上 下
38 / 169
ムーンバレー地方

38.誰かいませんか!?(スピークルム)

しおりを挟む
ううっ……何と言うことでしょう!

私、シルベーヌ様がお産まれになってから、お側を離れるのは初めてのことなのデス!
浅はかにも、お高いヒールでぬかるんだ小道を下ろうとするシルベーヌ様。
絶対コケるに違いない、無様に転げる姿をムフフと嘲笑ってやろう、と思ったのが運のツキ……。
危ないデス!とちゃんとお止めしていれば、今、私はこんな木の根っこに放り出されていないかもしれないんデスーー!

私がこんなに飛ばされるほど、激しく転げ落ちたシルベーヌ様は、恐らく……川に落ちたと思うのデス。
姿は見えませんでしたが、バシャン!という音が聞こえたのデス!
昨日からの雨で、川は濁流と化しているのデス………。
そんな所に落ちては、ヒョロガリのシルベーヌ様なんてポッキリ折れてしまうのデスよーー!
そして下流にて、水死体で発見されるのデス……。
あ、そういえば水死体は、水色で発光するんデス。
分かりやすいでしょ?

ああっ、幼い頃より私がお育てした(も同然の)美しいシルベーヌ様は、恋も知らないまま、水死体になってしまうのでしょうか、デスーー!
……………………………。
……………………………。

いや、ほんと、誰か助けて欲しいのデス。
散々冗談を言いましたが、私にとってシルベーヌ様は、我が子と同じ。
この身に代えてもお守りしたい存在なのデス………。
ううっ、誰かーー!!誰か、いませんかぁーーー!

「団長!こっちだ!」

ん?んん?この声は??

「どうした!?何か見つかったか?シルベーヌ様か!?」

造園師のロビーとかいうやつと、キラキラ団長デスか?
ロビーは木の根っこから、私を拾い上げ、団長に見せたのデス。

「これは……シルベーヌ様の……もしや!川に落ちたのでは!?」

団長の顔が、悲痛に歪んでいるのデス……。
川に落ちたのは間違いないと思うのデスよ。
早く救って欲しいのデスが……。

「クソッ!急いで川を捜索しろ!特に下流を重点的にだ!一刻の猶予もないぞ」

団長の声に、複数の男の声が被さって聞こえたのデスよ。
そして、団長は私を首にかけ、ぎゅうぎゅうと、握りしめたのデス!
ぐぇぇぇぇ…………。

「シルベーヌ様……俺が目を離したばかりにこんな事態に……ああ、君が死んでしまったら、俺も生きてはいられない!!」

………………あなた、もう死んでますよ?
ま、そんなことは、この際どうでもいいのデス。
私の思うに、キラキラ団長はシルベーヌ様のことを好きなのではなかろうか?
私としても?シルベーヌ様に色恋のあれこれがあるのは嬉しいのデスが、それは、最低でも《生物限定》だと思うのデス。
死んでいてもいい!と、シルベーヌ様が言うなら別デスけどね?
むー……男として、いい物件であるのは間違いないんデスけどねぇ、ええ、ほんとうに。

それから、団長は私を首に掛けたまま、ものスゴい勢いで下流を目指して走りだしたのデス。
その必死さに、私、愛を感じてしまいました、鏡のクセに……デス。










しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

寒い夜だから、夫の腕に閉じ込められました

絹乃
恋愛
学生なのに結婚したわたしは、夫と同じベッドで眠っています。でも、キスすらもちゃんとしたことがないんです。ほんとはわたし、キスされたいんです。でも言えるはずがありません。

処理中です...