純喫茶カッパーロ

藤 実花

文字の大きさ
上 下
66 / 120
第五章 天狐を探して

⑩お梅の恋

しおりを挟む
「拐ってきたメスカッパが、ことのほか豪胆でな?狐に惚れ込んで嫁御になると言うて聞かぬのよ……」

あれ?なんか展開がおかしいぞ?
そう思ったのは全員で間違いない。
「いきなり拐われてさぞ寂しい思いをしているに違いない」
という私達の考えはお好み焼きをひっくり返すくらいの勢いで反転した。
お梅ちゃんは恋をしていた!
なんと、四尾に!!

「あ……そう、そうなのですか……」

と言うと、エリちゃんは恥ずかしそうに顔を背けて、誰とも眼を合わせなかった。
あの勢いはどこへいった!と突っ込みたくなる豹変だ。

「おうよ。それで、狐が出ていってしもうてから、泣くは暴れるはで手に負えんかったのでな。正直連れ帰って貰えることが有難い!」

吾郎は意識を取り戻した六太郎と共に、手を取り合って喜んだ。
これ、よっぽど大変だったんだな……。
しかし、私としては種族を越えたラブロマンスがこんなところにも展開されているのが楽しくてたまらない。
このお梅ちゃんの切ない?片想いを、全力で応援したくなってしまう、という悪い癖が出そうだ。

「では、案内しよう!」

六太郎はビニールシートからピョンと飛び上がると、楽しそうに奥へと歩き始めた。
すると吾郎もスキップしながらそれに続く。
逆にカッパ連中は元気がない。
その気持ちが痛いほどわかって、私もつい俯いてしまった。
例えるなら、身内が赤の他人様の家に入り込み勝手に暴れ散らして居座る。
この所業を、恥ずかしいと思わない人がいるなら見てみたい。

「で、では、我らも付いて行くことにしよう……」

「……そうだね」

「僕……もう、帰ってもいい?」

一之丞、次郎太、三左が次々に言うと、エリちゃんがよろけながら顔を覆った。

「申し訳ございませんっ!皆様っ!」

「エリちゃん、わかる、わかるよ!」

肩を震わせるエリちゃんを支え、私は皆と銅山奥へと進むのであった。


前を跳ねる豆狸を追いかけて行くと、だんだんと辺りが明るくなって来た。
それまでは懐中電灯が必需品だったけど、今は無くても歩けるほどだ。
通路がだんだん広くなり光が満ちてくると、やがて大きく開けた場所に出た。
そこは、約20畳くらいの広さがあり、真ん中にはなんとちゃぶ台、円形になった壁回りには廃品だったであろうシンクも置かれている。
更には2段ベッドも持ち込まれていて、これでテレビがあればさぞ快適な生活が送れるだろう。

「ここじゃ、ほれ、そこにおろう?」

吾郎の指差す先には、人をダメするソファーにゴロンと寝転がり、ふてぶてしくスナック菓子を頬張るカッパの姿がある。
これでは、カッパをダメにするソファーに改名した方がいいと私は密かに考えた。
スナック菓子をどこから調達したのかが気になるけど、それは今どうでもいいだろう。
問題は、この状態を見たエリちゃんがもうキレそうなくらい憤慨している、ということだ。

「な、な、な、な、なんということでしょう!」

エリちゃんの絶叫に、寝転がったお梅ちゃんが気付いた。

「まぁ!お姉さまではありませんか!」

お梅ちゃんは、口元にスナック菓子のカスをつけたまま、起き上がってこちらにやって来た。

私は一之丞や次郎太、三左を見てきてカッパとはややふっくらとした愛らしい体型なんだなと思っていた。
だがしかし?
お梅ちゃんを見て、あれ?少し違うという考えに至る。
彼女はでーんとした樽のようだったのだ。
歩く度に腹の肉が揺れ地面も揺れる。
ドスンドスンとエリちゃんに近付くお梅ちゃんはまるで力士のようだったのだ。

「お梅……あなた、なんというみっともない有り様!錦野家の娘として恥ずかしいと思いませんの!?」

「お姉さま仕方ありませんわ。これはやけ食いですもの」

「やけ食い?」

「わたくしを置いて行ってしまった狐様への想い、それをどこへぶつければよいのか……」

お梅ちゃんは涙を拭った、が、涙は出ていなかった。
どうやら、四尾に惚れてはいるけど、やけ食いで太ったというのではなさそうね。
3日やそこらでこの状態(樽)になるわけない。
いや、そもそも私、お梅ちゃんの元の体型を知らないけど。

「困ったものね。あなた惚れっぽい上に食い意地がはってて図太くて。思い込んだらスッポンのようにしつこいから……」

エリちゃんがため息をつく後ろで、豆狸達が「ひぃ!」と震え、一之丞達は対象物(お梅)からさっと目を逸らした。

















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...