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第三章 怪・事件
⑧準備運動であるっ!
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「一之丞!四尾は、人間じゃなかったの?」
甲羅を揺さぶりながら尋ねると、ゴクリと息を飲む音が近くで聞こえた。
この状況に一之丞も面食らっている。
どう判断していいか困っているようだった。
「そうだと思っておったが……む!この気配……もしやっ!」
一之丞の叫びと光が弾けるのは、同時だった。
光が収束するのを待ち、甲羅からひょっこりと顔を覗かせて見ると、長テーブルの上にちょこんと何かが乗っている。
それは白くてふわふわの毛が気持ち良さそうな美しい狐だった。
身長は30cmほどで、目は金色。
普通の狐と違い尾が4本にわかれていた。
「一之丞。あれ、狐よね?」
「……」
黙ったままの一之丞は、微かに汗をかいている。
「どうじゃ?河童よ。私は術師かの?」
ファサッファサッと、4本の尾を絡ませて四尾は楽しそうに言った。
一之丞はグッと拳を握り、眼前の狐をじっと見つめる。
その眼には負けてはならぬ、という固い決意が感じられた。
「術師に非ず。だが、神にも非ず。その神気の種類は……神の遣い、神に仕えるもの……」
「そう、私は天狐。神のお側に仕える者。もっとも神に近き者。貴様、この私を人間などと一緒にしおって」
四尾の雰囲気が少し変わった。
怒っているのか、全身の毛が逆立っている。
そんな四尾に怯むことなく、一之丞は敢然と立ち向かった。
仁王立ちになり胸を張ると、キッと前を向く。
その後ろで私は甲羅をギュゥゥと掴み「頑張れ、一之丞!」と心の中でエールを送った!
「いかに天狐であろうとも、人々に害を成すなど許されぬ!我ら妖怪、人とは相容れずとも、同じ大地に住むもの同士!助け合わねば滅びてしまうのだぞ?」
「河童ごときがよく吠えるのぅ。力の差がわかっておらぬとみえる。天狐に歯向かうか?」
四尾はやれやれと尻尾を左右に振る。
「村人に対する呪いを解かねば、それもやむ無し!いざお相手つかまつるっ!」
「愚かな」
一之丞は構え、四尾は長テーブルからヒラリと降りた。
「サユリ殿!少し荒れそうである!ここでは危ない。少し下がっていてもらえまいか!?」
「う、うん。わかった」
私はあっさりと頷いた。
さっきはカッパの勇姿が見たいとか言ったけど、今は一刻も早くこの場から立ち去りたい。
狐とカッパの戦いなんて、巻き込まれるのはほんと勘弁です。
でも、隠れる所なんてどこに?と辺りを見回すと、お誂え向きにグランドピアノが置かれている。
よし!その下にでも隠れていよう。
私は一之丞の背から離れようとして、ふと思い出した。
彼に返すものがあったのを。
「ねぇ、これ!いる?」
構えたまま、一之丞は慎重に振り返った。
「……う、うむっ!!それは神気を大量に帯びている!私の妖力の助けになろう!」
「オッケー!はいっ!」
私は一之丞が着ていた法被を広げて投げた。
法被は鳥が飛翔していくように舞い上がると、小さい一之丞の背中にふわりと掛かる。
闇の中を、光輝き天へ登る銀竜。
その銀竜の目は、初めて見たときよりも色鮮やかになっている気がする。
そして法被を纏った一之丞からは、妖力が5割増しになったかのようなオーラが出ていた。
……あ、早く隠れなきゃ。
当初の予定を思い出し、私はグランドピアノの下に潜り込んだ。
「……そのような物があっても、何も変わらぬと思うが……?」
四尾は可愛らしく首を傾けた。
だけど、いくら可愛らしくてもあれは悪いやつ!
ピアノの下で拳を握り絞め、私は一之丞の応援をした。
「ならば、試してみればよかろう!行くぞっ!」
一之丞は上空に飛び上がった。
カッパの跳躍を改めて見たけど、これはすごい。
本当はカエルなんじゃないの?と言いたくなるくらいの高さだが……些か飛び過ぎた……。
集会所の天井は低い。
古い建物だから天井が低めに作られていて、もちろん跳躍力のあるカッパには優しくない設計だ。
一之丞はゴンッと天井に頭(皿)をぶつけ、キュッ!と一度泣いた。
でも、そこはカッパの意地があるのか、何事もなかったように空中で一回転した後、片膝を立て綺麗に着地した。
……皿は……無事だろうか……。
私の心配をよそに、一之丞はキッと顔を上げ四尾を睨む。
そして、四尾は半ば呆れて呟いた。
「……何やら一人で楽しそうだの?」
「ぐっ!これは……準備運動であるっ!」
「へぇ。貴様の準備運動は激しいのだな。さて、ではこちらから良いかな?」
四尾は尻尾をブンッと振った。
すると、切り裂くような突風が起こる。
尻尾は次々と風を生み出し、その全てが一之丞目掛けて襲いかかってきた。
「かわせるか?」
笑う四尾の正面で、一之丞はひらり、またひらりと突風を避けた。
「おや、かわされた。では、これはどうか?」
スゥと息を吸い込んだ四尾は、飛び上がって後転すると、突然火を吹いた。
更に尻尾を回転させ、さっきよりも強い風を起こす。
竜巻のような風が炎を纏う!
これは……ダメなやつだ。
室内で、こんなもの出されたら、火事になって大変なことになるっ!
甲羅を揺さぶりながら尋ねると、ゴクリと息を飲む音が近くで聞こえた。
この状況に一之丞も面食らっている。
どう判断していいか困っているようだった。
「そうだと思っておったが……む!この気配……もしやっ!」
一之丞の叫びと光が弾けるのは、同時だった。
光が収束するのを待ち、甲羅からひょっこりと顔を覗かせて見ると、長テーブルの上にちょこんと何かが乗っている。
それは白くてふわふわの毛が気持ち良さそうな美しい狐だった。
身長は30cmほどで、目は金色。
普通の狐と違い尾が4本にわかれていた。
「一之丞。あれ、狐よね?」
「……」
黙ったままの一之丞は、微かに汗をかいている。
「どうじゃ?河童よ。私は術師かの?」
ファサッファサッと、4本の尾を絡ませて四尾は楽しそうに言った。
一之丞はグッと拳を握り、眼前の狐をじっと見つめる。
その眼には負けてはならぬ、という固い決意が感じられた。
「術師に非ず。だが、神にも非ず。その神気の種類は……神の遣い、神に仕えるもの……」
「そう、私は天狐。神のお側に仕える者。もっとも神に近き者。貴様、この私を人間などと一緒にしおって」
四尾の雰囲気が少し変わった。
怒っているのか、全身の毛が逆立っている。
そんな四尾に怯むことなく、一之丞は敢然と立ち向かった。
仁王立ちになり胸を張ると、キッと前を向く。
その後ろで私は甲羅をギュゥゥと掴み「頑張れ、一之丞!」と心の中でエールを送った!
「いかに天狐であろうとも、人々に害を成すなど許されぬ!我ら妖怪、人とは相容れずとも、同じ大地に住むもの同士!助け合わねば滅びてしまうのだぞ?」
「河童ごときがよく吠えるのぅ。力の差がわかっておらぬとみえる。天狐に歯向かうか?」
四尾はやれやれと尻尾を左右に振る。
「村人に対する呪いを解かねば、それもやむ無し!いざお相手つかまつるっ!」
「愚かな」
一之丞は構え、四尾は長テーブルからヒラリと降りた。
「サユリ殿!少し荒れそうである!ここでは危ない。少し下がっていてもらえまいか!?」
「う、うん。わかった」
私はあっさりと頷いた。
さっきはカッパの勇姿が見たいとか言ったけど、今は一刻も早くこの場から立ち去りたい。
狐とカッパの戦いなんて、巻き込まれるのはほんと勘弁です。
でも、隠れる所なんてどこに?と辺りを見回すと、お誂え向きにグランドピアノが置かれている。
よし!その下にでも隠れていよう。
私は一之丞の背から離れようとして、ふと思い出した。
彼に返すものがあったのを。
「ねぇ、これ!いる?」
構えたまま、一之丞は慎重に振り返った。
「……う、うむっ!!それは神気を大量に帯びている!私の妖力の助けになろう!」
「オッケー!はいっ!」
私は一之丞が着ていた法被を広げて投げた。
法被は鳥が飛翔していくように舞い上がると、小さい一之丞の背中にふわりと掛かる。
闇の中を、光輝き天へ登る銀竜。
その銀竜の目は、初めて見たときよりも色鮮やかになっている気がする。
そして法被を纏った一之丞からは、妖力が5割増しになったかのようなオーラが出ていた。
……あ、早く隠れなきゃ。
当初の予定を思い出し、私はグランドピアノの下に潜り込んだ。
「……そのような物があっても、何も変わらぬと思うが……?」
四尾は可愛らしく首を傾けた。
だけど、いくら可愛らしくてもあれは悪いやつ!
ピアノの下で拳を握り絞め、私は一之丞の応援をした。
「ならば、試してみればよかろう!行くぞっ!」
一之丞は上空に飛び上がった。
カッパの跳躍を改めて見たけど、これはすごい。
本当はカエルなんじゃないの?と言いたくなるくらいの高さだが……些か飛び過ぎた……。
集会所の天井は低い。
古い建物だから天井が低めに作られていて、もちろん跳躍力のあるカッパには優しくない設計だ。
一之丞はゴンッと天井に頭(皿)をぶつけ、キュッ!と一度泣いた。
でも、そこはカッパの意地があるのか、何事もなかったように空中で一回転した後、片膝を立て綺麗に着地した。
……皿は……無事だろうか……。
私の心配をよそに、一之丞はキッと顔を上げ四尾を睨む。
そして、四尾は半ば呆れて呟いた。
「……何やら一人で楽しそうだの?」
「ぐっ!これは……準備運動であるっ!」
「へぇ。貴様の準備運動は激しいのだな。さて、ではこちらから良いかな?」
四尾は尻尾をブンッと振った。
すると、切り裂くような突風が起こる。
尻尾は次々と風を生み出し、その全てが一之丞目掛けて襲いかかってきた。
「かわせるか?」
笑う四尾の正面で、一之丞はひらり、またひらりと突風を避けた。
「おや、かわされた。では、これはどうか?」
スゥと息を吸い込んだ四尾は、飛び上がって後転すると、突然火を吹いた。
更に尻尾を回転させ、さっきよりも強い風を起こす。
竜巻のような風が炎を纏う!
これは……ダメなやつだ。
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