純喫茶カッパーロ

藤 実花

文字の大きさ
上 下
106 / 120
番外編

カッパーロ、夏場所!①

しおりを挟む



銅山から帰還して二週間。

私、亥ノ子いのこ池に住む、由緒正しきカッパの一族、錦野梅は師匠宅に突撃すべく、準備を整えていた。
清く正しいヒロイン道を学ぶため、二泊三日で修行することに決めたのである。
もちろん、了解はとっていない。
心の広い師匠なら、いつ行っても歓迎してくれる、と私は信じているからだ!
寝間着とタオル。
お気に入りの石鹸。
後は、小腹が空いた時の食料なんだけど……。
私は目の前のリュックの隙間に、入るだけのスナック菓子を放り込み、はたと手を止めた。
ダメよダメ!
ヒロイン道を極めるために、痩せると誓ったじゃない!
その決死の誓いを思い出し、リュックに詰めていたスナック菓子四袋を心を鬼にして放り投げた!

「いたっ!」

ん?何か声が?
背後から悲鳴が聞こえて振り向くと、そこには姉、エリザベス・錦野がいた。
姉は、スナック菓子四袋に囲まれてしきりに皿を擦っている。

「お姉さま、どうなさったの?」

私が聞くと、姉はうるうるとした(あざとい)眼をこちらに向けた。

「……どうなさったの?ではなくてよ?あなたが投げたこのお菓子が私の皿に落ちてきたの。もう少し気を付けてちょうだいな?」

そう言って、乱れたおぐしを直しつつ、はぁーと悩ましく溜め息をつく姉・エリザベス。
その姿を見て、私はこう思った。

『なんて美しいお姉さま!(すかしてんじゃねーよ、このアマ!)何をやっても絵になるわね。私もあやかりたいものだわ(天然もほどほどにしやがらねぇと、ぶちのめすぞ?)』

と。

……あら?
何か、良くない感情も混ざったかしら?
ま、いいわ。
どうせ誰も聞いてないし。

「ごめんなさい、お姉さま」

「いいのよ。で、あなた一体何をしているの?」

散らばったお菓子をかき集め、姉はしずしずとこちらに歩み寄り、リュックを覗き込んだ。

「そろそろ師匠宅へ修行に行こうと思いまして……その準備ですわ!」

「まぁまぁ!サユリ様のところに?」

姉は大袈裟に叫ぶと目を細めた。
師匠と又吉一族、そして姉は、私の救出の為に力を合わせた仲である。
しかし、昔の確執が原因で最初はかなり恨まれていたという。
そう、又吉の長兄を騙したことが原因だ。
こちらにも、やむにやまれぬ事情があったとはいえ、そのことで、プライドを傷つけられた又吉一族は、姉を酷く恨んでいたのだ。
それを、和解させたのが、師匠の石原サユリ様。
無事に誤解を解くことが出来たのは師匠のお陰だと、姉は常々話していた。

「そういえば、一之丞様はサユリ様に思いを告げたのかしらねぇ」

「……へ?何です?それ、どういうことです?」

姉が突然言った言葉に、私は荷物を詰める手を止めた。
思いを……告げる?
それは聞き捨てならない言葉ですよ?

「一之丞様はどうやらサユリ様をお慕いしているようなの。だからね、私、ちゃんと伝えなさいって鼓舞したのだけれど」

「お慕い……それは、好きだと……」

「ええ」

うぉぉぉ!師匠ーーーー!!
種族を越えた恋愛を体現するなんて、さすが我が師!
王道も王道!ヒロインの中のヒロイン!
顔では平静を装いながら、私の心の中では、花火がドンドコ打ち上がっている。

「あれからどうなったのかしら?」

姉は頬に手を当てて(あざとく)首を傾げた。

「そ、その結果も見てきますわ!三日ほどで帰る予定ですから」

「そうなの?では、よろしく頼むわ……あ、そうそう。結局ちゃんとお礼もできていないから、お土産にこれ持っていってくれるかしら?」

甲羅の中から何かを取り出した姉は、私にズイッと差し出した。
それは縦横一尺(30センチ)ほどの箱である。
箱には緑と紫が混じり合う微妙な色合いの包装紙が巻かれ、異様なオーラを放っている。

「な、何ですの?これ?」

受け取りつつ尋ねると、姉はにっこりと(あざとく)微笑んだ。

「皆さんでどうぞ!ってお渡ししてね?」

おいっ!だから中身は何かと聞いてるんだよっ!
……ととっ、いけないいけない。
つい、ダークサイドが。
あ、でも「皆さんでどうぞ!」って言ったわね?
てことは、お菓子か何か。
小分けにされたものが入っているのだわ。
ちょっと得体が知れないけど、ちょうど良かったかもしれない。
これから教えを請うのに、手土産の一つもないのでは格好がつかないものね。

「わかりましたわ!ちゃんとお渡し致します」

私はリュックに、怪しげなお土産を詰めた。
そして、ついでにスナック菓子も一つだけ詰めておいた。























しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【9話完結】お茶会? 茶番の間違いでしょ?『毒を入れるのはやり過ぎです。婚約破棄を言い出す度胸もないなら私から申し上げますね』

西東友一
恋愛
「お姉様もいずれ王妃になるなら、お茶のマナーは大丈夫ですか?」 「ええ、もちろんよ」 「でも、心配ですよね、カイザー王子?」 「ああ」 「じゃあ、お茶会をしましょう。私がお茶を入れますから」  お茶会?  茶番の間違いでしょ?  私は妹と私の婚約者のカイザー第一王子が浮気しているのを知っている。  そして、二人が私を殺そうとしていることも―――

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...