純喫茶カッパーロ

藤 実花

文字の大きさ
上 下
73 / 120
第六章 神社巡り

③うぉぉぉぉ!?

しおりを挟む
「うん。もう熱は下がったみたい!やっぱりカッパには冷却が一番なのねー」

そう言うと、一之丞はチラチラとこちらを窺った。

「あの……サユリ殿?」

「うん?」

「私は……寝ている間に何か変なことを言わなかったであろうか?」

被っていた掛け布団を鼻まで引き寄せた一之丞は、恥ずかしそうにしている。

「変なことは言わなかったよ?」

「そ、そうであるか……うむ。そうか……」

「でも、《お慕いしておる》って言ってた」

「えっ」

掛け布団を勢い良く剥ぐと、一之丞は動かなくなった。
驚いた表情を浮かべ、時が止まったのか、というほどピクリともしない。
何をそんなに驚いているのかな。
私に対する敬意を口に出してしまったことで動揺した?
うん、それはわかるかも。
私だって、心の中に秘めていたことをうっかり洩らしてしまったら、途轍もなく恥ずかしい。
それが身近な人なら尚更よね。
その心中を察して、私が何も言わず微笑むと、固まっていた一之丞が口を開いた。

「そ、それを聞いて……サユリ殿は……どう、思われ、た?」

言ってすぐ、剥いでいた掛け布団をまた被り直す。
そして目から上だけを出して私をじっと見つめた。
……なんだろうな、この可愛い生き物は……。
小説のイグナティオスは、屈強で俺様で強引で絵にかいたようなヒーローだけど、もし、彼がこんな行動をとったとしたら、イグナティオスの魅力は半減するだろうか。

ーーーー否。
半減するどころか3倍増しになるだろう。
それは、世にいうギャップ萌えというやつだ。
瞳を潤ませながら、じっと言葉を待つ一之丞に、私は高揚する気持ちを押し隠しながら言った。

「すごく嬉しかったよ!」

すると、一之丞は掛け布団を顎まで下げ叫ぶ。

「それはっ!それは……あの、私の気持ちが嬉しいと、そういうことであるか」

「うん!」

私が大きく頷くと、一之丞はまた掛け布団を剥ぎ飛び起きて、ぐぐっと体を寄せてきた。
さっきまで病に伏せていたカッパとは思えない素早い動き。
その行動に対応出来ずにいた私は、迫り来る一之丞に成す術もなく抱きしめられていた。

「サユリ殿!!やはりっ……やはり、思いは同じであったのだな!なんと嬉しいことか!」

「うぉぉぉぉ!?」

一之丞のバリトンボイスに、私の腹の底からのダミ声が被さった。
え?一体何がどうなってる?
お慕いしておる→すごく嬉しかったよ!で、どうしてこんなことに?
巨大な壁のような一之丞にガッチリと抱え込まれ、何も見えず手は空を切る。

「いっ、いっ、一之丞!?何……」

なんとかその言葉だけを発すると、一之丞がより一層ギュウと抱きしめてきた。

「わかっておる!何も言わずともっ!我らの心は一つ!ずっと一つであるっ!」

「ちょっ……まず、一端落ち着こう……ね?落ち着こう……そして離れようか」

私は一之丞の背中をポンポンと叩いた。

「はっ、うむ!そうであるな。すまぬ、いきなりで驚いたであろう……」

そう言うと、やっと一之丞は体を離した。
驚いたも何も……。
御満悦な彼とは逆に、こちらは動揺しまくっているんですけど?
『尊敬してます!』『ありがとう!』の単純な会話のはずだよね?
それのどこに感極まって抱き締める要素が?
自身の剥ぎ飛ばした掛け布団を直し、ニコニコ笑顔の一之丞を見ながら、私はしこたま首を捻った。
が、いくら首を捻っても、わからないものはわからない。
やがて私は考えるのを止めた。
……面倒臭かったからよ。

「えーっと……お腹空いてる?お粥にでもする?きゅうりの糠漬けも付けて……」

私は出来るだけ自然に話を変えた。
困った時はこれに限るわ。

「おお!きゅうりの糠漬けっ!!サユリ殿はそのようなことも得意であるか!?」

きゅうりに反応したのか、一之丞が目を輝かせた。

「うん。糠床もあるし、きゅうりの他に茄子も漬けてるよ?」

「なんと天晴れ!まことに婦女子の鏡であるっ!サユリ殿ほど私の……に相応しいものはおらぬ!」

「えっ?ちょっと今、聞こえづらいところが……」

「うむうむ。三国一の花嫁になろう!」

一之丞は布団の上に胡座をかき、更に腕を組んだ。
うむうむ……じゃない。
一人で言って完結しないで欲しいわ。
三国一の花嫁って、褒めてくれるのは嬉しいけど、花嫁になる前に相手がいない。
そろそろ本当に尊敬する雇用主のために、どこぞのイケメン御曹司をつれてきてくれないかなー。
と、他力本願な私はカッパに頼ろうとするのであった……。























しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...