純喫茶カッパーロ

藤 実花

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第一章 未知との遭遇

⑭どういうイリュージョンよ?

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「どういうイリュージョンよ?」

取りあえずお風呂の扉を閉め、私は三匹に尋ねた。

「話せば長くなるが……」

お風呂で無駄に掛かるエコーの為に、一之丞のバリトンボイスがとてもエロく聞こえる……。
そして、さっきの精悍な銀髪イケメン海運王が目の前にちらつき、私の思考を乱す。
ダメ!しっかりして私!あれはカッパよ!
緑の水掻きと皿と甲羅を持った妖怪よ!
ギリシャの海運王じゃないんだからー!

「……み、短くお願い」

漸くそれだけを返すと、中から三左の陽気な声が聞こえた。

「お湯が皿にかかるとね、僕たち人間になるんだよー」

「な、何で!?」

「うーんとねー、おかーさんが人間だったから?」

「え……」

三左の答えは簡潔で分かりやすかったけど、全く理解できなかった。
これは、ちゃんと話を聞いた方がいいかもしれない。
一之丞の話は長そうだけど、彼に聞くのが一番いいような気がする。

「わかった。お風呂から出たらゆっくり話そうか……」

「うむ。そうしてもらえるとありがたい!……あと、申し訳ないが我らが着れそうなものはないか?」

「あっ!そうね、わかった、探しとく!」

今人間だから着るものがないと大変なことになるよね。
銀髪イケメン達の真っ裸なんて、そんな……そ……。
風呂場での光景を思い出し、カーッと顔が熱くなった。
一応29歳の健全な女であるが、残念ながら彼氏というものがいたことがなく、当然免疫もない。
それなのに、あんな見目麗しい全裸がいきなり目に飛び込んで来るんだから混乱しても仕方ないよね……。
彫刻のダビデ像も真っ青な均整のとれた体型が、まだ瞼の裏に焼き付いているようだ……。

私は赤い顔のまま、父母の部屋に移動した。
確か、父の服が残っていたはず……。
でも、典型的な日本人である父の服を果たしてダビデが着れるのか?
地味な紺のポロシャツとベージュの綿パンをはくダビデ……。
想像するとそれはかなり笑えた。
うん、ポロシャツはやめとこう、綿パンも……。
私は仕方なくタンスの奥から大きめのジャージの上下と、白いTシャツを適当に出し、急いで脱衣所に放り込んだ。

そして、待つこと20分。

脱衣所に出てきた気配を感じとり、台所から耳をすませると、三左の金切り声が聞こえた。

「いやぁーー!!何これっ……」

慌てて脱衣所前に移動し扉を叩いた。

「どうしたの!?」

「サユリちゃん、この服、ダサい」

ダサ……い?
ジャージにダサいとかある?
普通でしょ?
脱衣所の中では、失礼な三左を一之丞が叱っている。

「愚か者っ!折角用意してくれたのに、なんと言うことを!」

「そうだぞ、三左。いきなりのことでサユリさんも間に合わなかったんだよ」

珍しく次郎太が一之丞を擁護している。

「えぇーー僕、サユリちゃんみたいなちゃんとした寝間着がいい。色はねぇー可愛いピンクのやつ!」

「……私の寝間着?パジャマ?……着れるの?」

脱衣所の扉に向かって問いかけた。

「着れるよぅ!僕細身なんだよ?何なら見る?」

「い、いやいや、結構。じゃあ私のパジャマ持ってくるけど……ピンク?」

「うんっ!ピンクー」

こらっ!と窘める一之丞の声を聞きながら、私は渋々部屋へ行き、パジャマを物色した。
ピンク……だと?
自慢じゃないけど、そういう可愛い色は買わないし、着ない。
どこを探してもないのはわかっていたので、似たような色を持っていこうと考えていたら、タンスの奥深く、タオル地のバスラップを見つけた。
薄いピンク色で長さは膝丈ほど。
タオルで出来たキャミソールのようなものだ。
古い記憶を辿ってみると、高校の時、店に来るタオル会社の専務さんに貰ったことを思い出した。
趣味に合わなかったから、タンスの肥やしになったんだっけ……。
私はそれを手に取り、脱衣所に向かった。

「三左ー?これでいい?」

と、少しだけ隙間を開けて差し入れる。

「……ひゃう!これ、可愛いい!ありがと、サユリちゃん!!」

三左は変な悲鳴の後、嬉しそうにお礼を言った。

「いーえ。どういたしまして……早く出てきてね……」

「はーい!」

ああ……なんかもう疲れた。
でも、これからまだ長い話が待っているのだ。
私は冷蔵庫を開けビールを取り出すと、プシュといい音をさせた。
そして、ゴクッと一口飲んでプハーと息をはき、これから聞くであろうカッパ達の身の上話?に備えたのである。





































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