助けた騎士団になつかれました。

藤 実花

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ヴァーミリオン領

64.公爵令嬢の話①(エレナ)

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ーーラシュカ国  王都  フォード公爵家 

いつだって、私の手に入らぬものはなかった。
それは、物だろうが、お金だろうが、人の心だって同じ。
見て。
美しい金の髪に、真っ青な瞳。
この世の全ての美が、私に集まっていると思わない?
そのうち私は、この大国ラシュカの王妃になり、世界一美しい王妃と謳われるのよ。
…………そう信じてきたわ。

宰相の娘であり、公爵家の令嬢。
王妃に一番近い場所にいた私は、何故か、子爵家跡取りの婚約者になった。
それが政治やお金、人々の思惑が絡んだ政略結婚だと知ったのは、決まってすぐのことだった。

「エレナ、お前の婚約者を定めた。ヴァーミリオン子爵の息子、ディラン・ヴァーミリオンだ」

「ヴァーミリオン!?子爵家?子爵家ですって!?どうして公爵家の私が!?考え直して下さい、お父様!」

冗談じゃないわ!王妃も望める私が、子爵家などに!?
憤慨して父に食ってかかった。

「出来ん。あの土地の宝石はラシュカの屋台骨だ。それを、フォード家が中から管理し、流通させる。そうすれば、国庫を意のままに操れる。その為にも、お前の力が必要だ」

「宝石………」

なるほどね、と思った。
良く良く考えてみれば、ヴァーミリオンはラシュカ一番の裕福な領地。
ヴァーミリオン鉱山の宝石は、世界で高値で取引されている。
それはヴァーミリオンの領主が、産出量を毎年同じ量だけにし、むやみに流通させたりしなかったからだ。
それが、逆に宝石の価値を上げ、ヴァーミリオンに多額の利益をもたらす結果となっていた。
利益は国庫の半分を優に越え、今では、ヴァーミリオンからの税金がないと満足に施政が行えない状態だ。

「ヴァーミリオンの息子とお前は、年の頃も近い。それに、お前の美しさならば、骨抜きにして、操ることも可能だろう」

当然だわ。
私の美しさに、抗えるものなどいるわけがない。
ふふっ、そうね。
ヴァーミリオンの宝石を使って、贅沢三昧するのも悪くない。
この美しい私が、美しい宝石を手にする。
これが必然でなくて何かしら?
そう思って、私は父の薦めるまま、婚約者に会いにヴァーミリオン領へと向かったのだ。


王都を南下し、暫く行けば、そこはヴァーミリオン領である。
面積は然程ではないが、鉱山によって得られた資産により城壁を整え、整備されたその町は、王都より活気がある。
だが子爵邸は、それと反比例して質素で見映えがしなかった。
地味だわ。
これは私には相応しくない。
結婚したら、もっと豪華に改築してしまいましょう。
そんなことを考えながら、通された応接間でお茶を頂いていた。

「お待たせ致しました。ディラン・ヴァーミリオン様でございます」

執事の声に私は立ち上がった。
一応ね、本当はそんなことしなくてもいいのだけど、礼儀は通さなくては。

「初めまして、私………」

半分ほど言いかけて止めたのには、わけがある。
目に入った婚約者、ディラン・ヴァーミリオンは見たこともないほどの美丈夫だったから。

「あ……エレナ・フォードでございます……」

「………………ディランだ」

彼は一言言うと、前のソファーに腰をかけた。
静かな月のような銀髪。
私と同じ青い瞳。
………何と言うこと……これ程、美しい男が私の……。
きっと私は神に愛されている。
潤沢な資産と、美しい夫。
地位など欲さなくとも、これで全てが補える!
私は目の前の美しい婚約者を眺めた。
そして、自分、エレナ・フォードと結婚出来ることは幸運である、と彼に伝え、結婚後地味な屋敷を改装することを進言した。
が……どうしたことか、彼は眉間にシワを寄せ立ち上がり、そのまま部屋を去ったのだ。
状況が良く飲み込めないまま、私は呆然した。
そのまま公爵家に帰り、侍女にそのことを相談すると「きっと恥ずかしかったのでございますよ!」と言われた。
そうよね!ええ、そうだわ。
この私と対面するのですもの!
あまりの美しさに驚いて、声も出なかったに違いない。
納得のいく答えが出た私は、それからも足繁く子爵家に通い詰めた。









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