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番外編
カッパーロ、夏場所!①
しおりを挟む銅山から帰還して二週間。
私、亥ノ子池に住む、由緒正しきカッパの一族、錦野梅は師匠宅に突撃すべく、準備を整えていた。
清く正しいヒロイン道を学ぶため、二泊三日で修行することに決めたのである。
もちろん、了解はとっていない。
心の広い師匠なら、いつ行っても歓迎してくれる、と私は信じているからだ!
寝間着とタオル。
お気に入りの石鹸。
後は、小腹が空いた時の食料なんだけど……。
私は目の前のリュックの隙間に、入るだけのスナック菓子を放り込み、はたと手を止めた。
ダメよダメ!
ヒロイン道を極めるために、痩せると誓ったじゃない!
その決死の誓いを思い出し、リュックに詰めていたスナック菓子四袋を心を鬼にして放り投げた!
「いたっ!」
ん?何か声が?
背後から悲鳴が聞こえて振り向くと、そこには姉、エリザベス・錦野がいた。
姉は、スナック菓子四袋に囲まれてしきりに皿を擦っている。
「お姉さま、どうなさったの?」
私が聞くと、姉はうるうるとした(あざとい)眼をこちらに向けた。
「……どうなさったの?ではなくてよ?あなたが投げたこのお菓子が私の皿に落ちてきたの。もう少し気を付けてちょうだいな?」
そう言って、乱れたお髪を直しつつ、はぁーと悩ましく溜め息をつく姉・エリザベス。
その姿を見て、私はこう思った。
『なんて美しいお姉さま!(すかしてんじゃねーよ、このアマ!)何をやっても絵になるわね。私もあやかりたいものだわ(天然もほどほどにしやがらねぇと、ぶちのめすぞ?)』
と。
……あら?
何か、良くない感情も混ざったかしら?
ま、いいわ。
どうせ誰も聞いてないし。
「ごめんなさい、お姉さま」
「いいのよ。で、あなた一体何をしているの?」
散らばったお菓子をかき集め、姉はしずしずとこちらに歩み寄り、リュックを覗き込んだ。
「そろそろ師匠宅へ修行に行こうと思いまして……その準備ですわ!」
「まぁまぁ!サユリ様のところに?」
姉は大袈裟に叫ぶと目を細めた。
師匠と又吉一族、そして姉は、私の救出の為に力を合わせた仲である。
しかし、昔の確執が原因で最初はかなり恨まれていたという。
そう、又吉の長兄を騙したことが原因だ。
こちらにも、やむにやまれぬ事情があったとはいえ、そのことで、プライドを傷つけられた又吉一族は、姉を酷く恨んでいたのだ。
それを、和解させたのが、師匠の石原サユリ様。
無事に誤解を解くことが出来たのは師匠のお陰だと、姉は常々話していた。
「そういえば、一之丞様はサユリ様に思いを告げたのかしらねぇ」
「……へ?何です?それ、どういうことです?」
姉が突然言った言葉に、私は荷物を詰める手を止めた。
思いを……告げる?
それは聞き捨てならない言葉ですよ?
「一之丞様はどうやらサユリ様をお慕いしているようなの。だからね、私、ちゃんと伝えなさいって鼓舞したのだけれど」
「お慕い……それは、好きだと……」
「ええ」
うぉぉぉ!師匠ーーーー!!
種族を越えた恋愛を体現するなんて、さすが我が師!
王道も王道!ヒロインの中のヒロイン!
顔では平静を装いながら、私の心の中では、花火がドンドコ打ち上がっている。
「あれからどうなったのかしら?」
姉は頬に手を当てて(あざとく)首を傾げた。
「そ、その結果も見てきますわ!三日ほどで帰る予定ですから」
「そうなの?では、よろしく頼むわ……あ、そうそう。結局ちゃんとお礼もできていないから、お土産にこれ持っていってくれるかしら?」
甲羅の中から何かを取り出した姉は、私にズイッと差し出した。
それは縦横一尺(30センチ)ほどの箱である。
箱には緑と紫が混じり合う微妙な色合いの包装紙が巻かれ、異様なオーラを放っている。
「な、何ですの?これ?」
受け取りつつ尋ねると、姉はにっこりと(あざとく)微笑んだ。
「皆さんでどうぞ!ってお渡ししてね?」
おいっ!だから中身は何かと聞いてるんだよっ!
……ととっ、いけないいけない。
つい、ダークサイドが。
あ、でも「皆さんでどうぞ!」って言ったわね?
てことは、お菓子か何か。
小分けにされたものが入っているのだわ。
ちょっと得体が知れないけど、ちょうど良かったかもしれない。
これから教えを請うのに、手土産の一つもないのでは格好がつかないものね。
「わかりましたわ!ちゃんとお渡し致します」
私はリュックに、怪しげなお土産を詰めた。
そして、ついでにスナック菓子も一つだけ詰めておいた。
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