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ムーンバレー地方
21.初めて知る感情(ディラン)
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ヴァーミリオン領主の一人息子として生まれた俺は、幼少の頃より厳しく育てられた。
父は先の戦争で大勝利を決定付けたラシュカの英雄ミルファス・ヴァーミリオンである。
その為地方の子爵という身分でありながら、過分な領地を与えられることになったのだ。
また、父は厳格な指導者でもあった。
ヴァーミリオン騎士団長として。
英雄として。
父は誰がどう見ても完璧だった。
当然、俺も他の誰より優秀でなくてはならなかったし、負けることは許されなかった。
剣を取っては、1番に。
槍を持っても同様だ。
だが、どんなに頑張っても、父が俺を見ることはなかった。
………いや、違うな、そうじゃなくて。
見てはいたが、父が見ていたのは、常に跡取りとしての俺だった。
ヴァーミリオン領主として相応しいか?
騎士団長として適任か?
だから常に、家名を第一に考え、家の役に国の役に立てと教えられた。
そして、俺は期待に応え続けた。
俺が19になった時。
父が領主の座と、騎士団長を退くことを決めた。
それと同時に、俺には婚約者が出来た。
ラシュカ王のいとこ、エレナ・フォード公爵令嬢だ。
彼女は現宰相の娘でもあった。
子爵家と公爵家、このどう考えてもおかしい組み合わせは、あることが関与していた。
父が戦功により与えられた土地に、ある鉱山があった。
元は、他国のもので、父がそれを少ない戦力で奪い取ったことから、褒美として先王に与えられたものだ。
その鉱山から美しい石が産出した、と言う話を聞いたのはそれから暫くしてのこと。
鉱山からは、石だけでなく金も出始め、ヴァーミリオン領はラシュカ1番の金持ちとなった。
鉱山の仕事をするためとか、それに付随した仕事をする人間がヴァーミリオンに集まり、町は栄え、人が増えた。
よい人材が自然と集まり、騎士団も強くなる。
だが、それは良いことばかりではない。
金があるところには、悪いやつも寄ってくる。
つまり、前述の俺の婚約の話はヴァーミリオンの資産を欲する公爵家が仕組んだ政略結婚だったのだ。
父は当然その婚約を断らなかった。
そもそも、子爵家が公爵家の申し出を断ることは出来ない。
だが、ヴァーミリオンの財力を持ってすれば断ることは可能である。
それをしなかった理由は一つ。
金も名誉も手に入れたヴァーミリオンに一つだけ足りないもの……それが欲しかったからだ。
高貴なる血筋、だ。
俺もその婚約に異議は唱えなかった。
その女が好きだったのか?
………いいや、まったく違う。
美しい女だったからか?
………何の関係もないな。
俺はただ、父の「家と国の役に立て」という言葉に従ったんだ。
『あなたはあなた。そこに居てくれるだけでいい』
そうあの方は言った。
俺はそこで一つだけ思い出した。
小さい時に亡くした母親が、俺に繰り返し言っていた言葉を。
『あなたがいてくれるだけで幸せよ』
これまで思い出しもしなかった言葉が、こんなにも俺の感情を揺さぶるなんて……。
心臓も何かも動きを止めているのに、熱く感じるこの想いは何だろう。
抱いているこの腕に伝わる感触が、暖かいと感じるのはどうしてだ?
微笑むシルベーヌ様から、目が離せなくなるのは………
俺は、初めての感情に心を乱される。
そうそれは……死んでしまって初めて知ったことだ……
父は先の戦争で大勝利を決定付けたラシュカの英雄ミルファス・ヴァーミリオンである。
その為地方の子爵という身分でありながら、過分な領地を与えられることになったのだ。
また、父は厳格な指導者でもあった。
ヴァーミリオン騎士団長として。
英雄として。
父は誰がどう見ても完璧だった。
当然、俺も他の誰より優秀でなくてはならなかったし、負けることは許されなかった。
剣を取っては、1番に。
槍を持っても同様だ。
だが、どんなに頑張っても、父が俺を見ることはなかった。
………いや、違うな、そうじゃなくて。
見てはいたが、父が見ていたのは、常に跡取りとしての俺だった。
ヴァーミリオン領主として相応しいか?
騎士団長として適任か?
だから常に、家名を第一に考え、家の役に国の役に立てと教えられた。
そして、俺は期待に応え続けた。
俺が19になった時。
父が領主の座と、騎士団長を退くことを決めた。
それと同時に、俺には婚約者が出来た。
ラシュカ王のいとこ、エレナ・フォード公爵令嬢だ。
彼女は現宰相の娘でもあった。
子爵家と公爵家、このどう考えてもおかしい組み合わせは、あることが関与していた。
父が戦功により与えられた土地に、ある鉱山があった。
元は、他国のもので、父がそれを少ない戦力で奪い取ったことから、褒美として先王に与えられたものだ。
その鉱山から美しい石が産出した、と言う話を聞いたのはそれから暫くしてのこと。
鉱山からは、石だけでなく金も出始め、ヴァーミリオン領はラシュカ1番の金持ちとなった。
鉱山の仕事をするためとか、それに付随した仕事をする人間がヴァーミリオンに集まり、町は栄え、人が増えた。
よい人材が自然と集まり、騎士団も強くなる。
だが、それは良いことばかりではない。
金があるところには、悪いやつも寄ってくる。
つまり、前述の俺の婚約の話はヴァーミリオンの資産を欲する公爵家が仕組んだ政略結婚だったのだ。
父は当然その婚約を断らなかった。
そもそも、子爵家が公爵家の申し出を断ることは出来ない。
だが、ヴァーミリオンの財力を持ってすれば断ることは可能である。
それをしなかった理由は一つ。
金も名誉も手に入れたヴァーミリオンに一つだけ足りないもの……それが欲しかったからだ。
高貴なる血筋、だ。
俺もその婚約に異議は唱えなかった。
その女が好きだったのか?
………いいや、まったく違う。
美しい女だったからか?
………何の関係もないな。
俺はただ、父の「家と国の役に立て」という言葉に従ったんだ。
『あなたはあなた。そこに居てくれるだけでいい』
そうあの方は言った。
俺はそこで一つだけ思い出した。
小さい時に亡くした母親が、俺に繰り返し言っていた言葉を。
『あなたがいてくれるだけで幸せよ』
これまで思い出しもしなかった言葉が、こんなにも俺の感情を揺さぶるなんて……。
心臓も何かも動きを止めているのに、熱く感じるこの想いは何だろう。
抱いているこの腕に伝わる感触が、暖かいと感じるのはどうしてだ?
微笑むシルベーヌ様から、目が離せなくなるのは………
俺は、初めての感情に心を乱される。
そうそれは……死んでしまって初めて知ったことだ……
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