純喫茶カッパーロ

藤 実花

文字の大きさ
上 下
74 / 120
第六章 神社巡り

④浅川神社の眼鏡好き

しおりを挟む
次の日。

朝、早起きをして豆の焙煎をした後、一之丞、次郎太、三左と一緒に約束していた浅川神社へと向かった。
完全に回復した一之丞は、悩みが吹っ切れたような清々しい様子で足どりも軽い。
それはいいんだけど、何故か私に纏わりつき、やたらと絡んでくるのは如何なものか……。
今も神社の階段を登ろうとする私を笑顔で阻みながらこう言うのだ。

「さぁ、サユリ殿。ここは段差があり危ない。私の腕をしっかりと掴んでおるとよい」

……彼は、私をお婆さんだとでも思っているのだろうか?
段差に躓くほど、ご老体だとでも!?
確かに、運動不足であることは否定しないわ。
でも、まだそんなに耄碌はしていないっ!

「大丈夫よ。掴んでなくても一人で登れるわ」

少しむっとしながら言うと、一之丞は何食わぬ顔で私の手を取り、強引に自分の腕に絡ませる。

「そうはいかぬ。(大事な)サユリ殿に怪我でもされては一大事。この又吉一之丞、悔やんでも悔やみきれぬっ!」

一之丞はギュッと目を瞑り、大袈裟に首を振る。
それを見ていた次郎太と三左は口々に囃し立てた。

「ヒューヒュー!兄さまーー!カッコいいーー!」

「兄者!さすがジェントルマンだね!カッパの中のカッパだよ!」

なんかイラッとする。
まるでこう、仕組まれた狂言のよう?
訝しむ私の視線をものともせず、一之丞は満面の笑みで私を見つめた。

「さぁさぁ。私に付いてくるとよいぞ?ほら、元気良く右足から!」

踏み出す足まで指図され、私は仕方なく一之丞に続いた。
腕はガッチリ固定されているし、もう力が半端なく強い。
抵抗したところで超・絶好調の一之丞が言うことを聞くわけがないし、このカッパどもが各々頑固なのは知っている。
それに、神社の階段の下でいつまでもこうしているのも時間の無駄だ。
貴重な定休日の今日は予定が詰まっている。

そうして軽く一悶着ありながら、私達は浅川神社境内に到着した。
ここはいつも春祭りになると、村人が集まり、継ぎ獅子と呼ばれる伝統行事が行われる広場だ。
継ぎ獅子とは人の上に更に人が乗り、最高段に乗った人(子供のことが多い)が獅子の頭を被って舞うというもの。
過疎の村ではあるけど、この時ばかりは老人も若人も子供も力を合わせて継ぎ獅子を成功させる。
そのことが、氏子の団結を深め信頼を培う原動力になっている、と私は父から教わった。
祭りの広場から右手には、小振りの社務所があり、その横から伸びる坂道を下ると、宮司さんが住む家がある。
浅川神社の宮司さんは三橋弓子さんという。
私の小・中学校の先輩で全国でも珍しい女の宮司であった。

 「こんにちはー」

と言いつつ扉を開ける。
浅川村では家の鍵はかけない。
どこの家でも、皆こうやって声をかけながら扉を開けて中に踏み込む。
かなり無用心な気もするけど、田舎は近所の目が行き届いているので、生きた監視カメラがついているというわけだ。

「はぁーい」

大きな声が聞こえ、パタパタと歩いてくる音が続く。
一之丞達と私は広い玄関の中で、まっすぐに長い廊下から早足で出てくる女性を待った。

「弓子さん、お久しぶり!」

私は手土産のコーヒー豆を渡す。
小売りの500g、贈答用だ。

「おおっ!ありがとね!」

弓子さんは、白衣に浅黄の袴という普段着の装束を纏い、大きなリアクションで感動を表すと、続けて言った。

「サユリちゃんも元気そうね。電話もらって会えるの楽しみにしてたよ」

「私も!あ、法被もありがとうございます!一之丞達もすごく喜んでいて……」

そう言って、私は一之丞達を前に押し出し、一人ずつ紹介した。

「あ、この人達が噂のイケてる外国人ね!」

弓子さんは、まず一番大きい一之丞を見て次に三左を見た。
一之丞を見てダビデ?と言わなかった人を見たのは初めてだ。
その事に感動していると、次郎太を見た弓子さんがはたと視線を止めて言った。

「キミ……」

「……何かな?俺の美しい顔に何か付いているかい?」

「そのメガネ……いいね」

「えっ!?」

次郎太は不意打ちを食らったように目を丸くした。
弓子さんのトレードマークは昔からお洒落な眼鏡で、今日もラウンド型の銀縁のものを掛けている。
中学の時も、高校の時も、コンタクトレンズは邪道と言い張って常に眼鏡。
村でも無類の眼鏡好きとして知れ渡っていた。

「スクエア型の……色はメタルブルー……うん、上級者だ」

弓子さんは、次郎太に向かって親指を立てにっこり笑う。
すると、いつもは持ち歩いている手鏡で確認する次郎太が、弓子さんを見たまま動かなくなった。
その時、私には聞こえた。
たぶん、三左や一之丞にも聞こえたはず。
次郎太の胸の辺りで「ズッキューン」という矢の刺さる音が!!

「じゃあ行こうか?資料のある蔵に案内するよ」

そうとは知らない弓子さんは、玄関に降りて雪駄を履く。
その後を、ホワンとした次郎太がそろそろと付いて行くのを、私達は物珍しげに見守ったのだ。












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

処理中です...