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第二章 めたもるふぉーぜ!
⑭人類代表、石原サユリ
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「ダビデじゃないわよ……」
でも私もそう思う、と付け足すと母はぶっ!と吹き出して笑った。
「サユリ殿の母上様であるな。私は又吉一之丞、そして、これは弟の次郎太と三左である」
一之丞は母の前に進み出て、自分達の紹介をした。
母は、ダビデから流暢で古くさい日本語が出てきたのが珍しいのか、目を丸くしている。
「200年前、石原仁左衛門殿が約束したのだ。又吉一族が窮地に陥れば、これを助けると。その約束を果たしてもらうべく今、カッパーロで厄介になっている」
「あらまぁ。それって、あの巻物のことかしら?」
目を丸くしていた母は、一之丞の話を聞くと、ポンッと手を打った。
あの巻物?そういえば、一之丞が見せてくれた写しも巻物だった。
石原家にもうひとつあるなら、それを母が知っててもおかしくはない。
「お母さん、それ、仁左衛門の巻物のこと?うちに残ってるの?」
「ええ。確かお父さんがお祖父ちゃんに貰った金庫の中にそれがあったはず。ミミズの這ったような文字でね?私は全く読めなかったんだけど、お父さんが読んでくれたから内容は覚えてるわ」
「それって、雨を降らせる代わりに、カッパ一族を助けろって書いてあった?」
「うん。そうだったわ」
私との会話が済むと、母は一之丞達を手招きした。
彼等はオドオドしながら近付くと、私のちょうど真横で止まる。
そんな一之丞達を母はマジマジと見てふぅんと面白そうに笑った。
「そう。カッパね。カッパ。浅川池からずっと気配は感じていたのよ」
「ええっ!知ってたの?ママさん!」
三左はベッドに近寄り、母のすぐ側に腰かけた。
「気配はね。ちょうど、そう、三匹。あなたたちだったのね。まさか、サユリの代になってやって来るとはねぇ」
「うむ。ちと、問題が起きてな」
そう言った一之丞は少し悲しそうな表情をしていた。
彼の言う問題とは、最初に言っていた浅川池の水位のことだろう。
いつからか、水位が下がりだし美しかった池は見るも無惨なことになった。
その原因が何なのかは教えてもらっていないけど。
「そう言えばね……いつだったか池の雰囲気がガラッと変わった時があったわ」
母は斜め上を見ながらそう言うと、人差し指を頬に当てた。
その話を聞いてカッパ達それぞれに変化が見られた。
まず一之丞はどんよりとした様子を隠そうともせず、はぁーっと頭を抱えて項垂れ、次郎太はそんな長兄を見ながら肩を竦めている。
そして三左は、母のベッドに腰かけたま、呆れたような表情を浮かべた。
「思えばその時から、池の水位は下がってきたのよね……」
母は挙動不審な三兄弟を順番に見ながら続けた。
「ねぇ。何があったか知らないけど、自分達でなんとかならないなら、相談しなさいな」
「相談……相談出来るものなどおらぬ!」
諭す母に、一之丞が吐き捨てるように言った。
その表情は、怒っているように見えたけど対象は母じゃない。
それは、自分自身に向けた怒りに見えた。
「いるわ。ほら、人類代表、石原サユリ」
「はい……はい?」
つい、呼ばれて返事をしてしまった。
いや、人類代表ってなんですかね?
とっても嫌な予感がするんだけど!?
カッパの面倒を見ている上に、更に池の問題まで相談されるの?
ちょっとそれ、忙しくない?
青くなる私の前で、次郎太と三左は「その手があった!」という顔をした。
でも、一之丞は難しい表情を崩さない。
「出来ぬ。そもそも、サユリ殿には関係ない」
「はぁ!?ちょっと面倒みろって押し掛けてきて、今度は関係ないって何よ!」
私は一之丞に詰め寄った……が、近付き過ぎて顔が見えなくなったので、すぐに一歩下がった。
カッパ状態であったなら、胸倉を掴んで締め上げて、生意気な口を封じてやるところだけど、人型ではそうもいかない。
圧倒的な体格差があるのだ。
結構仲良くなれたと思ったのに、突き放されるようなことを言われた私は、キッと一之丞を睨み、それに怯んだ彼は目を背けた。
すると、見かねた母が口を出した。
「まぁまぁ、落ち着きなさいな。一之丞くんは、どうしても言いたくないことがあるのよね?」
「……」
一之丞は顔を背けたままだ。
「言いたくないことは言わなくてもいいわよ。でもね、案外この子は気にしないわ。笑って手を貸してくれるかもしれない。ほら、サユリって能天気でしょう?」
能天気じゃない!おおらかなのっ!物事に拘らない性格なの!
と、表情で訴えてみたけど誰もこっちを見てなかった。
そして、更に母は続ける。
「大体いきなりカッパが現れて、ハイそうですかと居候させるなんて、サユリくらいのものよ?言い換えると、サユリじゃなかったら、今頃あなたたち、悪の研究所で解剖されて、漢方にされてるわ」
次郎太と三左はヒイッといいながらブルブルと震えた。
一之丞も顔を背けたまま冷や汗をかいている。
やんわりと話しているけど、これ、脅しよね?
グダグダ言わずに話さんかい!って言ってるよね……。
「だからね。もっと信用なさい。サユリは味方よ?わかってるでしょう?一之丞くん」
「……うむ。母上。暫く考えたい……」
どうやら、母の脅しに一之丞が屈したらしい。
「ええ。どうぞどうぞ。皆で相談してちゃんと解決してね?浅川池ってパワースポットだから。失くしちゃダメなところなのよ」
「そうだったわね。神様の加護があるって言ってたっけ?」
私は昔、母に聞いたことを思い出していた。
浅川池には神様の大切なものが沈んでるって。
「そうよー。だからちゃんとしてあげて、ね?」
母は私達全員に笑いかけた。
でも私もそう思う、と付け足すと母はぶっ!と吹き出して笑った。
「サユリ殿の母上様であるな。私は又吉一之丞、そして、これは弟の次郎太と三左である」
一之丞は母の前に進み出て、自分達の紹介をした。
母は、ダビデから流暢で古くさい日本語が出てきたのが珍しいのか、目を丸くしている。
「200年前、石原仁左衛門殿が約束したのだ。又吉一族が窮地に陥れば、これを助けると。その約束を果たしてもらうべく今、カッパーロで厄介になっている」
「あらまぁ。それって、あの巻物のことかしら?」
目を丸くしていた母は、一之丞の話を聞くと、ポンッと手を打った。
あの巻物?そういえば、一之丞が見せてくれた写しも巻物だった。
石原家にもうひとつあるなら、それを母が知っててもおかしくはない。
「お母さん、それ、仁左衛門の巻物のこと?うちに残ってるの?」
「ええ。確かお父さんがお祖父ちゃんに貰った金庫の中にそれがあったはず。ミミズの這ったような文字でね?私は全く読めなかったんだけど、お父さんが読んでくれたから内容は覚えてるわ」
「それって、雨を降らせる代わりに、カッパ一族を助けろって書いてあった?」
「うん。そうだったわ」
私との会話が済むと、母は一之丞達を手招きした。
彼等はオドオドしながら近付くと、私のちょうど真横で止まる。
そんな一之丞達を母はマジマジと見てふぅんと面白そうに笑った。
「そう。カッパね。カッパ。浅川池からずっと気配は感じていたのよ」
「ええっ!知ってたの?ママさん!」
三左はベッドに近寄り、母のすぐ側に腰かけた。
「気配はね。ちょうど、そう、三匹。あなたたちだったのね。まさか、サユリの代になってやって来るとはねぇ」
「うむ。ちと、問題が起きてな」
そう言った一之丞は少し悲しそうな表情をしていた。
彼の言う問題とは、最初に言っていた浅川池の水位のことだろう。
いつからか、水位が下がりだし美しかった池は見るも無惨なことになった。
その原因が何なのかは教えてもらっていないけど。
「そう言えばね……いつだったか池の雰囲気がガラッと変わった時があったわ」
母は斜め上を見ながらそう言うと、人差し指を頬に当てた。
その話を聞いてカッパ達それぞれに変化が見られた。
まず一之丞はどんよりとした様子を隠そうともせず、はぁーっと頭を抱えて項垂れ、次郎太はそんな長兄を見ながら肩を竦めている。
そして三左は、母のベッドに腰かけたま、呆れたような表情を浮かべた。
「思えばその時から、池の水位は下がってきたのよね……」
母は挙動不審な三兄弟を順番に見ながら続けた。
「ねぇ。何があったか知らないけど、自分達でなんとかならないなら、相談しなさいな」
「相談……相談出来るものなどおらぬ!」
諭す母に、一之丞が吐き捨てるように言った。
その表情は、怒っているように見えたけど対象は母じゃない。
それは、自分自身に向けた怒りに見えた。
「いるわ。ほら、人類代表、石原サユリ」
「はい……はい?」
つい、呼ばれて返事をしてしまった。
いや、人類代表ってなんですかね?
とっても嫌な予感がするんだけど!?
カッパの面倒を見ている上に、更に池の問題まで相談されるの?
ちょっとそれ、忙しくない?
青くなる私の前で、次郎太と三左は「その手があった!」という顔をした。
でも、一之丞は難しい表情を崩さない。
「出来ぬ。そもそも、サユリ殿には関係ない」
「はぁ!?ちょっと面倒みろって押し掛けてきて、今度は関係ないって何よ!」
私は一之丞に詰め寄った……が、近付き過ぎて顔が見えなくなったので、すぐに一歩下がった。
カッパ状態であったなら、胸倉を掴んで締め上げて、生意気な口を封じてやるところだけど、人型ではそうもいかない。
圧倒的な体格差があるのだ。
結構仲良くなれたと思ったのに、突き放されるようなことを言われた私は、キッと一之丞を睨み、それに怯んだ彼は目を背けた。
すると、見かねた母が口を出した。
「まぁまぁ、落ち着きなさいな。一之丞くんは、どうしても言いたくないことがあるのよね?」
「……」
一之丞は顔を背けたままだ。
「言いたくないことは言わなくてもいいわよ。でもね、案外この子は気にしないわ。笑って手を貸してくれるかもしれない。ほら、サユリって能天気でしょう?」
能天気じゃない!おおらかなのっ!物事に拘らない性格なの!
と、表情で訴えてみたけど誰もこっちを見てなかった。
そして、更に母は続ける。
「大体いきなりカッパが現れて、ハイそうですかと居候させるなんて、サユリくらいのものよ?言い換えると、サユリじゃなかったら、今頃あなたたち、悪の研究所で解剖されて、漢方にされてるわ」
次郎太と三左はヒイッといいながらブルブルと震えた。
一之丞も顔を背けたまま冷や汗をかいている。
やんわりと話しているけど、これ、脅しよね?
グダグダ言わずに話さんかい!って言ってるよね……。
「だからね。もっと信用なさい。サユリは味方よ?わかってるでしょう?一之丞くん」
「……うむ。母上。暫く考えたい……」
どうやら、母の脅しに一之丞が屈したらしい。
「ええ。どうぞどうぞ。皆で相談してちゃんと解決してね?浅川池ってパワースポットだから。失くしちゃダメなところなのよ」
「そうだったわね。神様の加護があるって言ってたっけ?」
私は昔、母に聞いたことを思い出していた。
浅川池には神様の大切なものが沈んでるって。
「そうよー。だからちゃんとしてあげて、ね?」
母は私達全員に笑いかけた。
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