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ヴァーミリオン領
51.城郭都市ヴァーミリオン
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「ふわぁー………………」
高くそびえる壁を見上げて、私はお間抜けな声を発した。
そんなお間抜けな声が出るくらい、ヴァーミリオン城壁は大きかった。
周囲をぐるりと高い壁で囲まれ、所々に見張り台と砲台が設置されている。
遥か向こうまで伸びている壁は、終わりが確認出来ないくらい長い。
正に、地の果てまでも続くのではないか、と思うほどの巨大さだった。
「ようこそ、ヴァーミリオン城郭都市へ。俺達の故郷へ」
そう言ってディランは微笑んだ。
城壁の入り口には大きな鉄製の扉がある。
一度閉めてしまえば、何十人が開けようとしてもびくともしない、それほどの重量がありそう。
扉の内側からは、騎士団の帰還を報せる鐘楼の鐘の音が聞こえた。
鉄扉の前で、ディランはさっと手を上げる。
すると、ゴォンと重い音を立て観音開きに扉が開いた。
鉄扉を抜けた先。
そこには、見たことのない風景が広がっていた。
まず、人の多さ!!
これほどの人は、ラシュカ王都でも見なかったし、もっと閑散としていたような気がする。
祭りのせいもあるのか、その熱気は凄まじい。
人々は、騎士団の帰りを鐘で知り、我先にと沿道に迎えに出ていた。
「団長さまぁ!!お帰りなさいー!」
「ヴァーミリオン騎士団!お疲れ様です!」
「きゃー!!ディラン様!!」
黄色い声が宙を舞い、野太い歓声が地を這う。
ディランの側には、美しい娘達が我先にと花を渡そうと詰め掛ける。
彼女達を困ったようにいなしながら、ディランは颯爽と手を振った。
その眩しい輝きといったら!!
夕闇に浮かび上がる銀色の髪は、キラキラ輝く地上の月のよう。
だから!やたら煌めかないでよっ!!
私はあまりの眩しさに目がくらみ、思わずフードを目深に被り直した。
すると、ディラン目当てで来ていた女性達が、じーっとこちらを探る視線に気付いた。
「ディラン様?その方は誰ですか?」
一人の女性が、ディランに問いかけた。
うっ。やっぱり気になるよね?
「捕らえてきた隣国の者じゃない?ほら、顔も隠しているし」
と、その後ろの女性が推測した。
「それなら、ディラン様の馬にのることないじゃない!?教えて下さい、ディラン様!それは、何者ですか!」
女性達の声は、段々大きくなり、沿道の中央まで詰め寄る。
その集団は、騎士団の進路を遮った。
「君達、危ないから退きなさい。この方はさる高貴な身分の方。我ら騎士団が責任を持ってお預りしている愛し……あ、大切な客人だ」
ディランから説明されても、女性達は引こうしない。
私の顔を見ようと色々な角度から試していて、もう収拾がつかなくなっている。
「仕方ない。シルベーヌ様、フードを取って貰えないか?」
「え?……何で?そんなことしても意味ないわよ?」
「いや、意味はある。恐らくこの場は収まる」
自信ありげなディランの態度に疑問を持ちながらも、私はゆっくりとフードを取った。
その瞬間、姦しく喚いていた女性達の声が一斉に止む。
私ったら実は時を止める魔法でも使えたのかな?
と、錯覚するくらいの完璧な静寂だった。
「なぁに?これ、どうしたの?」
ディランは私の質問には答えず、黙ったままの女性達に向かって言った。
「言葉が出ぬのも無理はない。彼女は宵闇の女神、冥府の王女シルベーヌ様。我らの崇拝する高貴なお方。されど、高貴なだけではなく気高く慈悲深い」
は?何?それ、誰のこと??
名前以外、一個も当てはまってないんだけど!?
……ち、ちょっと、そんなにうっとりとしてこっちを見ないでよー!!
惚けるディランから視線を逸らし、わたしは一度女性達を見た。
すると、どういうことか、彼女達まで同じような表情をしているではないの!?
「………なんて、美しい方……申し訳ございません。身の程をわきまえず、失礼なことを」
いや、あの……
「ああ、私は自分が恥ずかしい!!このような美しい方に嫉妬するなんて……あなたと比べたら私など月とスッポン!!」
言い過ぎじゃない?
そんなに卑屈になる必要なくない?
「通行を遮り申し訳ございません!!さぁ、お通り下さいませ!私共、ヴァーミリオン婦人会(ディラン様を愛でる会)は、シルベーヌ様を熱烈歓迎致します!!」
と、一番威勢の良かった女性が言った。
ああ、この人、きっとヴァーミリオン婦人会の代表者ね。
熱烈歓迎……嬉しいけど……微妙よ?
ディランは満足げに頷くと、ドミニオンを促し先を急いだ。
「な?収まっただろ?」
「ええ、そうね。良くわからないけど……」
「自分で気付かないのか?宵闇の中のシルベーヌ様は、人を魅了する美をお持ちだ(昼間も素敵だが……)」
「美………?美…………うーん、うん?うーー……」
知恵熱が出そうなほど考え込む私。
その頭に顎を乗せ、ディランは何故か楽しそうに笑っていた。
高くそびえる壁を見上げて、私はお間抜けな声を発した。
そんなお間抜けな声が出るくらい、ヴァーミリオン城壁は大きかった。
周囲をぐるりと高い壁で囲まれ、所々に見張り台と砲台が設置されている。
遥か向こうまで伸びている壁は、終わりが確認出来ないくらい長い。
正に、地の果てまでも続くのではないか、と思うほどの巨大さだった。
「ようこそ、ヴァーミリオン城郭都市へ。俺達の故郷へ」
そう言ってディランは微笑んだ。
城壁の入り口には大きな鉄製の扉がある。
一度閉めてしまえば、何十人が開けようとしてもびくともしない、それほどの重量がありそう。
扉の内側からは、騎士団の帰還を報せる鐘楼の鐘の音が聞こえた。
鉄扉の前で、ディランはさっと手を上げる。
すると、ゴォンと重い音を立て観音開きに扉が開いた。
鉄扉を抜けた先。
そこには、見たことのない風景が広がっていた。
まず、人の多さ!!
これほどの人は、ラシュカ王都でも見なかったし、もっと閑散としていたような気がする。
祭りのせいもあるのか、その熱気は凄まじい。
人々は、騎士団の帰りを鐘で知り、我先にと沿道に迎えに出ていた。
「団長さまぁ!!お帰りなさいー!」
「ヴァーミリオン騎士団!お疲れ様です!」
「きゃー!!ディラン様!!」
黄色い声が宙を舞い、野太い歓声が地を這う。
ディランの側には、美しい娘達が我先にと花を渡そうと詰め掛ける。
彼女達を困ったようにいなしながら、ディランは颯爽と手を振った。
その眩しい輝きといったら!!
夕闇に浮かび上がる銀色の髪は、キラキラ輝く地上の月のよう。
だから!やたら煌めかないでよっ!!
私はあまりの眩しさに目がくらみ、思わずフードを目深に被り直した。
すると、ディラン目当てで来ていた女性達が、じーっとこちらを探る視線に気付いた。
「ディラン様?その方は誰ですか?」
一人の女性が、ディランに問いかけた。
うっ。やっぱり気になるよね?
「捕らえてきた隣国の者じゃない?ほら、顔も隠しているし」
と、その後ろの女性が推測した。
「それなら、ディラン様の馬にのることないじゃない!?教えて下さい、ディラン様!それは、何者ですか!」
女性達の声は、段々大きくなり、沿道の中央まで詰め寄る。
その集団は、騎士団の進路を遮った。
「君達、危ないから退きなさい。この方はさる高貴な身分の方。我ら騎士団が責任を持ってお預りしている愛し……あ、大切な客人だ」
ディランから説明されても、女性達は引こうしない。
私の顔を見ようと色々な角度から試していて、もう収拾がつかなくなっている。
「仕方ない。シルベーヌ様、フードを取って貰えないか?」
「え?……何で?そんなことしても意味ないわよ?」
「いや、意味はある。恐らくこの場は収まる」
自信ありげなディランの態度に疑問を持ちながらも、私はゆっくりとフードを取った。
その瞬間、姦しく喚いていた女性達の声が一斉に止む。
私ったら実は時を止める魔法でも使えたのかな?
と、錯覚するくらいの完璧な静寂だった。
「なぁに?これ、どうしたの?」
ディランは私の質問には答えず、黙ったままの女性達に向かって言った。
「言葉が出ぬのも無理はない。彼女は宵闇の女神、冥府の王女シルベーヌ様。我らの崇拝する高貴なお方。されど、高貴なだけではなく気高く慈悲深い」
は?何?それ、誰のこと??
名前以外、一個も当てはまってないんだけど!?
……ち、ちょっと、そんなにうっとりとしてこっちを見ないでよー!!
惚けるディランから視線を逸らし、わたしは一度女性達を見た。
すると、どういうことか、彼女達まで同じような表情をしているではないの!?
「………なんて、美しい方……申し訳ございません。身の程をわきまえず、失礼なことを」
いや、あの……
「ああ、私は自分が恥ずかしい!!このような美しい方に嫉妬するなんて……あなたと比べたら私など月とスッポン!!」
言い過ぎじゃない?
そんなに卑屈になる必要なくない?
「通行を遮り申し訳ございません!!さぁ、お通り下さいませ!私共、ヴァーミリオン婦人会(ディラン様を愛でる会)は、シルベーヌ様を熱烈歓迎致します!!」
と、一番威勢の良かった女性が言った。
ああ、この人、きっとヴァーミリオン婦人会の代表者ね。
熱烈歓迎……嬉しいけど……微妙よ?
ディランは満足げに頷くと、ドミニオンを促し先を急いだ。
「な?収まっただろ?」
「ええ、そうね。良くわからないけど……」
「自分で気付かないのか?宵闇の中のシルベーヌ様は、人を魅了する美をお持ちだ(昼間も素敵だが……)」
「美………?美…………うーん、うん?うーー……」
知恵熱が出そうなほど考え込む私。
その頭に顎を乗せ、ディランは何故か楽しそうに笑っていた。
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