39 / 169
ムーンバレー地方
39.ヴァーミリオン騎士団の象徴(ディラン)
しおりを挟む
「シルベーヌさまーー!」
「シルベーヌ様!!どこですかぁ!」
「シルベーヌさまぁ!」
騎士団が叫ぶ声が、川のそこら中で響いている。
川に落ちてから、どれほど時間が経っているかはわからない。
だが、発見が遅れれば遅れるほど、生存確率は低くなる。
俺は、下流を歩き回った。
引っ掛かりそうな木を調べ、大きな岩の裏を片っ端から見て回った。
「シルベーヌ様……君を死なせない。絶対に………」
不意に口をついて出た言葉に、何かが答えた。
『まだ死んではないようデス!』
「え?」
『シルベーヌ様は生きているようデス!』
「な!?」
その声は、首もとの鏡から聞こえた。
シルベーヌ様の首飾りから……?
「今、喋ったのか?鏡が?」
『そうデス。私はスピークルム。普段は、シルベーヌ様にしか聞こえない周波数で話してますが、今は非常事態。受信範囲を広げたのデス!』
小さな鏡は、ふんぞり返ったように見えた。
到底信じられないことだが、シルベーヌ様が死人と話せたことや、その他の不思議なことを思い出せば、あり得ることなのかもしれない。
そう思い、俺は一旦鏡を外し、目の前に掲げた。
「スピークルム殿……今、シルベーヌ様が生きていると言ったのは、本当か?」
『本当デス。シルベーヌ様の魂を感知しました。ある程度近づかないとわからないんデスが、ここに来てビンビン感じるようになったのデス』
「では!この近くにいると!?」
『はい、デス!ええと、ここからずっと上、何か大きな建物の中にいるのデス』
ずっと上?
俺は、言われるまま上を見上げた。
すると、川の対岸の崖の上に立派な屋敷がそびえ建っている。
「あれか……」
シルベーヌ様が、溺れていないのは良かったが、建物の中にいるということは……ひょっとすると捕らえられている可能性もある。
愛らしい彼女を見れば、囲い込みたくなるのは当然だ。
そして更に困るのは、その屋敷がナシリスにあるということ。
安易に国境を越えるのは、普通なら許されないことだ。
いらぬ諍いを起こす元になる。
だが、そこでふと俺は思った。
…………そんなこと、今の俺達に関係あるか?と。
「団長!」
幾多の野太い声に振り向くと、ヴァーミリオン騎士団、総勢24名が隊列を組んでいた。
「迷う必要はないよな?」
と、フォーサイスがいい、
「まだ、治療は終わってないんで」
と、ヒューゴが笑う。
「せっかく美味しい肉を用意したんですから!食べてもらわないと困ります!」
クレバードは大きな体を震わせて、
「彫刻の完成を見届けて欲しい……」
と、アッシュが呟いた。
「国境なんてバカらしいよな。もうおれたち、生者と死者の境を越えてるんだぜ?これ以上のモノないよな?」
ロビーは朗らかに笑った。
「全くだ!!国境なぞ我らにはない!ヴァーミリオン騎士団の象徴とも言えるシルベーヌ様を、迎えに行こうではないか!!」
俺は剣を抜き空に突き立てた。
同時に、空気を裂くような怒号が上がり、一時大地も震えた。
「シルベーヌ様!!どこですかぁ!」
「シルベーヌさまぁ!」
騎士団が叫ぶ声が、川のそこら中で響いている。
川に落ちてから、どれほど時間が経っているかはわからない。
だが、発見が遅れれば遅れるほど、生存確率は低くなる。
俺は、下流を歩き回った。
引っ掛かりそうな木を調べ、大きな岩の裏を片っ端から見て回った。
「シルベーヌ様……君を死なせない。絶対に………」
不意に口をついて出た言葉に、何かが答えた。
『まだ死んではないようデス!』
「え?」
『シルベーヌ様は生きているようデス!』
「な!?」
その声は、首もとの鏡から聞こえた。
シルベーヌ様の首飾りから……?
「今、喋ったのか?鏡が?」
『そうデス。私はスピークルム。普段は、シルベーヌ様にしか聞こえない周波数で話してますが、今は非常事態。受信範囲を広げたのデス!』
小さな鏡は、ふんぞり返ったように見えた。
到底信じられないことだが、シルベーヌ様が死人と話せたことや、その他の不思議なことを思い出せば、あり得ることなのかもしれない。
そう思い、俺は一旦鏡を外し、目の前に掲げた。
「スピークルム殿……今、シルベーヌ様が生きていると言ったのは、本当か?」
『本当デス。シルベーヌ様の魂を感知しました。ある程度近づかないとわからないんデスが、ここに来てビンビン感じるようになったのデス』
「では!この近くにいると!?」
『はい、デス!ええと、ここからずっと上、何か大きな建物の中にいるのデス』
ずっと上?
俺は、言われるまま上を見上げた。
すると、川の対岸の崖の上に立派な屋敷がそびえ建っている。
「あれか……」
シルベーヌ様が、溺れていないのは良かったが、建物の中にいるということは……ひょっとすると捕らえられている可能性もある。
愛らしい彼女を見れば、囲い込みたくなるのは当然だ。
そして更に困るのは、その屋敷がナシリスにあるということ。
安易に国境を越えるのは、普通なら許されないことだ。
いらぬ諍いを起こす元になる。
だが、そこでふと俺は思った。
…………そんなこと、今の俺達に関係あるか?と。
「団長!」
幾多の野太い声に振り向くと、ヴァーミリオン騎士団、総勢24名が隊列を組んでいた。
「迷う必要はないよな?」
と、フォーサイスがいい、
「まだ、治療は終わってないんで」
と、ヒューゴが笑う。
「せっかく美味しい肉を用意したんですから!食べてもらわないと困ります!」
クレバードは大きな体を震わせて、
「彫刻の完成を見届けて欲しい……」
と、アッシュが呟いた。
「国境なんてバカらしいよな。もうおれたち、生者と死者の境を越えてるんだぜ?これ以上のモノないよな?」
ロビーは朗らかに笑った。
「全くだ!!国境なぞ我らにはない!ヴァーミリオン騎士団の象徴とも言えるシルベーヌ様を、迎えに行こうではないか!!」
俺は剣を抜き空に突き立てた。
同時に、空気を裂くような怒号が上がり、一時大地も震えた。
10
お気に入りに追加
2,687
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。
朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。
傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。
家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。
最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
子爵令嬢は高貴な大型犬に護られる
颯巳遊
恋愛
子爵令嬢のシルヴィアはトラウマを抱えながらも必死に生きている。それに寄り添う大型犬のようなカインに身も心も護られています。
自己完結で突っ走る令嬢とそれを見守りながら助けていく大型犬の恋愛物語
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される
佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。
異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。
誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。
ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。
隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。
初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。
しかし、クラウは国へ帰る事となり…。
「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」
「わかりました」
けれど卒業後、ミアが向かったのは……。
※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜
咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。
実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。
どうして貴方まで同じ世界に転生してるの?
しかも王子ってどういうこと!?
お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで!
その愛はお断りしますから!
※更新が不定期です。
※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。
※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる