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第三章 怪・事件
⑨法被の銀竜
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竜巻は火柱になって一之丞を襲う。
このままでは間違いなく、集会所は火事になり、中の人もただじゃすまない。
下手したら死んでしまう。
「一之丞!!」
どうしたらいいかわからず、私は叫んだ。
名前を呼んだからって、なんとかなるわけじゃないのはわかってる。
でも、 今頼れるのは一之丞だけなのだ!
「任されよ!サユリ殿!」
そう言って、近付いてくる火柱に一之丞は向かって行った。
避ければ、他の何かに当たり延焼してしまうかもしれない。
だけど、一之丞に当たれば彼も……。
グランドピアノの下で、私はひたすら祈り戦況を見つめた。
その視線の先では、四尾がニヤリとしたまま、フワフワと浮いている。
だが、その余裕綽々な態度は突然崩れ去った。
火柱が迫る中、一之丞は両手を捏ねるように旋回させる。
すると、大気中にあった水蒸気が集まり水柱を作りあげたのだ。
天へと登る水柱。
それは法被の柄みたいで、キラキラと美しく、思わず見とれてしまうほどだ。
一之丞は水柱を一本また一本と増やし無数の火柱へと放った。
火柱と水柱は拮抗している。
どちらも負けじと押し返すが、やがて水柱が優勢になってきた。
一之丞は、水柱を巧みに操りながらどんどん火柱を押してゆく。
その時、私は見た。
彼の纏う法被から、細かい光の粒子が舞い水柱に流れ込んでいるのを。
粒子の出所を探すとそれは……銀竜だった。
銀竜から流れ出る粒子が、水柱を更に強大に強く激しくしている。
「この神気……これは……まさか……ああ、あのお方の……そんな……そんなことが……」
四尾は狼狽えながら後退した。
それと同時に火柱も勢いを失くし、隙をついた一之丞の水柱に完全に飲み込まれた。
「なんと……あの方に邪魔されるとは……ふっ、ふふっ、ふははははっ」
四尾は驚きの表情から、一転、愉快そうに笑い始めた。
そして、一頻り笑うと、まだ警戒している一之丞に向かって言った。
「一旦引いてやろうぞ?河童に圧されるなど口惜しいが、収穫もあったからのぅ」
そう言うと、四尾はその身を炎に変えた。
これが狐火というものかな?
危機が去って余裕の出てきた私は、少し冷静に分析した。
「天狐!!待つのだ!」
水柱を消し、一之丞は四尾に近寄ろうとした。
だが、炎を増幅させ倍くらいの大きさになった四尾には近寄ることが出来ない。
「河童。あのお方の加護があって良かったのぅ。運が良い……ではな!」
捨て台詞を吐き、一直線に天井へと向かう四尾はそのまま突き抜けて消えた。
普通なら穴が開いたり、燃えてしまうはずのオンボロ天井には何の変化も見られない。
狐に化かされている、きっとそうなんだ……なんて考えていると、一之丞がやって来た。
「サユリ殿っ!無事であるか?」
「うん。無事!」
のそのそとピアノの下から這い出て、ふと目を上げると、ポカンと口を開けた河野社長と目が合った。
河野社長は、ハッとしたように辺りを見回すと、またもう一度こちらを見た。
こちら……というか、一之丞をである。
「か……え?か……かっ……」
カッパか?と聞きたいんだろうけど、驚き過ぎて声になってない。
「一之丞?河野社長は正気に戻ったみたい」
「そうであるな」
一之丞のカッパ姿を見られたにも関わらず、私達は冷静だった。
相手は正気に戻ったばかり。
どうにでも言い訳は出来る。
例えば、私が最初間違えたように、カッパの着ぐるみですよ?とか。
そう思い、話を聞こうと河野社長に近付く私の横をスルルッと一之丞が走り出た。
そして……。
「すまんっ!」ドスッ!
「ふぐっ!」バタリ……。
……お分かりだろうか。
このカッパ、勢い良く飛び上がると河野社長の首元に手刀を食らわせたのだ。
「いっ、一之丞ーー!いきなり!?」
「心配ない。起きれば全てを忘れておろう。それよりもあちらだ」
一之丞の指差す先には、前列のパイプ椅子に座る民さん達、農家の人の姿が見える。
四尾がいなくなったことにより、集会所の鍵は全てが開き、霧の中を右往左往していた村人も外に出始めている。
でも、農家の人達はずっと椅子に座ったままなのだ。
状態はここに来た時と全然変わらない。
「四尾のせいじゃなかったのかな?」
「む……。術は違う所でかけられたのではなかろうか?」
「違う所?」
一之丞は法被の袖のすすをパンパンと叩き襟元を正した。
「例えば、家に訪問者があり、その者が術をかける。術をかけるといっても、見えない所に札を貼るだけで良いのだ。その道の者ならば簡単に出来よう」
「四尾はその道の者?」
「うむ。天狐が呪札を作り、訪問者が貼る。それだけで効くのだ。訪問者も天狐が操っていたのだろうな」
訪問者……。
それは、地上げ業者のことじゃないだろうか?
カッパーロ開店二日目の朝、加藤さんが言ってた。
農家の人の所に、地上げ業者が回っているって!
「たぶん、それ、正解だと思う。きっと家のどこかに貼られてるんじゃないのかな?その呪札が」
「良し!農家の人の家にサユリ殿が案内してくれれば、呪札の気配を私が探ろう」
「いいけど。でも、農家の人の家って結構数あるよ?回りきれるかなぁ……」
浅川村の約半数が農家をしている。
いくら過疎地とはいえ、一軒一軒2人で回るのは大変だ。
困った顔をして一之丞を見ると、彼はポンと胸を叩き言った。
「御心配めさるな。次郎太と三左も呼べば3倍早く終わるであろう」
このままでは間違いなく、集会所は火事になり、中の人もただじゃすまない。
下手したら死んでしまう。
「一之丞!!」
どうしたらいいかわからず、私は叫んだ。
名前を呼んだからって、なんとかなるわけじゃないのはわかってる。
でも、 今頼れるのは一之丞だけなのだ!
「任されよ!サユリ殿!」
そう言って、近付いてくる火柱に一之丞は向かって行った。
避ければ、他の何かに当たり延焼してしまうかもしれない。
だけど、一之丞に当たれば彼も……。
グランドピアノの下で、私はひたすら祈り戦況を見つめた。
その視線の先では、四尾がニヤリとしたまま、フワフワと浮いている。
だが、その余裕綽々な態度は突然崩れ去った。
火柱が迫る中、一之丞は両手を捏ねるように旋回させる。
すると、大気中にあった水蒸気が集まり水柱を作りあげたのだ。
天へと登る水柱。
それは法被の柄みたいで、キラキラと美しく、思わず見とれてしまうほどだ。
一之丞は水柱を一本また一本と増やし無数の火柱へと放った。
火柱と水柱は拮抗している。
どちらも負けじと押し返すが、やがて水柱が優勢になってきた。
一之丞は、水柱を巧みに操りながらどんどん火柱を押してゆく。
その時、私は見た。
彼の纏う法被から、細かい光の粒子が舞い水柱に流れ込んでいるのを。
粒子の出所を探すとそれは……銀竜だった。
銀竜から流れ出る粒子が、水柱を更に強大に強く激しくしている。
「この神気……これは……まさか……ああ、あのお方の……そんな……そんなことが……」
四尾は狼狽えながら後退した。
それと同時に火柱も勢いを失くし、隙をついた一之丞の水柱に完全に飲み込まれた。
「なんと……あの方に邪魔されるとは……ふっ、ふふっ、ふははははっ」
四尾は驚きの表情から、一転、愉快そうに笑い始めた。
そして、一頻り笑うと、まだ警戒している一之丞に向かって言った。
「一旦引いてやろうぞ?河童に圧されるなど口惜しいが、収穫もあったからのぅ」
そう言うと、四尾はその身を炎に変えた。
これが狐火というものかな?
危機が去って余裕の出てきた私は、少し冷静に分析した。
「天狐!!待つのだ!」
水柱を消し、一之丞は四尾に近寄ろうとした。
だが、炎を増幅させ倍くらいの大きさになった四尾には近寄ることが出来ない。
「河童。あのお方の加護があって良かったのぅ。運が良い……ではな!」
捨て台詞を吐き、一直線に天井へと向かう四尾はそのまま突き抜けて消えた。
普通なら穴が開いたり、燃えてしまうはずのオンボロ天井には何の変化も見られない。
狐に化かされている、きっとそうなんだ……なんて考えていると、一之丞がやって来た。
「サユリ殿っ!無事であるか?」
「うん。無事!」
のそのそとピアノの下から這い出て、ふと目を上げると、ポカンと口を開けた河野社長と目が合った。
河野社長は、ハッとしたように辺りを見回すと、またもう一度こちらを見た。
こちら……というか、一之丞をである。
「か……え?か……かっ……」
カッパか?と聞きたいんだろうけど、驚き過ぎて声になってない。
「一之丞?河野社長は正気に戻ったみたい」
「そうであるな」
一之丞のカッパ姿を見られたにも関わらず、私達は冷静だった。
相手は正気に戻ったばかり。
どうにでも言い訳は出来る。
例えば、私が最初間違えたように、カッパの着ぐるみですよ?とか。
そう思い、話を聞こうと河野社長に近付く私の横をスルルッと一之丞が走り出た。
そして……。
「すまんっ!」ドスッ!
「ふぐっ!」バタリ……。
……お分かりだろうか。
このカッパ、勢い良く飛び上がると河野社長の首元に手刀を食らわせたのだ。
「いっ、一之丞ーー!いきなり!?」
「心配ない。起きれば全てを忘れておろう。それよりもあちらだ」
一之丞の指差す先には、前列のパイプ椅子に座る民さん達、農家の人の姿が見える。
四尾がいなくなったことにより、集会所の鍵は全てが開き、霧の中を右往左往していた村人も外に出始めている。
でも、農家の人達はずっと椅子に座ったままなのだ。
状態はここに来た時と全然変わらない。
「四尾のせいじゃなかったのかな?」
「む……。術は違う所でかけられたのではなかろうか?」
「違う所?」
一之丞は法被の袖のすすをパンパンと叩き襟元を正した。
「例えば、家に訪問者があり、その者が術をかける。術をかけるといっても、見えない所に札を貼るだけで良いのだ。その道の者ならば簡単に出来よう」
「四尾はその道の者?」
「うむ。天狐が呪札を作り、訪問者が貼る。それだけで効くのだ。訪問者も天狐が操っていたのだろうな」
訪問者……。
それは、地上げ業者のことじゃないだろうか?
カッパーロ開店二日目の朝、加藤さんが言ってた。
農家の人の所に、地上げ業者が回っているって!
「たぶん、それ、正解だと思う。きっと家のどこかに貼られてるんじゃないのかな?その呪札が」
「良し!農家の人の家にサユリ殿が案内してくれれば、呪札の気配を私が探ろう」
「いいけど。でも、農家の人の家って結構数あるよ?回りきれるかなぁ……」
浅川村の約半数が農家をしている。
いくら過疎地とはいえ、一軒一軒2人で回るのは大変だ。
困った顔をして一之丞を見ると、彼はポンと胸を叩き言った。
「御心配めさるな。次郎太と三左も呼べば3倍早く終わるであろう」
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