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第四章 水神の玉
⑬三左の思い
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「あーっと、そうだ!生豆だよね?倉庫で確認してもいいかな?」
三左の勢いとノリに腰が引けていた大村さんは、思い出したように私を見た。
「うん。よろしく。裏の倉庫にもう一人従業員がいるから、彼に聞いて足りないもの、補充しておいてもらえる?」
「えっ!?まだいるの?もしかしてその彼もホームステイ……?」
「そうよ。サンちゃんさんのお兄さん」
「……日本語は通じるよね?」
大村さんは明らかに動揺した。
三左の兄だということを聞いて、少し不安になったのかも。
あのノリで来られたらどうしよう、と思っているのかもしれない。
「大丈夫。日本語ペラペラで、気だるそうに髪をかきあげながら、上から目線で喋る変わった人よ?」
「へ、へぇ……それは、全く大丈夫に思えないな……」
大村さんは困ったように頭をかいている。
私の説明が悪かっただろうか?
でも本当のことだから仕方ない。
「まぁ、行ってみるよ。後でまたこっちに伝票持って来るから」
「はーい」
私の返事を確認して、彼は裏口へと向かった。
その時、あることを思い出した。
あと一人ホームステイ外国人がいることを言っていない。
インパクトがある顔面で、妙な武士語を話すダビデ像。
……まぁ、説明するより見た方が早いか。
「大村さんって、なんていうか、安心するタイプだよねぇ」
突然三左が呟いた。
彼は既にカウンターに座り、途中まで読んだ雑誌の続きを捲っている。
「どの辺が!?普通のオッサンにしか見えないよ?」
「わかってないなぁー。サユリちゃんは!普通っていうのが難しいんだよ。アクが強いのはもうお腹一杯だよ、僕」
それは、加藤さんのことか!?
私の表情を見て、三左はふふっと笑った。
確かに加藤さんと比べると、大村さんはアクがない。
汁物に例えると、豚汁とすまし汁みたいなものだ。
「ええと。三左はあんな昼行灯みたいなのがいいの?」
「昼行灯……ププッ、それ酷すぎない?」
三左は笑い声を漏らした。
確かに昼行灯は言い過ぎた。
ちゃんとハッキリものを言うし、仕事も出来る方だ、と思う。
顔だって、まぁ、そこそこだ。
だけど、問題は毒にも薬にもならないあの性格で、それがぼんやりとした印象を更に増幅させている。
「長い人生を過ごすならあんなタイプがいいんじゃないかなぁ。あ、あくまでも一般的な見解だけどね!」
三左は、カウンターに広げた雑誌をクルリと反転させ私に見せた。
そこには週刊誌の特集記事で「旦那にするにはこんな男がベスト!」という見出しが見えた。
更にこんな男は選ぶな!という項目が箇条書きにしてある。
その内容が全て加藤さんに当てはまっていて私は吹いた。
「加藤さんが結婚出来ない理由はこれかもね」
「サユリちゃん、そこじゃないよぅ。その隣。加藤さんはどうでもいいから……」
冷たくいい放つ美少女(オス)は次のページを指差した。
そちらの方は見出しのベスト旦那が箇条書きにされていた。
・現状に満足している
・きちんと仕事をする
・家事・育児に協力的
・ほどほどの貯蓄がある
・趣味より家庭を優先する
・威張らない
以下略……
家事に協力的か、ほどほどの貯蓄があるかどうかはわからない。
その他は、大村さんに当てはまっているような気はした。
「ね?大村さん、この通りでしょ?」
「まぁ……でもそれ、私に関係ないんじゃない?」
「もうすぐ30なのにぃ?」
「ぐっ!」
三左が痛いところをついてきた。
ん?どうして、私の年齢を知ってるんだろう!
言ったことはない……はずだけど?
……ていうか自分は295歳の爺のくせに、よく言えたな!
「い、いいのよ、もう。私、あなたたちに看取って貰おうと思ってるから……」
というのは、ほんの冗談だった。
だけど、三左はその言葉に表情を強ばらせた。
悲しそうで辛そうな。
初めて見るその表情に私はハッとしたのだ。
静かな音楽が流れる店内で、三左は雑誌を閉じてこちらを凝視する。
美しい形の唇が切なく震え、やがて軽いため息と共に言葉が漏れた。
「……あのさ。いろいろ考えたんだけど……やっぱり人は人と一緒に生きた方がいいと思うんだ……」
「三左……?」
どういう意味なんだろう。
看取って貰おうと思ってる……という私の言葉に対する返答だろうか?
冗談がわからない三左じゃないはずだ。
そんな会話には慣れているし、兄弟の誰よりもその辺は心得ていて、切り返しも早い。
「僕達の母上が亡くなって、父上がどれ程長い時間を生きたか知ってる?」
私は静かに首を振った。
「考えられないくらいの時間だよ。愛する人を看取って、一人残されるその恐怖と哀しみ……僕、それを見てきたからね……だから、そんな思いをしたくないしさせたくない……」
そう言うと、三左は俯いた。
カッパで寿命の長いお父さんと、人間で寿命の短いお母さん。
当然、長い時間をお父さんは残されることになる。
三左達はそれを見てきたから、私の「看とる」という言葉に反応したのかもしれない。
だから、大村さんをオススメしてくれたんだろうか?
三左の勢いとノリに腰が引けていた大村さんは、思い出したように私を見た。
「うん。よろしく。裏の倉庫にもう一人従業員がいるから、彼に聞いて足りないもの、補充しておいてもらえる?」
「えっ!?まだいるの?もしかしてその彼もホームステイ……?」
「そうよ。サンちゃんさんのお兄さん」
「……日本語は通じるよね?」
大村さんは明らかに動揺した。
三左の兄だということを聞いて、少し不安になったのかも。
あのノリで来られたらどうしよう、と思っているのかもしれない。
「大丈夫。日本語ペラペラで、気だるそうに髪をかきあげながら、上から目線で喋る変わった人よ?」
「へ、へぇ……それは、全く大丈夫に思えないな……」
大村さんは困ったように頭をかいている。
私の説明が悪かっただろうか?
でも本当のことだから仕方ない。
「まぁ、行ってみるよ。後でまたこっちに伝票持って来るから」
「はーい」
私の返事を確認して、彼は裏口へと向かった。
その時、あることを思い出した。
あと一人ホームステイ外国人がいることを言っていない。
インパクトがある顔面で、妙な武士語を話すダビデ像。
……まぁ、説明するより見た方が早いか。
「大村さんって、なんていうか、安心するタイプだよねぇ」
突然三左が呟いた。
彼は既にカウンターに座り、途中まで読んだ雑誌の続きを捲っている。
「どの辺が!?普通のオッサンにしか見えないよ?」
「わかってないなぁー。サユリちゃんは!普通っていうのが難しいんだよ。アクが強いのはもうお腹一杯だよ、僕」
それは、加藤さんのことか!?
私の表情を見て、三左はふふっと笑った。
確かに加藤さんと比べると、大村さんはアクがない。
汁物に例えると、豚汁とすまし汁みたいなものだ。
「ええと。三左はあんな昼行灯みたいなのがいいの?」
「昼行灯……ププッ、それ酷すぎない?」
三左は笑い声を漏らした。
確かに昼行灯は言い過ぎた。
ちゃんとハッキリものを言うし、仕事も出来る方だ、と思う。
顔だって、まぁ、そこそこだ。
だけど、問題は毒にも薬にもならないあの性格で、それがぼんやりとした印象を更に増幅させている。
「長い人生を過ごすならあんなタイプがいいんじゃないかなぁ。あ、あくまでも一般的な見解だけどね!」
三左は、カウンターに広げた雑誌をクルリと反転させ私に見せた。
そこには週刊誌の特集記事で「旦那にするにはこんな男がベスト!」という見出しが見えた。
更にこんな男は選ぶな!という項目が箇条書きにしてある。
その内容が全て加藤さんに当てはまっていて私は吹いた。
「加藤さんが結婚出来ない理由はこれかもね」
「サユリちゃん、そこじゃないよぅ。その隣。加藤さんはどうでもいいから……」
冷たくいい放つ美少女(オス)は次のページを指差した。
そちらの方は見出しのベスト旦那が箇条書きにされていた。
・現状に満足している
・きちんと仕事をする
・家事・育児に協力的
・ほどほどの貯蓄がある
・趣味より家庭を優先する
・威張らない
以下略……
家事に協力的か、ほどほどの貯蓄があるかどうかはわからない。
その他は、大村さんに当てはまっているような気はした。
「ね?大村さん、この通りでしょ?」
「まぁ……でもそれ、私に関係ないんじゃない?」
「もうすぐ30なのにぃ?」
「ぐっ!」
三左が痛いところをついてきた。
ん?どうして、私の年齢を知ってるんだろう!
言ったことはない……はずだけど?
……ていうか自分は295歳の爺のくせに、よく言えたな!
「い、いいのよ、もう。私、あなたたちに看取って貰おうと思ってるから……」
というのは、ほんの冗談だった。
だけど、三左はその言葉に表情を強ばらせた。
悲しそうで辛そうな。
初めて見るその表情に私はハッとしたのだ。
静かな音楽が流れる店内で、三左は雑誌を閉じてこちらを凝視する。
美しい形の唇が切なく震え、やがて軽いため息と共に言葉が漏れた。
「……あのさ。いろいろ考えたんだけど……やっぱり人は人と一緒に生きた方がいいと思うんだ……」
「三左……?」
どういう意味なんだろう。
看取って貰おうと思ってる……という私の言葉に対する返答だろうか?
冗談がわからない三左じゃないはずだ。
そんな会話には慣れているし、兄弟の誰よりもその辺は心得ていて、切り返しも早い。
「僕達の母上が亡くなって、父上がどれ程長い時間を生きたか知ってる?」
私は静かに首を振った。
「考えられないくらいの時間だよ。愛する人を看取って、一人残されるその恐怖と哀しみ……僕、それを見てきたからね……だから、そんな思いをしたくないしさせたくない……」
そう言うと、三左は俯いた。
カッパで寿命の長いお父さんと、人間で寿命の短いお母さん。
当然、長い時間をお父さんは残されることになる。
三左達はそれを見てきたから、私の「看とる」という言葉に反応したのかもしれない。
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