純喫茶カッパーロ

藤 実花

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第五章 天狐を探して

④元祖ジャパニーズ土下座

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「だけど、兄者の気持ちはわかる」

「うん。兄さまも正しいと思う」

次郎太と三左は今度は私を見つめた。
どっちつかずの解答をした2人の考えは全く理解不能だ。
だけど、一之丞は彼らの言うことがわかっているように何も言わない。

「私は蚊帳の外なわけね……」

ポツリと言った。
理解しようと頑張ってみても、関係ないと突き放される。
悲しくて泣きそうだ。
私はただ、一之丞が集会所で守ってくれたように、皆が農家さんのために頑張ってくれたように人類代表として、役に立ちたかっただけなのだ。
でも、望まれないなら仕方ない。

「わかった。2階に行ってるね……」

そう言って踵を返そうとした時、一之丞が私を呼び止めた。

「サユリ殿っ!暫し待たれよっ!」

「一之丞、もう邪魔しないから、行ってきて。気をつけてね」

どこからこんな声が出るのか。
私の口からは冷たく低い音が響いた。

「違うのだ!……あの……」

一之丞は口ごもる。
そんな長兄を見て、次郎太と三左は、示し合わせたように入り口から出ていった。
静かな空間には今、私達だけ。
店内の中央にかけられた鳩時計が、チッチッと時を刻んでいる音が、やけに大きく聞こえてきた。

「……時間が惜しいから、急がないと……」

仕方なく先に口を開いた。
すると、一之丞はキッと顔を上げ、私の近くにテコテコと歩いてきた。

「……関係ない、と言ったのは、決してサユリ殿を傷つけようと思って言ったのではないのだ」

「……」

「私は、サユリ殿を危ない目に合わせたくはない……大切な人であるから……」

「一之丞……えっと、危ないから……来させないように言ったの?」

「うむ……だが、結果として言葉が足らず、傷付けてしまった、すまぬ!」

一之丞はふわりと法被を翻しキチンと正座をすると、深々と頭を下げた。
さすが、300年モノのカッパの土下座。
「元祖ジャパニーズ土下座」を名乗ってもいいくらい立派である。

私はそんなアホな考えを一旦忘れ、ちょこんと正座した一之丞を抱き上げた。

「気にかけてくれてありがとう。そして、ちゃんと話してくれてありがとう。でも、私にも言わせて?」

「も、勿論である!サユリ殿の言い分をお聞かせ願おう!」

「一之丞が私のこと大切だって思ってくれたように、私だって、一之丞達のこと大切なんだから側で見守りたいのは当然でしょ?」

「うむ。そうであるな」

一之丞は真剣な顔で頷いた。

「じゃあ……行ってもいい?」

「うむ……う?え?あーいや……」

「大丈夫(たぶん)。ずっと一之丞の後ろに隠れてるから。それなら安心でしょ?だって、一之丞は強いから」

「……強い……今、私を強いと申したのか?」

「うん。カッパ界一強い、又吉一之丞だもんね、一之丞が守ってくれるなら絶対大丈夫だよねー?」

一之丞は目を見開き、その黒い瞳をキラキラと輝かせた。
出会って日は浅いけど、何となく彼の動かし方はわかる。
キリマンジャロよりプライドが高い一之丞には「誉め殺し」に限るのだ。

「う、うむうむうむっ!」

張り子の虎のように首を振り、一之丞は何度も嬉しそうに頷く。

「そうであるな!私の甲羅の後ろにおれば鉄壁の守りである!どんな敵であろうとも、サユリ殿に指一本触れさせぬ!」

「そうよね!よっ!一之丞!天下一!」

調子に乗って囃し立てると、一之丞はピョンと私の腕から飛び降りた。
そして、歌舞伎の見得を切るポーズをとり、高らかに笑った。
ーーチョロい。チョロすぎる。
だからエリちゃんにも騙されたんじゃないかな……。
と思いつつも、そんな一之丞がとても可愛くてつい頬が緩むのだ。

その場の雰囲気が変わったのを感じてか、次郎太と三左が入り口からひょっこり顔を覗かせた。
2人は私達の顔を交互に見ると、ふぅと息を吐いた。
そして、呆れた表情でやれやれと肩を竦めたのだ。

「話はついたようだね?」

次郎太が一之丞に言った。

「うむ。サユリ殿も共に行くことになった!私が守るゆえ心配はないだろうが、一応お前たちにも、気を付けておいてもらいたい!」

「まっかせてー!僕はサユリちゃんの左を守るねー」

「なら俺は右だな」

一之丞の言葉を受けて、次郎太と三左も近寄って私の両脇を固めた。
前に一之丞、右に次郎太、左に三左。
鉄壁の守りである。
あとは、後ろに誰かがいればいいなぁ、と思っているとカランコロンと音がして姿の見えない来客が来たのを知らせた。

「ならば、私はサユリ様の後ろをお守り致しましょう」

そう言って姿を見せたのは、エリちゃんだ。
彼女はやや緊張した面持ちで、グッと拳を握っていた。

「エリザベス!来たか!良し、これで出発出来る!皆準備は良いな?」

一之丞を中心に、次郎太、三左、エリちゃん、そして私は力強く頷いた。

「うむ!それではサユリ殿。車を出して頂きたい!」

「え。あ。ああ。そうか、そうね。でも、どこに行けばいいかわからないけど?」

「心配ない!この札が導いてくれるのであるっ!」

一之丞はフワリと紙を空中に浮かべた。
それは、池に沈めた呪札だったけど、書かれた文字も消え、どこから見てもただの紙のようになっている。

「これが案内してくれるの?」

「そうである。ついて行けば間違いない!」

札はフワリフワリと浮いていたけど、一之丞が歩き出すと、素早くその前に回り込んだ。

「こうやって術者を案内するのだ。それでは、いざ参ろうか!」

私達はカッパーロの電気を消し、入り口の戸締まりをして、駐車場に向かった。
その時、薄闇の木立の中に、ほんのり輝く銀の光が見えたような気がして私は一人、足を止めた。
気のせいかな?
と首を傾げると、先を行く一之丞が呼ぶ声がする。
気の早いホタルか何かだったのかも。
そう思い直すと、私は一之丞達と合流した。






















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