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第二章 めたもるふぉーぜ!
③というわけだ
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輝いていた時間はだいたい1分ほど。
顔を伏せていたのにも関わらず、どうしてそれがわかったかというと、不思議と光は体でも感じることが出来たからだ。
輝いている間は、ほんのりと暖かい感じがしていた。
暖かみが薄れて目を開けてみると……あーら、不思議、そこには三匹のカッパがおりましたとさ。
「というわけだ」
右隣でやけに落ち着いた一之丞が言った。
というわけだ、と言われても。
肝心のメタモルフォーゼを私は見てない。
きゅうり食べて光ってカッパに戻っただけじゃない!
決定的なシーンを見逃した私は少し不機嫌だ。
次があるかどうかはわからないけど、サングラスは携帯しておくべきだと固く心に誓った。
「またコンパクトになってしまったな」
次郎太はそう言うと、小さくなった体に纏わりついているジャージを脱ぎ、ファサッと投げ捨てた。
「だねぇ。(僕)可愛かったのに。でも、この姿じゃないと秘密基地で寝れないしね」
三左は引きずるくらいのバスラップをたくしあげ、少し残念そうな顔をしている。
一之丞は次郎太の脱いだジャージを拾い上げて畳み、自分の分も脱いで畳んでいた。
仕方ないやつだ、と次郎太を軽く睨んでいたけど、その様子が少し嬉しそうなのを見て私は問いかけた。
「一之丞はカッパの方が嬉しいの?」
「えっ?……もちろんだ。我らはカッパだぞ?この姿の方がいいに決まっている」
ポンとお腹を叩き一之丞は答えた。
「ふぅん。私は海運……さっきの姿も好きだなぁ」
ギリシャの海運王、またはダビデ像のように人類として完璧なフォルム。
ずっとあれが近くにいると緊張するけど、たまに目の保養に鑑賞したい。
そんなワガママなことを考えながら、ふと言った一言に、何故か一之丞は過敏に反応した。
「好き……なのであるか?あれが?」
「え?うん。格好良かったよ?イケメ……イケッパじゃない?」
「な……」
一之丞はポカーンと口を開けた。
すると、後ろでニヤニヤしていた次郎太が近付いてきて一之丞に囁いた。
「な?俺が言ったじゃないか。人型もイケてるって」
「ちょっとぉー!僕もそう思ってたんだからー」
三左もそれに加勢した。
「いや、そんなはずはなかろう!我ら由緒正しきカッパの一族。人型など邪道……」
「兄者は頭が固い。もうそんな時代じゃないと思うよ?こんなに人間が増えたんだから、俺たちも考えを変えないと……」
珍しく次郎太が一之丞に説教をしている?
こんなこともあるんだなー、と呑気に見ていた私は、突然一之丞が叫び出したのに驚き飛び上がった。
「いや!違う!カッパが一番なのだ!人型などっ……」
叫んだ一之丞は、踵を返しそのまま早足で一階へ降りていった。
取り残された次郎太と三左はやれやれといった表情でダイニングテーブルに座り直した。
どうしたもんだろう。
ここは理由を聞くべき?
それとも放っておくべき?
これは彼らの問題だし、私が口を出していいのかどうかわからない。
「兄者にも困ったもんだな」
「そうだねぇ。まぁ気持ちはわかるけど……」
「何か、あるの?」
結局口を挟んでしまった私を、二匹は振り返る。
そして、手招きをする三左の隣に座った。
「僕ら妖怪って純血主義なんだ」
「純血主義?」
「血が混ざってないこと。違う種族同士で結婚、婚姻したりすると血が混ざるって言われてる。そうやって産まれた《混ざりもの》は、妖怪の中で馬鹿にされるんだよね」
混ざりもの……次郎太がさっき言ってたことだ。
一之丞は確かにそれに反応してた。
「ハーフはあまりよろしくないってこと?」
「妖怪の世界ではね。僕や次郎兄はこんな性格だからさ。そんなに気にしてないんだけどね……」
次郎太と三左は顔を見合わせて肩を竦めた。
「あー、一之丞は真面目だからね」
妙に納得してしまった。
真面目にクソがつくくらいの一之丞は、その辺にプライドがありそう。
頑なにカッパ至上主義に走るのも、劣等感の裏返しか。
「ねぇ、サユリちゃん、兄さまを宥めて来てよ」
三左が私にすり寄り、可愛らしく懇願した。
「ええっ!?何で私が?これ、カッパの問題でしょう?」
「だってー、兄さま、サユリちゃんに甘えてたし、今朝だっていっしょに寝てたじゃーん」
「いや。それとこれとは全く関係ないよね?」
そうよ、めんどくさいカッパのご機嫌取りなんてごめんだわ。
断固拒否の姿勢を貫こう!と口を開いた瞬間、三左が不敵に笑った。
「サユリちゃんは、兄さまみたいな顔の人が好きなんだよね?僕知ってるよ?」
「へ?……なんで?」
間抜けな私の声を聞き、三左は甲羅の中から一冊の本を取り出した。
それは、なんと愛読書中の愛読書。
《愛は銀の波に乗って》だった。
「三左!?どうしてこれ持ってるの!?」
「昨日秘密基地を片づけてるとき見つけたんだー。今日暇だったから読んでたんだけど、これに出てくるギリシャっていう国の海運王って、兄さまに似てるよね?」
と言いながら、三左は挿し絵を見せてきた。
そこにはヒロイン、ナタリーと海運王イグナティオスの出会いのシーンが描かれている。
「銀髪黒目。彫りが深くて意志が強そう……いや、融通きかなくてめんどくさそうな男。見かけも中身も兄さまそっくりじゃない?」
う……。
反論出来ない。
ロマンス小説なんて他にもいっぱい置いてあったはずなのにどうしてそれを読んだのよ!!
ワナワナと震える私は、それでも否定しようと言葉を振り絞った。
「に、似てるだけで、好きだなんて決めないでよねっ!」
「だーってさぁ?他の本に比べて、この《愛は銀の波に乗って》だけヨレヨレだもん。それだけ繰り返し読んでるってことじゃない?」
ーーーーー仰る通りです。
あまりにも好きすぎて繰り返し読んでボロボロになった。
そして実はこれ……3冊目だったりする。
私が何も言えなくなったのを見て、三左はピョコンと私の膝に移動し、可愛らしくお願いした。
「お願い、サユリちゃん。人型も素晴らしいよって兄さまに教えてあげて?」
「……はぁー。一応話はするけど。あんまり期待しないでよ?」
一体どうしてこうなったんだかわからない。
でもまぁ、縁あって関わってしまったんだから仕方ないか。
諦めた私は、三左を床に下ろして、一階へと一之丞を探しに向かった。
顔を伏せていたのにも関わらず、どうしてそれがわかったかというと、不思議と光は体でも感じることが出来たからだ。
輝いている間は、ほんのりと暖かい感じがしていた。
暖かみが薄れて目を開けてみると……あーら、不思議、そこには三匹のカッパがおりましたとさ。
「というわけだ」
右隣でやけに落ち着いた一之丞が言った。
というわけだ、と言われても。
肝心のメタモルフォーゼを私は見てない。
きゅうり食べて光ってカッパに戻っただけじゃない!
決定的なシーンを見逃した私は少し不機嫌だ。
次があるかどうかはわからないけど、サングラスは携帯しておくべきだと固く心に誓った。
「またコンパクトになってしまったな」
次郎太はそう言うと、小さくなった体に纏わりついているジャージを脱ぎ、ファサッと投げ捨てた。
「だねぇ。(僕)可愛かったのに。でも、この姿じゃないと秘密基地で寝れないしね」
三左は引きずるくらいのバスラップをたくしあげ、少し残念そうな顔をしている。
一之丞は次郎太の脱いだジャージを拾い上げて畳み、自分の分も脱いで畳んでいた。
仕方ないやつだ、と次郎太を軽く睨んでいたけど、その様子が少し嬉しそうなのを見て私は問いかけた。
「一之丞はカッパの方が嬉しいの?」
「えっ?……もちろんだ。我らはカッパだぞ?この姿の方がいいに決まっている」
ポンとお腹を叩き一之丞は答えた。
「ふぅん。私は海運……さっきの姿も好きだなぁ」
ギリシャの海運王、またはダビデ像のように人類として完璧なフォルム。
ずっとあれが近くにいると緊張するけど、たまに目の保養に鑑賞したい。
そんなワガママなことを考えながら、ふと言った一言に、何故か一之丞は過敏に反応した。
「好き……なのであるか?あれが?」
「え?うん。格好良かったよ?イケメ……イケッパじゃない?」
「な……」
一之丞はポカーンと口を開けた。
すると、後ろでニヤニヤしていた次郎太が近付いてきて一之丞に囁いた。
「な?俺が言ったじゃないか。人型もイケてるって」
「ちょっとぉー!僕もそう思ってたんだからー」
三左もそれに加勢した。
「いや、そんなはずはなかろう!我ら由緒正しきカッパの一族。人型など邪道……」
「兄者は頭が固い。もうそんな時代じゃないと思うよ?こんなに人間が増えたんだから、俺たちも考えを変えないと……」
珍しく次郎太が一之丞に説教をしている?
こんなこともあるんだなー、と呑気に見ていた私は、突然一之丞が叫び出したのに驚き飛び上がった。
「いや!違う!カッパが一番なのだ!人型などっ……」
叫んだ一之丞は、踵を返しそのまま早足で一階へ降りていった。
取り残された次郎太と三左はやれやれといった表情でダイニングテーブルに座り直した。
どうしたもんだろう。
ここは理由を聞くべき?
それとも放っておくべき?
これは彼らの問題だし、私が口を出していいのかどうかわからない。
「兄者にも困ったもんだな」
「そうだねぇ。まぁ気持ちはわかるけど……」
「何か、あるの?」
結局口を挟んでしまった私を、二匹は振り返る。
そして、手招きをする三左の隣に座った。
「僕ら妖怪って純血主義なんだ」
「純血主義?」
「血が混ざってないこと。違う種族同士で結婚、婚姻したりすると血が混ざるって言われてる。そうやって産まれた《混ざりもの》は、妖怪の中で馬鹿にされるんだよね」
混ざりもの……次郎太がさっき言ってたことだ。
一之丞は確かにそれに反応してた。
「ハーフはあまりよろしくないってこと?」
「妖怪の世界ではね。僕や次郎兄はこんな性格だからさ。そんなに気にしてないんだけどね……」
次郎太と三左は顔を見合わせて肩を竦めた。
「あー、一之丞は真面目だからね」
妙に納得してしまった。
真面目にクソがつくくらいの一之丞は、その辺にプライドがありそう。
頑なにカッパ至上主義に走るのも、劣等感の裏返しか。
「ねぇ、サユリちゃん、兄さまを宥めて来てよ」
三左が私にすり寄り、可愛らしく懇願した。
「ええっ!?何で私が?これ、カッパの問題でしょう?」
「だってー、兄さま、サユリちゃんに甘えてたし、今朝だっていっしょに寝てたじゃーん」
「いや。それとこれとは全く関係ないよね?」
そうよ、めんどくさいカッパのご機嫌取りなんてごめんだわ。
断固拒否の姿勢を貫こう!と口を開いた瞬間、三左が不敵に笑った。
「サユリちゃんは、兄さまみたいな顔の人が好きなんだよね?僕知ってるよ?」
「へ?……なんで?」
間抜けな私の声を聞き、三左は甲羅の中から一冊の本を取り出した。
それは、なんと愛読書中の愛読書。
《愛は銀の波に乗って》だった。
「三左!?どうしてこれ持ってるの!?」
「昨日秘密基地を片づけてるとき見つけたんだー。今日暇だったから読んでたんだけど、これに出てくるギリシャっていう国の海運王って、兄さまに似てるよね?」
と言いながら、三左は挿し絵を見せてきた。
そこにはヒロイン、ナタリーと海運王イグナティオスの出会いのシーンが描かれている。
「銀髪黒目。彫りが深くて意志が強そう……いや、融通きかなくてめんどくさそうな男。見かけも中身も兄さまそっくりじゃない?」
う……。
反論出来ない。
ロマンス小説なんて他にもいっぱい置いてあったはずなのにどうしてそれを読んだのよ!!
ワナワナと震える私は、それでも否定しようと言葉を振り絞った。
「に、似てるだけで、好きだなんて決めないでよねっ!」
「だーってさぁ?他の本に比べて、この《愛は銀の波に乗って》だけヨレヨレだもん。それだけ繰り返し読んでるってことじゃない?」
ーーーーー仰る通りです。
あまりにも好きすぎて繰り返し読んでボロボロになった。
そして実はこれ……3冊目だったりする。
私が何も言えなくなったのを見て、三左はピョコンと私の膝に移動し、可愛らしくお願いした。
「お願い、サユリちゃん。人型も素晴らしいよって兄さまに教えてあげて?」
「……はぁー。一応話はするけど。あんまり期待しないでよ?」
一体どうしてこうなったんだかわからない。
でもまぁ、縁あって関わってしまったんだから仕方ないか。
諦めた私は、三左を床に下ろして、一階へと一之丞を探しに向かった。
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