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第六章 神社巡り
⑧宮司は見た!~Withカッパ~
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水神様(銀竜)と四尾に関する探索は、ここで一旦打ち切りとなったけど、思ったよりも有益な情報が得られた。
水神様の名前や四尾との関係。
そして何より農家さんが狙われた理由がわかり、もやもやとした気分が少し晴れた。
まだはっきりとした四尾の動機、水神様の所在、出会いの場所等、わからないこともあるけど、浅川神社だけでこれだけの収穫なのだから滑り出しは上々である。
一之丞は黒い本を鉄の箱の中に戻し、私と共に蔵を出た。
暗い蔵から外に出ると、輝く太陽が眩しくて一瞬目が眩む。
すると一之丞が足元をふらつかせた私の肩をがっちりと抱き、大木のような体で支えてくれた。
「大丈夫であるか?」
「……あ、ごめんごめん。いきなり明るい所に出たからね」
「無理をするでない。ゆっくり目をならしてゆくのだ」
その言葉の通りに、私は一之丞に寄りかかって目を閉じた。
神社にある御神木に体を預けているような感覚で、とても心地好い。
ひんやりしてる……私は余りの気持ち良さに大木を抱き締めるように手を伸ばした。
それから何秒か経ち、ゆっくりと目を開ける。
光に慣れた目は一之丞のちょうど胸の辺りを捉えた。
そこから視線を滑らせてゆっくりと景色を見る。
もう大丈夫そう、と呟き一之丞から離れようとしたその時、手水舎の脇に何かを見つけた。
それは、イヤらしい目付きをしたカッパ兄弟と弓子さんで、彼らは手水舎に隠れるようにこちらを凝視していた。
「ひっ!!」
口から心臓が出るほど驚いたけど、さすがに心臓は出ない。
代わりに短く悲鳴を上げた。
「どうしたのだ!?」
一之丞も私の視線の先を辿り、手水舎に隠れた弓子さん達を見つけた。
私達の視線に気付いた彼らは、フフフと笑いながらやって来て不気味な笑顔を浮かべた。
「ごめんねぇ。僕たち邪魔しちゃったよねぇー」
三左が間延びしたように言い、口元に手を当てムフフと笑った。
「……いつから……そこに?」
恐々と聞くと弓子さんが飄々と答えた。
「蔵から出てきたところから……明るいところでしなくても蔵ですればいいのに」
え?何をです?
と、問い掛けようとしてやめた。
さすがに私もバカじゃない。
そんなの、さっきの「抱擁」の件に決まってる。
いや、抱擁というか一種の介護だと思うんだけど。
「違いますよ?光が眩しくてクラっとして、それで少し足元がふらついて……一之丞は支えてくれたんです」
「それにしては長くないかい?」
……次郎太、余計なことを!!
「ふぅん、そうなんだ」で済ませなさいよ!空気読め!
ギロリと睨む私から目をそらし、次郎太は口笛を吹いた。
「め、目が慣れるまで支えてもらってたのっ!!ね、一之丞?」
「うむ。そうであるぞ。何もいかがわしいことはしておらぬ!」
一之丞はキッパリと言い切った。
「でも、ちょっとそういう気持ちもあったんじゃない?」
「む……何を言うか……そんなこと……」
三左に問われ、一之丞は真っ赤になって口ごもった。
ここでハッキリ否定しないと、揚げ足をとられ、必要以上に冷やかされる。
そう思い口を挟もうとした私よりも先に、一之丞が堰を切ったように叫んだ。
「し、正直に言うとっ!かなり嬉しかったのであるっ!サユリ殿は良い匂いがして……」
「わーーーー!!はいはい、終わり、これで終わりーっ!」
な、なんてことをっ!!
私は強制的に話を終了させ、ゼイゼイ言いながら皆の輪の中心に飛び込んだ。
そして、何も言わせないように一之丞を睨んだ。
でないと間違いなく彼は話題を炎上させるだろう。
「ゆっ、弓子さんっ!?本は戻して置きましたからっ!いろいろわかったこともあったので助かりました。本当にありがとうございます!」
私は間髪入れず、大声で叫びながら弓子さんににじり寄った。
これでなんとか話題が変わりますように!
「そう、良かった。私も久しぶりに楽しい時間を過ごせたわ」
弓子さんは意味深に微笑み、両隣にいた次郎太と三左と交互に視線を合わせる。
短い間に、彼らと弓子さんはすごく仲良くなったらしい。
話題が変わったことと、カッパ兄弟が粗相をしてなかったことに私はほっとした。
「すごいんだよぅ?弓子さんのお家ってお菓子が一杯あってねぇ、何でも食べていいって言われたんだ!」
三左は目をキラキラさせながら頬に手を当て、隣の次郎太も珍しく鼻息を荒くして言った。
「眼鏡のコレクションも沢山あったよ。いろいろかけさせてもらってね、本当に有意義な時間だったよ」
「へぇ!良かったね、2人とも!」
高揚した様子の2人を見て、私も嬉しくなった。
妖怪だからといって、人と距離を置くなんて間違っている、と私は思う。
確かにいい人ばかりじゃないから、妖怪を利用したり食い物にしたりする輩もいる。
でも、それ以外のとてもいい人に会う可能性も同じくらいあるのだとしたら。
その可能性に夢を見た方が、世の中絶対楽しいに決まっているのだ。
「またいつでも来てね!」
微笑む弓子さんに、次郎太と三左はとびきりの笑顔で頷いた。
そして、その兄弟の後ろでは、相好を崩した一之丞が、保護者のような優しい目で見つめていたのである。
水神様の名前や四尾との関係。
そして何より農家さんが狙われた理由がわかり、もやもやとした気分が少し晴れた。
まだはっきりとした四尾の動機、水神様の所在、出会いの場所等、わからないこともあるけど、浅川神社だけでこれだけの収穫なのだから滑り出しは上々である。
一之丞は黒い本を鉄の箱の中に戻し、私と共に蔵を出た。
暗い蔵から外に出ると、輝く太陽が眩しくて一瞬目が眩む。
すると一之丞が足元をふらつかせた私の肩をがっちりと抱き、大木のような体で支えてくれた。
「大丈夫であるか?」
「……あ、ごめんごめん。いきなり明るい所に出たからね」
「無理をするでない。ゆっくり目をならしてゆくのだ」
その言葉の通りに、私は一之丞に寄りかかって目を閉じた。
神社にある御神木に体を預けているような感覚で、とても心地好い。
ひんやりしてる……私は余りの気持ち良さに大木を抱き締めるように手を伸ばした。
それから何秒か経ち、ゆっくりと目を開ける。
光に慣れた目は一之丞のちょうど胸の辺りを捉えた。
そこから視線を滑らせてゆっくりと景色を見る。
もう大丈夫そう、と呟き一之丞から離れようとしたその時、手水舎の脇に何かを見つけた。
それは、イヤらしい目付きをしたカッパ兄弟と弓子さんで、彼らは手水舎に隠れるようにこちらを凝視していた。
「ひっ!!」
口から心臓が出るほど驚いたけど、さすがに心臓は出ない。
代わりに短く悲鳴を上げた。
「どうしたのだ!?」
一之丞も私の視線の先を辿り、手水舎に隠れた弓子さん達を見つけた。
私達の視線に気付いた彼らは、フフフと笑いながらやって来て不気味な笑顔を浮かべた。
「ごめんねぇ。僕たち邪魔しちゃったよねぇー」
三左が間延びしたように言い、口元に手を当てムフフと笑った。
「……いつから……そこに?」
恐々と聞くと弓子さんが飄々と答えた。
「蔵から出てきたところから……明るいところでしなくても蔵ですればいいのに」
え?何をです?
と、問い掛けようとしてやめた。
さすがに私もバカじゃない。
そんなの、さっきの「抱擁」の件に決まってる。
いや、抱擁というか一種の介護だと思うんだけど。
「違いますよ?光が眩しくてクラっとして、それで少し足元がふらついて……一之丞は支えてくれたんです」
「それにしては長くないかい?」
……次郎太、余計なことを!!
「ふぅん、そうなんだ」で済ませなさいよ!空気読め!
ギロリと睨む私から目をそらし、次郎太は口笛を吹いた。
「め、目が慣れるまで支えてもらってたのっ!!ね、一之丞?」
「うむ。そうであるぞ。何もいかがわしいことはしておらぬ!」
一之丞はキッパリと言い切った。
「でも、ちょっとそういう気持ちもあったんじゃない?」
「む……何を言うか……そんなこと……」
三左に問われ、一之丞は真っ赤になって口ごもった。
ここでハッキリ否定しないと、揚げ足をとられ、必要以上に冷やかされる。
そう思い口を挟もうとした私よりも先に、一之丞が堰を切ったように叫んだ。
「し、正直に言うとっ!かなり嬉しかったのであるっ!サユリ殿は良い匂いがして……」
「わーーーー!!はいはい、終わり、これで終わりーっ!」
な、なんてことをっ!!
私は強制的に話を終了させ、ゼイゼイ言いながら皆の輪の中心に飛び込んだ。
そして、何も言わせないように一之丞を睨んだ。
でないと間違いなく彼は話題を炎上させるだろう。
「ゆっ、弓子さんっ!?本は戻して置きましたからっ!いろいろわかったこともあったので助かりました。本当にありがとうございます!」
私は間髪入れず、大声で叫びながら弓子さんににじり寄った。
これでなんとか話題が変わりますように!
「そう、良かった。私も久しぶりに楽しい時間を過ごせたわ」
弓子さんは意味深に微笑み、両隣にいた次郎太と三左と交互に視線を合わせる。
短い間に、彼らと弓子さんはすごく仲良くなったらしい。
話題が変わったことと、カッパ兄弟が粗相をしてなかったことに私はほっとした。
「すごいんだよぅ?弓子さんのお家ってお菓子が一杯あってねぇ、何でも食べていいって言われたんだ!」
三左は目をキラキラさせながら頬に手を当て、隣の次郎太も珍しく鼻息を荒くして言った。
「眼鏡のコレクションも沢山あったよ。いろいろかけさせてもらってね、本当に有意義な時間だったよ」
「へぇ!良かったね、2人とも!」
高揚した様子の2人を見て、私も嬉しくなった。
妖怪だからといって、人と距離を置くなんて間違っている、と私は思う。
確かにいい人ばかりじゃないから、妖怪を利用したり食い物にしたりする輩もいる。
でも、それ以外のとてもいい人に会う可能性も同じくらいあるのだとしたら。
その可能性に夢を見た方が、世の中絶対楽しいに決まっているのだ。
「またいつでも来てね!」
微笑む弓子さんに、次郎太と三左はとびきりの笑顔で頷いた。
そして、その兄弟の後ろでは、相好を崩した一之丞が、保護者のような優しい目で見つめていたのである。
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