純喫茶カッパーロ

藤 実花

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第四章 水神の玉

②集会所のその後

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朝一番で来た三島先生と民さんが帰ってから、次にやって来たのは加藤さんだ。
今日は土曜日で役場はお休み。
いつもより遅めに来店した彼は、焦茶のチノパンに黒のカットソー、斜め掛けのボディバッグという休日スタイルである。
そして、手には何かが入った白いビニール袋を下げていた。

「いらっしゃいませ!加藤さん、昨日はお疲れ様でした」

疲れた顔で入ってきた加藤さんは、いつもの席に腰掛けると、思いっきり突っ伏して叫んだ。

「あーー!!もう!疲れたよ、しんどいよーー!」

「えー?どうしたのぉ?」

三左がカウンターに水とおしぼりを置き、間延びした声で尋ねた。
民さんと楽しく会話をしていた三左は、さっきからずっと御機嫌である。
そして、また大量に貰ったきゅうりのお陰で、一之丞も次郎太も鼻歌混じりで仕事をしていた。

「サンちゃーん!聞いてよー。昨日集会所でトラブルがあってね?夜遅くまでずっと苦情処理に追われてたんだよぉーー」

加藤さんは三左に泣きつくと頭を抱えた。
あー……昨日の件だよね……。
集会所の駐車場から出ていく時、村人が役場の人に詰め寄っている現場を見た。
それから暫くあの状態が続いたのだとすると、この愚痴も当然だ。

「……お疲れ様です。それで、事態は収まったんでしょう?」

私と一之丞がとんずらした後、集会所でどんなことがあったのか聞いてみたい。
農家の人達が目覚めた時の様子とか、一之丞に落とされた河野社長がちゃんと生きていたのかを。
民さんは全て風邪のせいだと思い込んでいて、殆んど覚えていないのだ。

「サユリちゃんもあの場にいたよね!?知ってると思うけど、原因不明の霧のお陰でみんなパニック起こしてさぁー」

「えっ、ええ。そうでしたね……」

どうもうちのカッパがスミマセン。
心の中でそう言うと、厨房でポテトサラダを作っていた一之丞がチラリとこちらを見た。
彼も、昨日の話が気になるようだ。

「なぜか扉も暫く開かなかったしね。開いた後も、施設の手入れがなってない!とか、点検しとけ!とか、もう散々に罵られてね……」

「あー。それは大変ですね……」

「でしょ?それから今度は農家さん達が夢から覚めたみたいに起き出してね。しかも、誰も何も覚えてないんだ。どうやって集会所まで来たのか、もね。だからさ、家族の人に連絡をとって迎えに来てもらうのに随分手間取ったよ」

「そのことなんですけど、さっき民さんが来て《風邪だったんだ!》って言ってましたよ?」

そう聞くと、加藤さんはものすごく顰めっ面をした。

「あー、それね……診療所の先生も診断つかないって言ってたから、結局なんだったかわからず終いで。だからもう、体調に問題がないんなら風邪ってことにしとけ、ってご家族と話し合った結果だよ……」

言い終わると加藤さんは遠い目をした。
疲れきってもう何もしたくない……そんな気持ちがその目に表れている。

「そうだったんですね。え、それで、東神の社長は……用地買収の件は?」

「ああ、河野社長は署名を破棄してすぐに帰ったよ。なんかね、自分がどこにいるのかもわからなかったみたいだよ。怖いね、痴ほう症かな?若いのに」

いやいや。
加藤さん、それは違うよ。
四尾っていう狐のせいだよ。
とは言えず、私はあははと笑ってごまかし、淹れたばかりのコーヒーと共にモーニングを差し出した。

つまり、河野社長は四尾に操られて、用地買収をしかけたのであって、彼自身が村に工場を作りたいわけではなかった。
じゃあ、四尾が農家さんの土地を欲しかったのかな?
でも、なんで?
四尾の企みがわからず、私の疑問はどんどん膨らんでいった。

「それからさぁ。もう一つ、理解に苦しむ出来事があるんだ……」

加藤さんはコーヒーに砂糖を入れ、カチャカチャとかき混ぜる。
そして、ゆっくりと一口飲むと、幸せそうにはぁーと息を吐き、持ってきた白いビニール袋をスッと差し出した。

「後から集会所の中を見て回ったらさ……おかしなものがあったんだ」

加藤さんは私の目の前にビニール袋をおき「中を見て」と指でジェスチャーをした。

……何だろう?
白いビニール袋からうっすらと見える色は黒や白、膨らみの無い形状の物と、何か形のある物も入っているようだ。
私は思いきってそのビニール袋の中を覗いてみた。



























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