純喫茶カッパーロ

藤 実花

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第五章 天狐を探して

②お揃いにしてみました!

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「ここ!ほら、見て、法被のここ!」

3着の法被、それぞれ同じ場所を指差した。
すると、一之丞、次郎太、三左は自分の目の前に置かれた法被を凝視し驚きの声をあげたのだ。

「これは……!」

「……おっと……」

「うわぉ!」

彼らの見つめる先には、法被の背中の登り銀竜の下に、同じく銀糸で縫われた文字がある。
そこには、一之丞・次郎太・三左と、それぞれの名前が刺繍されていたのだ。

「サユリ殿、我らの名前が……」

「うん。それ、総代さんの奥さんとその友達の人達がね、どうせなら名前も入れたらって。ご厚意でやってくれたの」

そう言うと、いつもなら大騒ぎしそうな彼らがなぜか一様に黙り俯いた。
もしかして、余計なお世話だったかな……私が不安になっていると、どこからか啜り泣きが聞こえてくる。
今度こそ本当の怪奇現象か、と思いきやそれは俯いたカッパ達の仕業だった。

「うっ、うぅ……」

「い、一之丞?」

一之丞の呻き声を皮切りに、次郎太と三左も泣いた。

「くうっ……なんてことだろう。この俺が泣かされてしまうなんて!」

「うわぁんー!僕……お名前のついた物なんて始めてもらったよぅー」

彼らは泣いた。
大層泣いた。
そして、長兄はファビュラスな顔面から美しい涙を一筋こぼした。

「生まれてから300年。これほどの喜びがあったであろうか!サユリ殿!また、村の方々にお礼を申し上げるっ!」

「う、うん。喜んでもらえて私も嬉しいよ」

3人のキラキラとした瞳を見て、私も釣られて嬉しくなった。
それから、3人は名前の刺繍された法被を手に取ると、恐る恐る袖を通す。
一度着たことのある一之丞でさえ、ネーム入りの法被は少し緊張するらしく、その表情は固い。

「すごい、やばいっ。これ、何か力が溢れてくる!」

三左が裾をヒラヒラさせながら一回転した。
その隣の次郎太は、法被に似合う髪型を鼻歌混じりに模索していて、やがてしっくりくるのを見つけると、ポーズを決めながら言った。

「本当だな……なんていうか、全てが上手く行きそうな感じがするよ」

「うむ!水神の力と村人の祈りの念。あと我らに対する優しい心遣いに溢れておる。名付けるなら《慈愛》の法被である!」

一之丞は襟元を正し、フンッ!と息巻いた。

そして3人は私の前で横並びになり、にっこり笑って見せた。
そんな彼らに「良く似合っているよ」と言う私は、実は心中違うことを考えていた。
「来日中のセレブ兄弟、お忍びで日本文化を楽しむ」にしか見えないな、と。


「さてと。後は看板を下げて夕食の準備をしようか?」

時間はそろそろ6時が来ようとしている。
外を見ると、周辺にはもう薄闇の帳が降りようとしていた。

「うむ!あ、その前に、池に行き呪札の様子を確認せねばならぬ。暫し待ってもらえまいか?」

「あ。うん。じゃあ、三左は先に入り口の看板下げてきて?次郎太は焙煎室と倉庫の戸締まりチェックね!」

「イエッサー!」

「アイアイサー!」

次郎太と三左は颯爽と敬礼をすると、キビキビ散らばっていく。
一之丞も入り口を出て池に向かって歩いて行った。

それから約5分後。
三左が営業中の看板を裏の倉庫にしまい、次郎太が施錠を終えてやって来ると、入り口からものすごい勢いで一之丞が入ってきた。

「見つけたのであるっ!」

一之丞は叫んだ。

「見つけた?……まさか、四尾の居所を?」

走ってきたのか、息の上がった一之丞は私の問いに早口で答えた。

「うむっ!わかったからには、急がねばならぬ!今夜、出発しようぞ!」

「あ、待って!エリちゃんに連絡は?」

見つかったら連絡する、確かそう言っていた気がする。

「そうであった!三左、伝言の術を頼めるか?」

「はぁーい!あ、その前に姿戻さないと!」

「あ、じゃあ、きゅうり、持ってくるわ」

私は急いで2階へ上がり、台所の冷蔵庫からきゅうりを出した。
戦闘も視野に入れた大事な日だから、今日の夕食はきゅうり五本づつにしておく。
ついでにおやつとして、きゅうりの浅漬、粕漬けも持っていこう。
漬け物で妖力が上がるのかどうかは未知数だけど、あるに越したことはない、はずだ。
計15本のきゅうりと、漬け物2種。
それを、保冷バックに入れて私は急いで階段を降りた。

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