8 / 169
ムーンバレー地方
8.その男、騎士団長
しおりを挟む
「いいか?」
私とスピークルムが、こそこそと会話をしていると、会議が終わったらしい男が、スッと側に寄ってきた。
「ええ。決まったようね」
「ああ、我らラシュカ国ヴァーミリオン騎士団、シルベーヌ様のお申し出、ありがたく受け入れる!」
あらまぁ。
スピークルム、ご飯食べ損ねたわ。
胸元の鏡はぷるぷると震え、悲しそうに『むー……』と泣いている。
「わかったわ。ええとそれでね、先に言っておかなかったのは申し訳ないけど、交換条件があるの」
「交換条件?」
「この館を住めるように修理して欲しいの」
「修理……しかし、シルベーヌ様は王宮に行くのでは?」
……追い払われたんだってば!
もうめんどくさいなぁ、ほんとのこと言おう。
言ったって何の問題もないわよね?
「ここに住むように言われたのよ。婚姻は一旦保留ですって。どうも、私の顔が気に入らないみたいよ?」
と、淡々と言ってやる。
実際そんなにへこんでないし。
「何と……王は視力が悪いのか?」
「……………は?」
男は私の側に近づき、覗き込むようにじーっと顔を見た。
ちょっと、近い!近い!
そのあまりの近さに霊体ということを忘れ、勢いよく男を押してしまった私は、案の定、すり抜けて壁に額を打ち付けた。
「いでっ!!」
「ああ、大丈夫か?すまない、抱き止めようと思ったんだが……すり抜けてしまったな……」
男は悲しそうに自身の両手を見、私は涙目で額を擦った。
「やはりこのままでは誰も救えない……シルベーヌ様、館の修理は任せてくれ。だから……」
「……わかりました。約束を違えないで下さいね。私との約束を違えると、強制的に冥府行きですよ?」
「もちろんだ、約束は守る!」
男が言うと、周りの者も同調するように頷く。
私はスピークルムを首から外し、その鏡面を指でなぞった。
スピークルムは金色で発光し、その強い光は騎士団の全員を吹き飛ばしていく。
吹き飛ばされた彼らは、それぞれ自身の体に戻り、光が収束する頃には全員が驚きの表情をして体を起こしていた。
「どう?違和感はあるかしら?」
そう問いかけると、地下室の奥から聞き覚えのある声が響く。
「驚いた……違和感はない。心臓は動いていないのに……不思議だな」
暗闇の中から、同じ闇色の隊服を着た男が姿を現した。
男は真っ直ぐ歩いてきて、私の前で歩を止めた。
さっきは全く気付かなかったが、男は見事な銀髪をしていて、その目は深い青、背筋がピンと伸びてすごく背が高い。
誰がどう見ても『美しい』と形容される男は、私の前で膝を折った。
「俺はディラン・ヴァーミリオン。ヴァーミリオン騎士団団長です。皆を代表してシルベーヌ様へ、心からの感謝を捧げます!!」
その声と共に、騎士団全員が、ザッという音を立てて跪いた。
「べ、別にいいのよ。持ちつ持たれつで、ね?」
「はっ!」
ディラン・ヴァーミリオン……。
夜の闇に負けないくらい、キラキラ輝く眩しい男は、微笑みを湛え私を見上げた。
それにしても、この立派な騎士団が、何故こんなところで死ぬ羽目になったのか……。
いろいろ疑問もあるけど、考えたって私には何もわからないわね。
とりあえず…………館、修理してもらおうっと。
私とスピークルムが、こそこそと会話をしていると、会議が終わったらしい男が、スッと側に寄ってきた。
「ええ。決まったようね」
「ああ、我らラシュカ国ヴァーミリオン騎士団、シルベーヌ様のお申し出、ありがたく受け入れる!」
あらまぁ。
スピークルム、ご飯食べ損ねたわ。
胸元の鏡はぷるぷると震え、悲しそうに『むー……』と泣いている。
「わかったわ。ええとそれでね、先に言っておかなかったのは申し訳ないけど、交換条件があるの」
「交換条件?」
「この館を住めるように修理して欲しいの」
「修理……しかし、シルベーヌ様は王宮に行くのでは?」
……追い払われたんだってば!
もうめんどくさいなぁ、ほんとのこと言おう。
言ったって何の問題もないわよね?
「ここに住むように言われたのよ。婚姻は一旦保留ですって。どうも、私の顔が気に入らないみたいよ?」
と、淡々と言ってやる。
実際そんなにへこんでないし。
「何と……王は視力が悪いのか?」
「……………は?」
男は私の側に近づき、覗き込むようにじーっと顔を見た。
ちょっと、近い!近い!
そのあまりの近さに霊体ということを忘れ、勢いよく男を押してしまった私は、案の定、すり抜けて壁に額を打ち付けた。
「いでっ!!」
「ああ、大丈夫か?すまない、抱き止めようと思ったんだが……すり抜けてしまったな……」
男は悲しそうに自身の両手を見、私は涙目で額を擦った。
「やはりこのままでは誰も救えない……シルベーヌ様、館の修理は任せてくれ。だから……」
「……わかりました。約束を違えないで下さいね。私との約束を違えると、強制的に冥府行きですよ?」
「もちろんだ、約束は守る!」
男が言うと、周りの者も同調するように頷く。
私はスピークルムを首から外し、その鏡面を指でなぞった。
スピークルムは金色で発光し、その強い光は騎士団の全員を吹き飛ばしていく。
吹き飛ばされた彼らは、それぞれ自身の体に戻り、光が収束する頃には全員が驚きの表情をして体を起こしていた。
「どう?違和感はあるかしら?」
そう問いかけると、地下室の奥から聞き覚えのある声が響く。
「驚いた……違和感はない。心臓は動いていないのに……不思議だな」
暗闇の中から、同じ闇色の隊服を着た男が姿を現した。
男は真っ直ぐ歩いてきて、私の前で歩を止めた。
さっきは全く気付かなかったが、男は見事な銀髪をしていて、その目は深い青、背筋がピンと伸びてすごく背が高い。
誰がどう見ても『美しい』と形容される男は、私の前で膝を折った。
「俺はディラン・ヴァーミリオン。ヴァーミリオン騎士団団長です。皆を代表してシルベーヌ様へ、心からの感謝を捧げます!!」
その声と共に、騎士団全員が、ザッという音を立てて跪いた。
「べ、別にいいのよ。持ちつ持たれつで、ね?」
「はっ!」
ディラン・ヴァーミリオン……。
夜の闇に負けないくらい、キラキラ輝く眩しい男は、微笑みを湛え私を見上げた。
それにしても、この立派な騎士団が、何故こんなところで死ぬ羽目になったのか……。
いろいろ疑問もあるけど、考えたって私には何もわからないわね。
とりあえず…………館、修理してもらおうっと。
10
お気に入りに追加
2,687
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。
朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。
傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。
家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。
最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
身分違いの恋に燃えていると婚約破棄したではありませんか。没落したから助けて欲しいなんて言わないでください。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるセリティアは、ある日婚約者である侯爵令息のランドラから婚約破棄を告げられた。
なんでも彼は、とある平民の農家の女性に恋をしているそうなのだ。
身分違いの恋に燃えているという彼に呆れながら、それが危険なことであると説明したセリティアだったが、ランドラにはそれを聞き入れてもらえず、結局婚約は破棄されることになった。
セリティアの新しい婚約は、意外な程に早く決まった。
その相手は、公爵令息であるバルギードという男だった。多少気難しい性格ではあるが、真面目で実直な彼との婚約はセリティアにとって幸福なものであり、彼女は穏やかな生活を送っていた。
そんな彼女の前に、ランドラが再び現れた。
侯爵家を継いだ彼だったが、平民と結婚したことによって、多くの敵を作り出してしまい、その結果没落してしまったそうなのだ。
ランドラは、セリティアに助けて欲しいと懇願した。しかし、散々と忠告したというのにそんなことになった彼を助ける義理は彼女にはなかった。こうしてセリティアは、ランドラの頼みを断るのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
子爵令嬢は高貴な大型犬に護られる
颯巳遊
恋愛
子爵令嬢のシルヴィアはトラウマを抱えながらも必死に生きている。それに寄り添う大型犬のようなカインに身も心も護られています。
自己完結で突っ走る令嬢とそれを見守りながら助けていく大型犬の恋愛物語
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される
佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。
異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。
誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。
ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。
隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。
初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。
しかし、クラウは国へ帰る事となり…。
「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」
「わかりました」
けれど卒業後、ミアが向かったのは……。
※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる