純喫茶カッパーロ

藤 実花

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第六章 神社巡り

⑤特別な関係?

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浅川神社の蔵は、弓子さんの自宅のすぐ裏側にあった。
漆喰造りの小さな土蔵で、所々剥がれている壁が年月を感じさせる。
私達は案内されるままその中に入った。

「埃っぽくてごめん」

弓子さんは顔の前で軽く手を振り、コホンと咳をした。
中は埃っぽく、湿気は少ない。
乾いた空気と紙と木が長い年月を経て作り出した香り。
それが辺りには満ちている。
弓子さんは奥へと進んだ。
そして、大きな鉄の箱の前に屈んで蓋を開け、そこから一冊の本を取り出した。

「……たぶん、これ。昔祖父に見せてもらった村の伝承の本だよ」

差し出されたのは薄墨を落としたような黒の表紙の本。
中は薄黄色の和紙を重ねた、かなり古い装丁になっている。
私は、その本を手に取り捲ってみた。
が!
予想通り、まったく読めない。
すると、上から覗き込んだ一之丞が、感心したように言った。

「ほう。これは……書かれたのは江戸末期であるが、内容は室町以前のものであるな。口伝を文字に起こしたと見える」

「すごいな!キミは読めるんだね!」

弓子さんは目を見開いた。

「うむ!我ら300年……フゴッ……」

私は、意気揚々と答えようとした一之丞の口を、飛び上がって塞いだ。
正直に答えてどうすんの!?
妖怪……カッパだとバレたら大変でしょうが!
バレても信じないと思うけど、だからと言って、大丈夫なんて保証はどこにもない。
現に母には速攻でバレているし、同じ神社関係の弓子さんにだって、不思議な能力があってもおかしくない。
だから、怪しまれる言動は極力控えてもらいたいのだ。
掌で口を塞がれた一之丞は驚いていたけど、すぐその意図に気付いて言い直した。

「わ、わっ、私は古文書の研究をしていて、このような文字を読むのは得意なのである……」

「……そうなの?ふぅん、なんか怪しいなぁ……」

弓子さんは訝しげに私と一之丞を見た。

「へっ!?どこが!?何が!?」

私は焦って答える。
まさか……もう既にカッパだとバレている?
弓子さんにもやっぱり不思議な能力が……。

「サユリちゃんと一之丞さん、仲が良いよね。特別な関係だったりして?」

「……んぁ?」

……変な声が漏れた。
どうやら、カッパだとバレたのではないらしいけど、違う疑惑が浮上しているようだ。
呆然とする私、眼光鋭い弓子さん、何故か花が咲いたように微笑む一之丞。
そして、私達三つ巴の3人を少し離れてニヤリと見つめるぐうたら兄弟。
赴きのある土蔵の中は、いろんな思惑が交差している……。

「違うの?」

弓子さんは諦めない。

「……そ……れは」

私は言葉を濁した。
弓子さんの言うところの特別な関係……そういうのではないとはっきり言える。
だけど、特別な目で見ていないとは断言出来ない!
人型一之丞は私の理想の具現化だ。
2メートルほど離れてさえいてくれたら、一生眺めていられると思う。

「特別な……と言えばそうであるな。私達はもう家族も同然であるし、確かな信頼と絆で結ばれておる」

一之丞は私のすぐ後ろで穏やかに言った。
ニヤリとしていたぐうたら兄弟も、その言葉には真剣に頷いている。

「あーなるほど。ふぅん。そうか」

弓子さんは得心がいったように笑い、続けて言った。

「信頼と絆っていうのはいい言葉だね。ペラペラと軽い台詞を並べるよりよっぽど深いよ」

「弓子さん?」

私はその言葉の意味を測りかねて首をかしげた。
弓子さんの言うことは、時々難しすぎてわからないことがある。
どうも抽象的過ぎるのだ。
優しくて面白い人なんだけど、頭が良すぎて一般人の私には理解出来ない所が多々ある。
出来れば万人にわかるように説明してもらいたい、と悩む私の後ろでは、一之丞が深く「うむ」と頷いている。
えっ!?あれを理解したの?
一之丞、ひょっとして頭がいいのかな?

「さて、無駄口はこのくらいにして!本の話に移ろうか」

弓子さんはさっと話題を変えた。
この切り替えの早さも相変わらずだなと思いながら、ほっと胸を撫で下ろした。
彼女が何を言いたかったのかは全然理解してないけど、一之丞達のことを変に勘繰られるよりはマシである。

私達は、土蔵の畳のある一角に集まり、黒の表紙の本を中心に円になった。




























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