助けた騎士団になつかれました。

藤 実花

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ムーンバレー地方

40.川を渡り、崖を上り(ディラン)

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レテ川は、下流よりも上流の方が緩やかな流れになっている。
少し遠回りになるが、川幅も狭く、渡るのには絶好の場所だ。
俺達騎士団は、斥候であるマルス・ミルズ兄弟が見つけた、浅く、緩やかな流れの場所を全員で渡った。

「この先、滑る石が多いのでご注意を……ま、転けて頭打っても死にませんけどね、アハハ」

先頭のマルスがけらけらと笑った。

「そりゃそうだが、ずぶ濡れになるのはイヤだな。体が早く腐りそうだ」

スレイの言葉に騎士団全員が震えた。
そんなこと考えてもみなかったが、体が死んでいるということは、やはり腐るのか?
素知らぬ顔で川を渡りながら、俺は焦っていた。
腐るのはダメだ……腐って臭ってきたら、シルベーヌ様に嫌われる……。
側に来るなと言われたらどうしよう。
そんな思いを知ってか知らずか、スピークルム殿が言葉を発した。

『腐らないデス。体は時が止まったような状態なんデスよ』

その答えに全員がほっとしたが、きっと一番ほっとしたのは俺だ。

「な、なるほど!そうか、良かった、うん、良かった、腐らなくて……」

では、臭うこともないな。
安心していると、後ろからフォーサイスに肩を小突かれた。

「良かったな、シルベーヌ様に嫌われなくて」

………フォーサイス、お前のその勘の鋭いところが大嫌いだよ。
俺は特に何も答えず、先を急いだ。

全員が川を渡り終え、次は高い崖をよじ登る。
川の対岸は、切り立った崖になっている。
下流の方には石で作られた立派な階段があるが、そこは唯一国境を越えられる所のため、常にナシリス兵が常駐している。
狭い階段を25名で強硬突破するよりは、崖を登った方が早い。
先にマルスとミルズが切り立った崖に、用心深く楔を打ち込んでいく。
それを足掛かりにして順番に登った。
軽い者から、重い者へ。
当然最後が、フォーサイス、俺、クレバードの順になる。
だが、フォーサイスのケツを見ながら登るのは嫌だったので(その逆もな!)一番最後にしてもらった。

そうして、滞りなく全員が崖を登り、下流の屋敷を目指してひたすら走る。
疲れないというのは便利だな。
どんなに走っても息一つ切れない。
きっと、戦いの場においても、思う存分剣を振るうことが出来る。
もしかして、我らは最強なのでは……と、思ったとき、またスピークルム殿が声を発した。

『冥府の軍勢には敵わないデス』

「冥府の軍勢………それは、どんなものだ?」

『あれはもう、鬼、悪鬼デス。体も鋼のように固く、刃物では傷つかないのデス』

「そうか……そもそも、俺達とは根本から違うようだな」

『御理解が早くて助かるのデス(シルベーヌ様とは大違い)』

何やら意味深なスピークルム殿は、そういうと黙りこんだ。
だが、冥府の軍勢……もし、そんなものが地上を支配しようとやって来れば……この世など一溜りもないな。













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