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ムーンバレー地方

37.消えた王女

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ラシュカ王に既に妃がいたのは初耳だった。
父王からは「お前を正妃とするらしい」としか聞いておらず、王の周りの詳しい事情など全く知らない……というか興味もなかった。
地上に行ける、ということだけで舞い上がっていたから、どうでも良かったのよね。

「それで今は?お妃様として王都にいるの?」

「それが……全く連絡が取れなくなってしまったんだ……」

「え………どういうこと!?」

嫁いだ王女と連絡が取れないなんてこと、有りうるんだろうか?
私は首を傾げてサクリスを見た。
彼は深く溜め息をつき、私をベッドに腰掛けさせると、自分も少し距離を置きその横に座って言った。

「最初のうちは、度々手紙が届いていた。王に愛されて幸せだとか、王は優しいだとかな……だが半年経った頃から徐々に手紙が途絶え……そのうち……一通も来なくなった……」

「ラシュカ王を訪ねたりは?」

「したさ!!だが……流行り病で臥せっているとか、フロールが会いたくないと言っているだとか……いろいろ理由をつけてはぐらかすんだ!」

サクリスは拳を握りしめ、自分の膝に叩きつけた。

「どういうことかしら……臥せっていてもお見舞いは出来るし、家族に会いたくないだなんて言わないと思うけど……」

「わからない……さっぱりわからないんだ……生きているのかどうかさえも……本当はもう命を奪われているのかもしれない、なんてことまで考えてしまう……」

「サクリス……」

その彼の辛さは、私にも伝わった。

「父も母も……心労で臥せってしまった……特に母は、体まで壊してしまい、起き上がることも出来ない。城内では、ナシリスへの侮辱とも言える行為に、ラシュカに対して戦を仕掛けようという過激派が増え、もう戦争は避けられない事態になっている」

「そんな……」

娘の安否を確認出来ないなんて、臥せってしまうのも無理はない。
ナシリス城内の動きも、当然起こりうることだ。
だけど、武力で解決することがいい案とは思えない。
たぶんサクリスもそう思っているんじゃないかしら?

「サクリス、あなたは……どうすればいいと思っているの?」

思いきって尋ねてみた。

「……出来ることなら戦争は避けたい。民の負担になることはしたくないんだ。ラシュカに挑むということは、ウサギがトラに挑むようなものだ。勝つ可能性は低い……」

更にサクリスは続けた。

「だが!妹を、フロールを放っては置けない!ナシリスの王子として、兄として、これはラシュカに問いたださなくてはならないことだ!」

悲痛な顔をしたサクリスは、語気を強めた。

憧れたこの美しい地上にも、何かしら影の部分がある。
呑気に夢だけを見ていた私は、少し、その考えを改めた。








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