37 / 169
ムーンバレー地方
37.消えた王女
しおりを挟む
ラシュカ王に既に妃がいたのは初耳だった。
父王からは「お前を正妃とするらしい」としか聞いておらず、王の周りの詳しい事情など全く知らない……というか興味もなかった。
地上に行ける、ということだけで舞い上がっていたから、どうでも良かったのよね。
「それで今は?お妃様として王都にいるの?」
「それが……全く連絡が取れなくなってしまったんだ……」
「え………どういうこと!?」
嫁いだ王女と連絡が取れないなんてこと、有りうるんだろうか?
私は首を傾げてサクリスを見た。
彼は深く溜め息をつき、私をベッドに腰掛けさせると、自分も少し距離を置きその横に座って言った。
「最初のうちは、度々手紙が届いていた。王に愛されて幸せだとか、王は優しいだとかな……だが半年経った頃から徐々に手紙が途絶え……そのうち……一通も来なくなった……」
「ラシュカ王を訪ねたりは?」
「したさ!!だが……流行り病で臥せっているとか、フロールが会いたくないと言っているだとか……いろいろ理由をつけてはぐらかすんだ!」
サクリスは拳を握りしめ、自分の膝に叩きつけた。
「どういうことかしら……臥せっていてもお見舞いは出来るし、家族に会いたくないだなんて言わないと思うけど……」
「わからない……さっぱりわからないんだ……生きているのかどうかさえも……本当はもう命を奪われているのかもしれない、なんてことまで考えてしまう……」
「サクリス……」
その彼の辛さは、私にも伝わった。
「父も母も……心労で臥せってしまった……特に母は、体まで壊してしまい、起き上がることも出来ない。城内では、ナシリスへの侮辱とも言える行為に、ラシュカに対して戦を仕掛けようという過激派が増え、もう戦争は避けられない事態になっている」
「そんな……」
娘の安否を確認出来ないなんて、臥せってしまうのも無理はない。
ナシリス城内の動きも、当然起こりうることだ。
だけど、武力で解決することがいい案とは思えない。
たぶんサクリスもそう思っているんじゃないかしら?
「サクリス、あなたは……どうすればいいと思っているの?」
思いきって尋ねてみた。
「……出来ることなら戦争は避けたい。民の負担になることはしたくないんだ。ラシュカに挑むということは、ウサギがトラに挑むようなものだ。勝つ可能性は低い……」
更にサクリスは続けた。
「だが!妹を、フロールを放っては置けない!ナシリスの王子として、兄として、これはラシュカに問いたださなくてはならないことだ!」
悲痛な顔をしたサクリスは、語気を強めた。
憧れたこの美しい地上にも、何かしら影の部分がある。
呑気に夢だけを見ていた私は、少し、その考えを改めた。
父王からは「お前を正妃とするらしい」としか聞いておらず、王の周りの詳しい事情など全く知らない……というか興味もなかった。
地上に行ける、ということだけで舞い上がっていたから、どうでも良かったのよね。
「それで今は?お妃様として王都にいるの?」
「それが……全く連絡が取れなくなってしまったんだ……」
「え………どういうこと!?」
嫁いだ王女と連絡が取れないなんてこと、有りうるんだろうか?
私は首を傾げてサクリスを見た。
彼は深く溜め息をつき、私をベッドに腰掛けさせると、自分も少し距離を置きその横に座って言った。
「最初のうちは、度々手紙が届いていた。王に愛されて幸せだとか、王は優しいだとかな……だが半年経った頃から徐々に手紙が途絶え……そのうち……一通も来なくなった……」
「ラシュカ王を訪ねたりは?」
「したさ!!だが……流行り病で臥せっているとか、フロールが会いたくないと言っているだとか……いろいろ理由をつけてはぐらかすんだ!」
サクリスは拳を握りしめ、自分の膝に叩きつけた。
「どういうことかしら……臥せっていてもお見舞いは出来るし、家族に会いたくないだなんて言わないと思うけど……」
「わからない……さっぱりわからないんだ……生きているのかどうかさえも……本当はもう命を奪われているのかもしれない、なんてことまで考えてしまう……」
「サクリス……」
その彼の辛さは、私にも伝わった。
「父も母も……心労で臥せってしまった……特に母は、体まで壊してしまい、起き上がることも出来ない。城内では、ナシリスへの侮辱とも言える行為に、ラシュカに対して戦を仕掛けようという過激派が増え、もう戦争は避けられない事態になっている」
「そんな……」
娘の安否を確認出来ないなんて、臥せってしまうのも無理はない。
ナシリス城内の動きも、当然起こりうることだ。
だけど、武力で解決することがいい案とは思えない。
たぶんサクリスもそう思っているんじゃないかしら?
「サクリス、あなたは……どうすればいいと思っているの?」
思いきって尋ねてみた。
「……出来ることなら戦争は避けたい。民の負担になることはしたくないんだ。ラシュカに挑むということは、ウサギがトラに挑むようなものだ。勝つ可能性は低い……」
更にサクリスは続けた。
「だが!妹を、フロールを放っては置けない!ナシリスの王子として、兄として、これはラシュカに問いたださなくてはならないことだ!」
悲痛な顔をしたサクリスは、語気を強めた。
憧れたこの美しい地上にも、何かしら影の部分がある。
呑気に夢だけを見ていた私は、少し、その考えを改めた。
0
お気に入りに追加
2,686
あなたにおすすめの小説
愛人契約~純情な貧乏娘に一目ぼれ!?あの手この手で口説きまくる
青の雀
恋愛
愛を信じない男、だが、カラダの熱は冷ましたい
月々100万円もの手当を支払い、美女と愛人契約して囲っている
それも自宅ではなく、ホテルの部屋に……自宅に連れ込み、女房気取りされるのを嫌う
その100万円は、愛人の服飾費に充てられる
そんな男がふとしたことで、素朴で質素を絵に描いたような娘と出会ってしまう
今まで一度も女性を愛したことがない男と平凡女性の愛の行方はいかに!?
一瞬で恋に堕ちた男は、娘の気を惹くため、あの手この手で口説きまくる
これも初夢で見ましたが、この話は、現代世界ではなく異世界向きに仕立てようと思っています
Rは保険です
【完結】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?
廻り
恋愛
魔法学園に通う伯爵令嬢のミシェル·ブラント17歳はある日、前世の記憶を思い出し自分が美少女ゲームのSSRキャラだと知る。
主人公の攻略対象である彼女は、彼には関わらないでおこうと決意するがその直後、主人公である第二王子のルシアン17歳に助けられてしまう。
どうにか彼を回避したいのに、彼のペースに飲まれて接点は増えるばかり。
けれど彼には助けられることが多く、すぐに優しくて素敵な男性だと気がついてしまう。
そして、なんだか思っていたのと違う展開に……。これではまるで乙女ゲームでは?
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
【完結】聖騎士を死なせた聖女は平民として生きる?
みやちゃん
恋愛
ある街にレピアという少女がやってきた。
少女は聖騎士を死なせた元聖女だった。
国最高の聖女とまで言われた彼女は愛した聖騎士を死なせてしまった…
その事実はレピアを苦しめるが、周囲の者達の反応は全く違うものだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる