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ムーンバレー地方
27.花より団子
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雨粒が落ちる庭には、ロビーと騎士団の庭組が作業をしていた。
いつの間にか、蔓バラや、名も知らない色とりどりの花が天国のように咲いている。
きっと夜も昼も、ロビー達が森へ行き、植え替えて、泥だらけになりながら頑張ってくれたんだ。
その気持ちと、庭の美しさとで、私の胸はいっぱいになった。
「あ、シルベーヌ様!!おはようございます!」
「シルベーヌ様!ご覧ください!」
「シルベーヌ様ー、もう完成しますよー!」
皆が私に気付き、手を振って声をかける。
「おはようー!!すごくキレイね!!ありがとう。ご飯食べたら見に行くわね!」
と言うと、何故かどっと笑いが起こった。
きっと「ご飯が先か!?」と思ったに違いない……。
胸はいっぱいになったけど、お腹はいっぱいにならないのよ。
ごめんなさいね、今は花より団子を優先するわ!
緊急事態だからね!
そして、私はディランと共に2日分の空腹を満たすためにいそいそと部屋を出た。
私がいた部屋は、1階の中央階段の真横の部屋で、本来ならメイドか執事が使うような場所であったらしい。
今回は突然の雨で2階が出来ていなかったため、やむなく私を入れたのだとディランは言っていた。
部屋を出てすぐ、2階へ上がる階段の手摺にスレイが登っているのを見て、私は声をかけた。
「スレイ!おはよう!」
「おっ!シルベーヌ様、おはようございます。もう疲れは残ってませんか?」
「ありがとう。2日も寝ればね……寝すぎて背中とか肩が痛いけど……」
「ははっ!いいじゃないですか?痛みがあるのは生きてる証拠!俺たちの分も味わって下さい!」
それはちょっと笑えない……と思ったけど、これもスレイの自虐的な冗談だと考えると、ここで深刻になるのは良くない!
「そうよね、頑張って生きて味わうわね!」
「そうして下さい!あ、2階のシルベーヌ様の部屋ももうすぐ出来ますからね!」
「まぁ、本当!?仕事が早いわねぇ!後で見に行かせてもらうわ」
「はい。ご飯の後に寄って下さい」
………ぐぬぬ。
バレている。
さてはさっきの庭組との会話を聞いていた?
大声で叫んだのを少し後悔しながら、私はその場を後にし、先を急いだ。
中央階段から右に進み、一番奥まった場所に調理場はあった。
ここは前の様式を変えずに、そのまま利用しているらしく、然程手を加えている様子はない。
そのかわり、前からあったであろう、たくさんの鍋やいくつかの包丁は、鏡か!と思うくらいピカピカに磨かれていた。
これ、クレバードの仕業よね?
さすが料理人、道具の手入れも妥協がない。
誇りを感じます!
だけど、クレバードの存在感たっぷりな調理場には、何故か本人の姿はなかった。
「ごは………クレバードは、どうしたのかしら?」
振り返りディランに尋ねると、ああ!と何か思い出したように言った。
「ロビーが捕まえた鹿を川で捌いてるんだと思う」
「鹿!?」
「肉が足りないってしきりに言っていたからな。どうしても食わせたいんだろう」
「肉……私、初めて食べるんだけど、どうなのかしら」
「旨いよ。特にクレバードの作る肉料理は臭みがない。塩や香草を上手く利用して、上品に仕上げるからな。まぁ、一度食べて見ればわかるさ」
「………聞いてるだけで、お腹空いてきちゃった……」
私はグゥとお腹を鳴らして、ディランを見た。
すると、彼は竈に置かれた寸胴鍋の蓋を開け、私を手招きした。
「ほら、これ。クレバードが目覚めのお菓子を用意してくれているぞ」
「な!何ですって!!お菓子!?」
私は急いで寸胴鍋に張り付いた。
中を覗くと、白くふわふわしたものが、フワーンと湯気を上げている。
そして、美味しそうな甘い香りもする!
「食べてもいいのかしら?」
「いいに決まってる。だって、シルベーヌ様しか食べる人はいないだろ?」
「そうだけど……勝手に食べてもいいのかな?ってこと」
「クレバードがそんなことで怒ると思うか?」
「思わない」
大らかで、優しいクレバードが怒るなんて考えられない。
「だろ?自分がいない時にシルベーヌ様が起きても、すぐに食べられるように作っておいたんだよ」
「…………うん。私もそう思う」
寸胴鍋の中からお菓子を取り出し、掌に乗せてみた。
良く見ると、白いフワフワの生地に何か赤いものが練り込まれている。
一口大に千切って口に入れると、先に控えめな甘さが、次に知っている味が口内で広がった。
「人参が……練り込まれてる。甘くて、美味しい!そして……」
私はディランを振り返った。
「体にいい!!」
「体にいい」
ディランとほぼ同時に言った言葉に破顔し、私は二口目を口に放り込む。
喉に詰まらせないかとヒヤヒヤするディランを尻目にフワフワなお菓子は、すぐに私のお腹に消えた。
いつの間にか、蔓バラや、名も知らない色とりどりの花が天国のように咲いている。
きっと夜も昼も、ロビー達が森へ行き、植え替えて、泥だらけになりながら頑張ってくれたんだ。
その気持ちと、庭の美しさとで、私の胸はいっぱいになった。
「あ、シルベーヌ様!!おはようございます!」
「シルベーヌ様!ご覧ください!」
「シルベーヌ様ー、もう完成しますよー!」
皆が私に気付き、手を振って声をかける。
「おはようー!!すごくキレイね!!ありがとう。ご飯食べたら見に行くわね!」
と言うと、何故かどっと笑いが起こった。
きっと「ご飯が先か!?」と思ったに違いない……。
胸はいっぱいになったけど、お腹はいっぱいにならないのよ。
ごめんなさいね、今は花より団子を優先するわ!
緊急事態だからね!
そして、私はディランと共に2日分の空腹を満たすためにいそいそと部屋を出た。
私がいた部屋は、1階の中央階段の真横の部屋で、本来ならメイドか執事が使うような場所であったらしい。
今回は突然の雨で2階が出来ていなかったため、やむなく私を入れたのだとディランは言っていた。
部屋を出てすぐ、2階へ上がる階段の手摺にスレイが登っているのを見て、私は声をかけた。
「スレイ!おはよう!」
「おっ!シルベーヌ様、おはようございます。もう疲れは残ってませんか?」
「ありがとう。2日も寝ればね……寝すぎて背中とか肩が痛いけど……」
「ははっ!いいじゃないですか?痛みがあるのは生きてる証拠!俺たちの分も味わって下さい!」
それはちょっと笑えない……と思ったけど、これもスレイの自虐的な冗談だと考えると、ここで深刻になるのは良くない!
「そうよね、頑張って生きて味わうわね!」
「そうして下さい!あ、2階のシルベーヌ様の部屋ももうすぐ出来ますからね!」
「まぁ、本当!?仕事が早いわねぇ!後で見に行かせてもらうわ」
「はい。ご飯の後に寄って下さい」
………ぐぬぬ。
バレている。
さてはさっきの庭組との会話を聞いていた?
大声で叫んだのを少し後悔しながら、私はその場を後にし、先を急いだ。
中央階段から右に進み、一番奥まった場所に調理場はあった。
ここは前の様式を変えずに、そのまま利用しているらしく、然程手を加えている様子はない。
そのかわり、前からあったであろう、たくさんの鍋やいくつかの包丁は、鏡か!と思うくらいピカピカに磨かれていた。
これ、クレバードの仕業よね?
さすが料理人、道具の手入れも妥協がない。
誇りを感じます!
だけど、クレバードの存在感たっぷりな調理場には、何故か本人の姿はなかった。
「ごは………クレバードは、どうしたのかしら?」
振り返りディランに尋ねると、ああ!と何か思い出したように言った。
「ロビーが捕まえた鹿を川で捌いてるんだと思う」
「鹿!?」
「肉が足りないってしきりに言っていたからな。どうしても食わせたいんだろう」
「肉……私、初めて食べるんだけど、どうなのかしら」
「旨いよ。特にクレバードの作る肉料理は臭みがない。塩や香草を上手く利用して、上品に仕上げるからな。まぁ、一度食べて見ればわかるさ」
「………聞いてるだけで、お腹空いてきちゃった……」
私はグゥとお腹を鳴らして、ディランを見た。
すると、彼は竈に置かれた寸胴鍋の蓋を開け、私を手招きした。
「ほら、これ。クレバードが目覚めのお菓子を用意してくれているぞ」
「な!何ですって!!お菓子!?」
私は急いで寸胴鍋に張り付いた。
中を覗くと、白くふわふわしたものが、フワーンと湯気を上げている。
そして、美味しそうな甘い香りもする!
「食べてもいいのかしら?」
「いいに決まってる。だって、シルベーヌ様しか食べる人はいないだろ?」
「そうだけど……勝手に食べてもいいのかな?ってこと」
「クレバードがそんなことで怒ると思うか?」
「思わない」
大らかで、優しいクレバードが怒るなんて考えられない。
「だろ?自分がいない時にシルベーヌ様が起きても、すぐに食べられるように作っておいたんだよ」
「…………うん。私もそう思う」
寸胴鍋の中からお菓子を取り出し、掌に乗せてみた。
良く見ると、白いフワフワの生地に何か赤いものが練り込まれている。
一口大に千切って口に入れると、先に控えめな甘さが、次に知っている味が口内で広がった。
「人参が……練り込まれてる。甘くて、美味しい!そして……」
私はディランを振り返った。
「体にいい!!」
「体にいい」
ディランとほぼ同時に言った言葉に破顔し、私は二口目を口に放り込む。
喉に詰まらせないかとヒヤヒヤするディランを尻目にフワフワなお菓子は、すぐに私のお腹に消えた。
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