許すまで?」
「ザックリしてるな」
「そんなもんよ。でね、一獄なんてまだいいけど、大罪人はもっと酷い目に合うから!例えば……騎士団に毒を盛った犯人。25人を毒殺した事実だけで、どんな理由があろうとも、七獄は確定ね」
ディランは黙り込み一度目を伏せる。
そして、目を開けると私に尋ねた。
「七獄とは、何をされるんだ?」
「聞かない方がいいと思う」
「それほどか?」
「それほどよ。そんなことより!本を図書館に返しましょう!!泥棒っていうほどでもないけど、精算しとくにこしたことないわ!」
「返してなんとかなるのか?」
「まぁ……たぶん」
そういうと、ディランはあははと笑い「わかった」と呟いた。
「ディラン様??」
突然声がかかり、ディランは笑うのをやめた。
ドアの外から声をかけたのは、ウェストウッドだけど、その声はどこか緊張している。
たぶんそれをディランも警戒したのだ。
「………どうした?」
「………エレナ様が、お越しです」
エレナ?
あっ!ディランの婚約者の名前ね。
そして……第一容疑者。
「わかった。応接室で待つよう言ってくれ」
「承知致しました」
ウェストウッドの足音はゆっくりと去っていった。
「……騎士団が帰ってきたのを確認しに来たか。生きていると知れば、どうするだろうな」
「ディランは、どうしたいの?」
「もし、エレナが犯人なら、理由を問わなくてはならない。そして、罪を償ってもらう!!」
彼はベッドに拳を叩きつけた。
どうにもならない怒りを叩きつける、そんな風に。
「ディラン、あなたは良い人ね。本当なら、すぐに殺したいほど憎いんじゃない?でも、それをしない。みんなの為に。大丈夫よ、悪事は必ず明るみに出る」
ディランの拳を自分の手に取ると、私はそっと開かせた。
その中にあった怒りを、霧散させるように。
朝日が差し込む柔らかく白いシーツの上。
弾力のある、質のよいベッド。
どうやら私は、何処かの部屋に寝かされているらしい。
確か昨日……ディランに首飾りを買ってもらい、それから、屋台でお酒を勧められて飲んだのよね。
ほんのちょっとだけ、と口にすると、その飲みやすさと美味しさにとまらなくなってしまって……。
そして、何杯かを一気飲みした後、私の意識はなくなった。
想像するに、倒れた私をディランが運び、部屋に連れてきた……のだと思うわ。
そして!
また、隣でキラキラを振り撒きながら笑っている!!
というわけね!?
「おはよう。良く眠れたみたいだな」
「あ、うん。おはよう。あのー、昨日はー、そのー、迷惑かけちゃって、ごめんなさい」
「あははっ、いや?シルベーヌ様は軽いし、迷惑なんて。ただ、一気飲みは駄目だぞ?俺がいたから良かったものの、一人であんなことになったら大変だ」
あんなこと、というのは倒れたことよね?
その他には何もやってないよね?ね!?
ああ、もう一気飲みしない!!絶対!
いや、たぶん………。
「すみません。気を付けます……」
しゅんとした私を見て、ディランはまたキラキラといい笑顔をした。
「ところで、ここ子爵邸?誰のお部屋?」
「俺の部屋だよ」
辺りを見回すと、何やら難しい本が沢山入った本棚が天井まであった。
それは、窓を除く三方を取り囲むようにして配置されている。
これを全部読んだのかしら?
だとするととんでもない天才なんじゃない!?
私は軽く青ざめながら上半身を起こし、その一冊を手に取り開いてみる。
すると、見たことのあるタイトルが目に飛び込んできた。
『冥府の国と地獄の話 』
その本は、冥府のことについて書かれているもので、アルハガウンでは教科書代わりに使われている。
そんなものがどうしてここに?
そう思っていると、ディランがヒョイと本を取り上げ身を起こした。
「内緒にしておいて欲しいんだが、実は昔、王都の図書館へ行ったとき、偶然これを見つけて……とても興味深くて、夢中になって読んだんだ。そして、書店に同じものがないか必死で探したんだがどこにもない。仕方なく……」
「仕舞いこんだのね?」
「………はい」
本を胸に、済まさそうな顔をしたディランは、怒られた子供のように体を小さくした。
「もう、ダメねぇ。泥棒は地獄へ行くわよ?この本にも書いてなかった?」
「そう!それなんだが!」
なに?突然キラキラし始めて。
ディランはズイッと私に近づいた。
「地獄はあるのか?」
「………あるわよ?」
「そうか!!そうなんだ、へぇ!やっぱりな。で、どんな感じだろうか?」
この食いつきは、何??
そして、キラキラ度が増してるんだけど?
「どんな感じ?うーん、私も冥府での授業でしか知らないけど……その授業ではね、罪の重さに応じて七段階あるって言われてた。泥棒や比較的軽い罪の者は一獄に行くらしいわ」
「で、何をするんだ?」
「一獄では主に労働ね。たまに冥府の河川事業に駆り出されてるのを見たわ」
「河川事業……それはいつまで?」
「冥鏡が許すまで?」
「ザックリしてるな」
「そんなもんよ。でね、一獄なんてまだいいけど、大罪人はもっと酷い目に合うから!例えば……騎士団に毒を盛った犯人。25人を毒殺した事実だけで、どんな理由があろうとも、七獄は確定ね」
ディランは黙り込み一度目を伏せる。
そして、目を開けると私に尋ねた。
「七獄とは、何をされるんだ?」
「聞かない方がいいと思う」
「それほどか?」
「それほどよ。そんなことより!本を図書館に返しましょう!!泥棒っていうほどでもないけど、精算しとくにこしたことないわ!」
「返してなんとかなるのか?」
「まぁ……たぶん」
そういうと、ディランはあははと笑い「わかった」と呟いた。
「ディラン様??」
突然声がかかり、ディランは笑うのをやめた。
ドアの外から声をかけたのは、ウェストウッドだけど、その声はどこか緊張している。
たぶんそれをディランも警戒したのだ。
「………どうした?」
「………エレナ様が、お越しです」
エレナ?
あっ!ディランの婚約者の名前ね。
そして……第一容疑者。
「わかった。応接室で待つよう言ってくれ」
「承知致しました」
ウェストウッドの足音はゆっくりと去っていった。
「……騎士団が帰ってきたのを確認しに来たか。生きていると知れば、どうするだろうな」
「ディランは、どうしたいの?」
「もし、エレナが犯人なら、理由を問わなくてはならない。そして、罪を償ってもらう!!」
彼はベッドに拳を叩きつけた。
どうにもならない怒りを叩きつける、そんな風に。
「ディラン、あなたは良い人ね。本当なら、すぐに殺したいほど憎いんじゃない?でも、それをしない。みんなの為に。大丈夫よ、悪事は必ず明るみに出る」
ディランの拳を自分の手に取ると、私はそっと開かせた。
その中にあった怒りを、霧散させるように。
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