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第一章 未知との遭遇
⑫水流清廉の刑
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「きゃあっ……」
小さい悲鳴と共に舞う白い粉。
砂糖やお塩、その他備品を入れていた棚に私は後頭部から突っ込んだ。
くっついていた次郎太と三左も一蓮托生。
見事に白い粉を被り上半身が白、下半身が緑の新しい妖怪が誕生している。
「あーーー!もう!どうしてくれるんだ、三左!俺の美しい姿が粉まみれだぞ!」
「なんだよぅ!僕のせい?次郎兄が後から登って来るからじゃん?」
次郎太と三左はさっと降りると、お互いに因縁をつけ始めた。
私に言わせれば、どっちもどっちだ、コラ!というのが正直な感想である。
でもまず、この粉を被った状態を何とかしなければ明日の営業に差し支えるし、体も気持ち悪い。
まず床に散らかった粉を拭くのが先かな?
私は、掴み合いのケンカをしそうな2匹を放っておき、雑巾を取ろうと屈んだ。
するとそのすぐ近くで、怒りをはらんだバリトンボイスが響き渡った。
「いい加減にせんかっ!!この阿呆どもが!」
その声に、次郎太と三左がぶるるっと震え、私も雑巾を落とした。
バリトンボイス……これは確かに一之丞の声だけど、いつもの落ち着いた声と違って、緊縛するような呪文のように聞こえる。
「私に粗相をするのは一向に構わぬが、サユリ殿と店に迷惑をかけるのは許しがたし!!」
一之丞は床からゆっくりと起き上がり、ギロッと次郎太と三左を睨む。
その姿からは、怒りのあまり黒い靄が出ている。
とても迫力があって怖いし、本人もお怒りなんだろうけど、前面が緑、後ろが白という妙なツートンカラーになっていて、私は笑いを堪えるのが大変だ。
「あっあっあっ、兄者……」
「あ、兄さま……あの、あのね?」
口を押さえて笑いを堪える私の前では、次郎太と三左が一之丞に必死で言い訳を探している。
でも、ブチキレた長兄は問答無用でジリジリと2匹に近づいていた。
「許すまじ。次郎太、三左。お前達を、水流清廉の刑に処す」
「ひぃーーーー」
「いやぁーーー」
次郎太と三左はムンクのように叫んだ。
すいりゅうせいれんの刑?
なんだろう、そんなに恐ろしい罰なのかな。
全く想像がつかず首を捻っていると、一之丞が突然こちらを向いた。
「サユリ殿、洗濯機をお借りしたい!」
「ーーーーは?」
「洗濯機をお借りしたいっ!」
「洗濯機を……何に使うつもり?」
怒りの一之丞に恐る恐る尋ねてみた。
「洗濯機にブチ込み、性根を叩き直してくれる!」
「何でやねん!!」
使ったこともない関西弁が突如出てくるくらい、私は驚愕していた!
妖術でも使うのかと思っていたら、まさか現代文明を活用するなんて。
妖怪なら水の柱をどーんと天に向かって放つとかそういうの出来そうなものだけど。
私の叫びに、一之丞はえっ?という顔をした。
「ひょっとして、洗濯機が……ない?のであるか?」
「失礼な……あるよ!でもそういう問題じゃないのっ!あってもなくても使わせないよ!危ないし!」
違う。
本当はカッパをぶち込んで、洗濯機が壊れるのが嫌だった。
今、喫茶店を始めたばかりの時に、余計な出費はしたくない。
悪いけど、次郎太や三左の体よりも洗濯機の方が大事なの。
「そうか。ならば仕方ない。今度は雷電放出の刑で……」
「それは、それだけはやめてくれー!」
「兄さま……ごめんごめんよぅ!!」
次郎太と三左は狂ったようにのたうち回る。
その影響で粉がいろんな所に飛び散って辺りは更に大変なことになっていた。
私はこれ以上被害が広がらないように、2匹を両脇に抱えると一之丞に言った。
「それ、電子レンジにぶち込む気でしょう?却下です」
こんなもの入れたら確実に壊れる……いや、そもそも入らない。
もう!カッパのお仕置きに、人んちの家電を巻き込まないで欲しいわ!
「ぐぅ……な、ならばならば……」
一之丞は諦めない。
全く埒があかないので、私は遮って言った。
「はい!一旦終わり!怒るのは後にして、今はこの場と粉まみれの体をどうにかしましょう!」
「サユリ殿……うむ。仕方あるまい。仕置きは後だ。次郎太、三左、ここを片付けるぞ!働け!」
「イエッサー!」
「アイアイサー!」
2匹はピョンと私の両脇から飛び出て、一之丞に敬礼をした。
そして、これ以上怒りを買わない為に、一心不乱に働いた。
どこからか出してきた手拭いでサッと体を拭くと、次郎太が厨房を箒で掃き三左がカウンターを布巾で拭く。
やれば出来るじゃんと、思いつつ私も砂糖の入ったキャニスターを丁寧に拭いた。
一之丞は鬼のような顔をして、次郎太と三左の尻を叩いている。
まさに「鬼軍曹」というのがピッタリだった。
小さい悲鳴と共に舞う白い粉。
砂糖やお塩、その他備品を入れていた棚に私は後頭部から突っ込んだ。
くっついていた次郎太と三左も一蓮托生。
見事に白い粉を被り上半身が白、下半身が緑の新しい妖怪が誕生している。
「あーーー!もう!どうしてくれるんだ、三左!俺の美しい姿が粉まみれだぞ!」
「なんだよぅ!僕のせい?次郎兄が後から登って来るからじゃん?」
次郎太と三左はさっと降りると、お互いに因縁をつけ始めた。
私に言わせれば、どっちもどっちだ、コラ!というのが正直な感想である。
でもまず、この粉を被った状態を何とかしなければ明日の営業に差し支えるし、体も気持ち悪い。
まず床に散らかった粉を拭くのが先かな?
私は、掴み合いのケンカをしそうな2匹を放っておき、雑巾を取ろうと屈んだ。
するとそのすぐ近くで、怒りをはらんだバリトンボイスが響き渡った。
「いい加減にせんかっ!!この阿呆どもが!」
その声に、次郎太と三左がぶるるっと震え、私も雑巾を落とした。
バリトンボイス……これは確かに一之丞の声だけど、いつもの落ち着いた声と違って、緊縛するような呪文のように聞こえる。
「私に粗相をするのは一向に構わぬが、サユリ殿と店に迷惑をかけるのは許しがたし!!」
一之丞は床からゆっくりと起き上がり、ギロッと次郎太と三左を睨む。
その姿からは、怒りのあまり黒い靄が出ている。
とても迫力があって怖いし、本人もお怒りなんだろうけど、前面が緑、後ろが白という妙なツートンカラーになっていて、私は笑いを堪えるのが大変だ。
「あっあっあっ、兄者……」
「あ、兄さま……あの、あのね?」
口を押さえて笑いを堪える私の前では、次郎太と三左が一之丞に必死で言い訳を探している。
でも、ブチキレた長兄は問答無用でジリジリと2匹に近づいていた。
「許すまじ。次郎太、三左。お前達を、水流清廉の刑に処す」
「ひぃーーーー」
「いやぁーーー」
次郎太と三左はムンクのように叫んだ。
すいりゅうせいれんの刑?
なんだろう、そんなに恐ろしい罰なのかな。
全く想像がつかず首を捻っていると、一之丞が突然こちらを向いた。
「サユリ殿、洗濯機をお借りしたい!」
「ーーーーは?」
「洗濯機をお借りしたいっ!」
「洗濯機を……何に使うつもり?」
怒りの一之丞に恐る恐る尋ねてみた。
「洗濯機にブチ込み、性根を叩き直してくれる!」
「何でやねん!!」
使ったこともない関西弁が突如出てくるくらい、私は驚愕していた!
妖術でも使うのかと思っていたら、まさか現代文明を活用するなんて。
妖怪なら水の柱をどーんと天に向かって放つとかそういうの出来そうなものだけど。
私の叫びに、一之丞はえっ?という顔をした。
「ひょっとして、洗濯機が……ない?のであるか?」
「失礼な……あるよ!でもそういう問題じゃないのっ!あってもなくても使わせないよ!危ないし!」
違う。
本当はカッパをぶち込んで、洗濯機が壊れるのが嫌だった。
今、喫茶店を始めたばかりの時に、余計な出費はしたくない。
悪いけど、次郎太や三左の体よりも洗濯機の方が大事なの。
「そうか。ならば仕方ない。今度は雷電放出の刑で……」
「それは、それだけはやめてくれー!」
「兄さま……ごめんごめんよぅ!!」
次郎太と三左は狂ったようにのたうち回る。
その影響で粉がいろんな所に飛び散って辺りは更に大変なことになっていた。
私はこれ以上被害が広がらないように、2匹を両脇に抱えると一之丞に言った。
「それ、電子レンジにぶち込む気でしょう?却下です」
こんなもの入れたら確実に壊れる……いや、そもそも入らない。
もう!カッパのお仕置きに、人んちの家電を巻き込まないで欲しいわ!
「ぐぅ……な、ならばならば……」
一之丞は諦めない。
全く埒があかないので、私は遮って言った。
「はい!一旦終わり!怒るのは後にして、今はこの場と粉まみれの体をどうにかしましょう!」
「サユリ殿……うむ。仕方あるまい。仕置きは後だ。次郎太、三左、ここを片付けるぞ!働け!」
「イエッサー!」
「アイアイサー!」
2匹はピョンと私の両脇から飛び出て、一之丞に敬礼をした。
そして、これ以上怒りを買わない為に、一心不乱に働いた。
どこからか出してきた手拭いでサッと体を拭くと、次郎太が厨房を箒で掃き三左がカウンターを布巾で拭く。
やれば出来るじゃんと、思いつつ私も砂糖の入ったキャニスターを丁寧に拭いた。
一之丞は鬼のような顔をして、次郎太と三左の尻を叩いている。
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