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ムーンバレー地方

46.最後の一本

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話が纏まった所で、私は最後のバナナを平らげることに決めた。
サクリスの重い話に渋々手を止めたけど、最後の一本が残っていることを忘れてはいない!
だが、しかし!
それには、まず、ディランに離して貰わなければならない。
これが一番の、そして最大の難関である。

「ディラン、そろそろ下ろして?」

「どうして?」

ほらね。絶対にそう言うと思ったわ!
どうして?じゃないのよ!
バナナが食べたいのよ!!

『バナナが食べたいそうデスよ?』

…………………………………は?
え、ちょっと、スピークルム?
さらっとバラしてるんじゃないわよ!
ディランから、私の元に戻ってきたスピークルムは、主人の心を読みそのまま口にした。
その読みに、一片の悪意が感じられたけど……気のせいかしら?

「ははっそうか!!シルベーヌ様は本当に食べることが好きなんだな!(そんなところがとても愛らしい)わかったよ、待ってろ!俺が食わせてやるから」

………………………………は?
本日2度目の「は?」だわっ!

「ディラン、自分で食べるわ。むき方も分かるし……」

ていうか、自分でむきたい。
自分でむいて食べる、それがバナナを食べる醍醐味ではないだろうか!?
と、私は思うのですよ?

「そ、そうか、仕方ないな……」

ディランは少し悲しそうに言い、私を抱いたまま、ベッドの縁に腰かけた。
そして、銀のトレイを引き寄せて「はい」と膝の上に置く。

「あ、ありがとう……………って!!そうじゃなくてぇ!」

「ん?」

ディランは可愛く首を傾げた。

「わ、私には一人で食べる自由がないのーー!?」

叫んだ私の声に、騎士団もフォーサイスと話していたサクリスも、驚いてこちらを振り返った。
だけど「やれやれまたか」という顔をして、皆一瞬で自分の仕事をし始めてしまう。
あれ?これって、騎士団の中では、ディランが私のお世話役で認知されている……ということなの!?

「一人で……食べたいのか?(側にいて欲しくないと?)」

ぐぐっと顔を近づけて、ディランは私を覗き込んだ。
その煌めく瞳が、悲しそうに揺らめいている。
うるうると、まるですがる仔犬のような瞳に、私の心は傷んだ。
ううっ……こんなの、私が意地悪してるみたいじゃない!
それを見透かしたのか、ディランは畳み掛けるように瞳を伏せた。

「ああっ!! もう、いいわ。このままで!どんな状態で食べてもバナナはバナナだもの!美味しいに決まってるわね!」

その瞬間、ディランの顔が綻んだ。
「花が咲いたよう」とは正にこのこと。
こんな顔をされたんじゃ、 もう2度と一人にして、なんて言えないかもしれない………。

「ありがとう!!ああ、シルベーヌ様が俺の腕の中でバナナを食べる……なんて幸せなことだろう!」

ねえ……本当に脳、腐ってるんじゃないでしょうねぇ!?









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