助けた騎士団になつかれました。

藤 実花

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ムーンバレー地方

39.ヴァーミリオン騎士団の象徴(ディラン)

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「シルベーヌさまーー!」

「シルベーヌ様!!どこですかぁ!」

「シルベーヌさまぁ!」

騎士団が叫ぶ声が、川のそこら中で響いている。
川に落ちてから、どれほど時間が経っているかはわからない。
だが、発見が遅れれば遅れるほど、生存確率は低くなる。
俺は、下流を歩き回った。
引っ掛かりそうな木を調べ、大きな岩の裏を片っ端から見て回った。

「シルベーヌ様……君を死なせない。絶対に………」

不意に口をついて出た言葉に、何かが答えた。

『まだ死んではないようデス!』

「え?」

『シルベーヌ様は生きているようデス!』

「な!?」

その声は、首もとの鏡から聞こえた。
シルベーヌ様の首飾りから……?

「今、喋ったのか?鏡が?」

『そうデス。私はスピークルム。普段は、シルベーヌ様にしか聞こえない周波数で話してますが、今は非常事態。受信範囲を広げたのデス!』

小さな鏡は、ふんぞり返ったように見えた。
到底信じられないことだが、シルベーヌ様が死人と話せたことや、その他の不思議なことを思い出せば、あり得ることなのかもしれない。
そう思い、俺は一旦鏡を外し、目の前に掲げた。

「スピークルム殿……今、シルベーヌ様が生きていると言ったのは、本当か?」

『本当デス。シルベーヌ様の魂を感知しました。ある程度近づかないとわからないんデスが、ここに来てビンビン感じるようになったのデス』

「では!この近くにいると!?」

『はい、デス!ええと、ここからずっと上、何か大きな建物の中にいるのデス』

ずっと上?
俺は、言われるまま上を見上げた。
すると、川の対岸の崖の上に立派な屋敷がそびえ建っている。

「あれか……」

シルベーヌ様が、溺れていないのは良かったが、建物の中にいるということは……ひょっとすると捕らえられている可能性もある。
愛らしい彼女を見れば、囲い込みたくなるのは当然だ。
そして更に困るのは、その屋敷がナシリスにあるということ。
安易に国境を越えるのは、普通なら許されないことだ。
いらぬ諍いを起こす元になる。
だが、そこでふと俺は思った。

…………そんなこと、今の俺達に関係あるか?と。

「団長!」

幾多の野太い声に振り向くと、ヴァーミリオン騎士団、総勢24名が隊列を組んでいた。

「迷う必要はないよな?」

と、フォーサイスがいい、

「まだ、治療は終わってないんで」

と、ヒューゴが笑う。

「せっかく美味しい肉を用意したんですから!食べてもらわないと困ります!」

クレバードは大きな体を震わせて、

「彫刻の完成を見届けて欲しい……」

と、アッシュが呟いた。

「国境なんてバカらしいよな。もうおれたち、生者と死者の境を越えてるんだぜ?これ以上のモノないよな?」

ロビーは朗らかに笑った。

「全くだ!!国境なぞ我らにはない!ヴァーミリオン騎士団の象徴とも言えるシルベーヌ様を、迎えに行こうではないか!!」

俺は剣を抜き空に突き立てた。
同時に、空気を裂くような怒号が上がり、一時大地も震えた。





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