上 下
24 / 169
ムーンバレー地方

24.料理人の生き甲斐、衛生師の動揺

しおりを挟む
笑いが押さえられないディランのことは放置して、私はクレバードの横に座り込み、話を続けた。

「それで、どうしてこのブロッコリーをシチューに入れたの?」

「これは優秀な食材なんです。今、シルベーヌ様に必要な栄養素が粗方補充出来ますからね!」

「へぇ!?このもさもさしたのがねぇ?」

目を丸くして見る私を、クレバードは目を細めて見た。

「本来は茹でたり、水に浸けると栄養素が溶け出てしまうのですが、シチューに入れると、スープまでちゃんと飲むでしょう?お手軽に美味しく、栄養を摂取出来るというわけです」

「なるほどね!勉強になります。クレバードのご飯を食べてると、健康になれそうな気がするわ!」

私は手にしたスプーンでシチューを掬い、勢い良く口に入れた。
朝のシチューと少し違ったのは食感と、何か瑞々しい後味。
ホッコリとするシチューから、どこかオシャレなシチューへと変化している。

「美味しい。うん。洗練された味がするわ!何かを足すだけでこんなに違うものなのね」

「はい。簡単な足し算なんですがね。それが思いも寄らない奇跡をおこす。料理の奥深さはそこにあるのだと思います!」

クレバードは息巻いた。
彼のその熱心な様子からは、料理に対する情熱が溢れてくるようだった。
食材に敬意を払い、その栄養を最大限に引出し、更に美味しく進化させる。
持って生まれた才能もあるかもしれないけど、それよりは、クレバードの育った環境の方が大きく影響しているのかもしれない。
培われた努力や勉強の賜物。
彼にはそんな言葉が相応しい。

「クレバード」

「はい!何か?」

「あなたの作る料理、私大好きよ。短い間かもしれないけど、とても楽しみにしてるから!今日の夜も、明日の朝も……ね!」

一瞬の空白の後。
クレバードはとびきりの笑顔で笑った。

「シルベーヌ様を元気に美しくすることが、今の私の生き甲斐です!あ、死んでますけどね」

なんてブラックな冗談を……と思ったけど、クレバードの笑顔は晴れやかだった。
私は皿のシチューを全て平らげ、予めヒューゴが調合してくれていたハーブティーを香りを堪能しながら、ゆっくりと飲んだ。
そして、ちょうど飲み干した頃、ロビーとヒューゴが早足で帰ってきた。

「おっと、お食事中だったか」

ロビーが背負ったものをドサッと下ろした。
茶色の大きい麻袋の中には、何か重量のあるものが入っていたらしく、ロビーはやれやれと肩を回している。

「シルベーヌ様、軟膏が完成しましたよ。はい、それでは、先に手で試してみましょうね?」

優しく言うヒューゴに、私は疑いもなく手を出した。
医者っていうのは、患者に信頼されないと駄目なのよね。
その点でいうと、ヒューゴはこの職業に向いている。

「まずは、手の甲で……」

と、優しくゆっくり円を描くようにすりこんでいく。

「どうですか?肌、ピリピリしたりとか熱かったりとか違和感ないですか?」

「今のところ、ないわ」

「わかりました。では、あともう少し様子を見て、問題なければ顔にも塗っていきましょう」

「はい、ヒューゴ」

感謝を込めて、ニッコリ微笑んでおく。
すると、ヒューゴは突然挙動不審になり、持っていた軟膏をストンと落とした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛人契約~純情な貧乏娘に一目ぼれ!?あの手この手で口説きまくる

青の雀
恋愛
愛を信じない男、だが、カラダの熱は冷ましたい 月々100万円もの手当を支払い、美女と愛人契約して囲っている それも自宅ではなく、ホテルの部屋に……自宅に連れ込み、女房気取りされるのを嫌う その100万円は、愛人の服飾費に充てられる そんな男がふとしたことで、素朴で質素を絵に描いたような娘と出会ってしまう 今まで一度も女性を愛したことがない男と平凡女性の愛の行方はいかに!? 一瞬で恋に堕ちた男は、娘の気を惹くため、あの手この手で口説きまくる これも初夢で見ましたが、この話は、現代世界ではなく異世界向きに仕立てようと思っています Rは保険です

【完結】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?

廻り
恋愛
魔法学園に通う伯爵令嬢のミシェル·ブラント17歳はある日、前世の記憶を思い出し自分が美少女ゲームのSSRキャラだと知る。 主人公の攻略対象である彼女は、彼には関わらないでおこうと決意するがその直後、主人公である第二王子のルシアン17歳に助けられてしまう。 どうにか彼を回避したいのに、彼のペースに飲まれて接点は増えるばかり。 けれど彼には助けられることが多く、すぐに優しくて素敵な男性だと気がついてしまう。 そして、なんだか思っていたのと違う展開に……。これではまるで乙女ゲームでは?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。

天災
恋愛
 美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。  とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

処理中です...