純喫茶カッパーロ

藤 実花

文字の大きさ
上 下
27 / 120
第二章 めたもるふぉーぜ!

⑬三匹の水の者

しおりを挟む
「それで……店はどう?順調?」

「えっ!……あ、うん。順調よ。常連さんも来てくれるし、新規のお客さんも来てくれて」

「豆の焙煎は問題ない?」

「大丈夫。今のところ焦がしてないから」

そう答えると母は楽しそうに笑った。
何を思って笑ったのか。
それは簡単に想像出来た。
焙煎室で豆を焦がして慌てる父の姿だろう。
私もその姿には覚えがある。
きっと母にとっても、忘れ難い思い出なのだ。

「ごめんね……あなたにも迷惑かけて……仕事まで辞めさせてしまって……」

急にしんみりして母が言った。

「お母さん……謝らないでよ」

「だって……向こうに彼氏がいたりとかしたら申し訳ないじゃない?」

あれ……なんだか雲行きが怪しいぞ?これ、謝るフリして探ってるんじゃあるまいな?
と、思ったのは間違いではなかった。

「お父さんも孫を見たかったでしょうね……」

「ちょっと……それ、どういう意味?」

「誰かいい人と結婚して、出来れば店を一緒にやってくれると安心なんだけどなぁ……って意味」

母はもう隠そうともしない。
こういう話になると、体調が悪くて入院している人には見えないくらい覇気が溢れるのはどうしてだ。
だけど、どう覇気を溢れさせても、いい人はいない。
……いないものはいないのです、母よ。

「お母さん。あのね……」

私が面倒臭いなぁと思いつつ説明しようとした時、突然母が病室の扉に目を向けた。

「ハッ!!……妖気を感じる……」

「は……?」

「生臭い……これは、水の者。三匹か……」

母は眼光鋭く扉を睨み拳を握った。

「お母さん?ええと、何?扉?誰かいるの?」

私はカーテンを開け、母の「待って!」という声を背に扉を開けた。

……するとそこには、小さく座った(気がするだけの)一之丞達が団子状態になって聞き耳を立てていた。

「あっ!」

「えっ?」

「きゃっ!」

扉がいきなり開いたことに驚き、彼らは短く叫んだ。
妖気……生臭い……水の者……。
ああ、そうか。母が感じ取ったのは、カッパの妖気だったのか。
でも妖気を感じとるなんて、うちの母親ってほんと何者なんだろう。

「何してるのよ……」

私は怒気を孕んで言った。

「うっ、うむ。あの。すまぬ」

「すまぬじゃわかんない!待ってるって言ったでしょうが!」

「すまぬっ……」

一之丞は大きな体を屈めて頭を垂れた。
その様子を見て、次郎太と三左が兄を助けようと身を乗り出した。

「サユリさん!聞いて。待ってるって言ったけど、やっぱり一度挨拶をした方がいいんじゃないか、って話になってね?」

「そうなんだよぅ。一応置いてもらってるんだから、お礼をって兄さまが……」

必死で訴える兄弟の後ろで、一之丞は黙ったまま口を真一文字に結んでいる。

「そうだったの。一之丞、それ、先に言えばいいのに……」

「……いや、約束を違えたことは間違いないのでな……言い訳するのもどうかと思って……」

相変わらずクソ真面目な。
でも、一之丞のこういう真っ直ぐなところは嫌いじゃない。
むしろ好きかもしれない。

「ちょっとー?サユリ?」

病室から母が尋ね、私は今の状況をどう説明しようか悩んだ。
これ、ちょっと困ったことになっているわよね?

「は、はぁい」

一応返事を返しておく。
すると、母が鋭く切り返してきた。

「ねぇ……ひょっとして、その妖気の持ち主と知り合いかしら?」

なんと答えればいいのか。
知り合いなのだろうか?
居候……カッパの居候?
どう答えても、母が混乱するのは間違いない気がする。

「サユリ?……連れてきて」

「へ?」

「その水の者。どうも敵意は無さそうだし」

なんでわかるの!?
怪訝な顔をした私の後ろでは、一之丞達が立ち上がり、スッと姿勢を正していた。
それを見て、私はカーテンを開けた。
母は身構えることもなく、真っ直ぐ私の背後の3人を見つめた。
視線はまず三左、そして次郎太へ。
そして一之丞へと目を向けたその時、母は一言呟いた。

「え?ダビデ?」

と。

























しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

処理中です...