4 / 120
第一章 未知との遭遇
④ファスナーがない!
しおりを挟む
「あっ!えっと、ごめん!」
気付くと、私は一之丞の体を撫で回していた。
モチモチヒヤヒヤツルツル。
この手触りは癖になる!
とはいえ、子供相手にこれは駄目だわ。
児童なんとか法に触れたらいけないので、私は急いで一之丞を椅子に乗せ、後の2匹も続けて乗せた。
「ええと。オレンジジュースでいい?ケーキも食べるよね?」
気を取り直した私は、3匹に話しかけた。
すると右端に座った三左が嬉しそうに返事をする。
「うわーい、ケーキ、ケーキ!!僕ケーキ初めてー!」
な、何ですって!?
ケーキが初めてってどう言うこと?
誕生日とかに食べないの!?
愕然として三左を見つめていると、隣の次郎太が言った。
「三左、恥ずかしいぞ?ケーキごときで……で、ケーキとはなんだ?」
「ケーキ……食べるか?と聞かれたのだ。食べるものに決まっている」
一之丞が次郎太の問いに答えた。
そのやり取りを聞きながら、私は彼らの背景について勝手に考えた。
常連さん達のお孫さんかと思ったけど、その線はないかもしれない。
これでもか!と孫自慢をする常連さん達が可愛い孫にケーキの一つも与えてないなんてあり得ない。
もしそうだとしたら、経済的に……困窮した……はっ!そうか!
そして私の妄想は暴走した。
彼らはどこかの養護施設から逃げてきたんだ。
それはかなり劣悪な環境で、着るものも与えられず、あるのはカッパの着ぐるみだけ。
食べ物もロクに貰えず、ケーキなんて誕生日にすら食べられない。
そしてついに、彼らは逃げることにしたのだ。
その時の私の頭の中は、養護施設の鬼園長に対する怒りで一杯で、石原仁左衛門の件はスッポリと抜けていた。
「ううっ……なんてこと……」
「サユリ殿?」
「サユリさん?」
「サユリちゃん?」
目の前の3匹が首を傾げた。
その純真無垢な様子に、私の涙腺は崩壊し、持っていたオレンジジュースは大きく揺れた。
「大丈夫だから。大丈夫だからね!さ、ケーキ食べて!オレンジジュースもね!」
震える声で言いながら、さっとカウンターに3つ、ケーキとオレンジジュースを用意した。
「かたじけない。突然やって来たのに嫌な顔一つせず、このような歓迎を……」
一之丞はカウンターの上に両手を乗せ、ぎゅっと拳を握ると、小さな体をぷるぷると震わせた。
「いいのよ!事情はおいおい聞くから!今は食べて?」
「……すまん。さ、皆、頂こう!」
一之丞は次郎太と三左を見ると軽く頷いた。
「あ。待って?そのままじゃ食べにくくない?頭だけでも取ったら?」
いくらなんでも着ぐるみを着たままでは食べづらい。
そう思って言ったのに、3匹は驚愕の表情を浮かべた。
「待て……人とは……物を食べるとき、頭を取るのか?いつの間にそのような進化をしたのだ?ひょっとして、サユリ殿も頭を取るのか?」
一之丞は持っていたフォークを握り締めたまま問いかける。
「頭?いや、とらないけど。ていうかとれないけど?」
一体何を言い始めた?
さっさと頭を取って食べればいいのに。
訝しげに見る私の前で、彼らは目をパチクリとさせている。
「ほら、もういいから。あなた達、被ってるそのカッパの頭、取って」
そう言いながらカウンターの後ろに回り込み、一之丞の頭に手をかけ思いっきり上に引っ張った。
「ぎぃぇぇーー」
一之丞はバリトンボイスで叫ぶ。
「うわぁー兄者ーー!」
「いやぁ!兄さまぁーー」
そして、次郎太は吠え、三左は叫んだ。
「あれ?取れないなぁ……」
私は呟いた。
あ、そうか。きっと、一体型になっていて体の方にファスナーがあるんだ。
そう思い、背中にあるはずのファスナーを探す。
「ええっと。ここかな?ん?ここ?あれ?」
「ウヒャ……ちょっと……ヒャ……サユリ殿……ちょ……」
一之丞は変な声を出しながら体をクネクネさせ始めた。
意地になってファスナーを探していた私は、やがてそれが存在しないことに気付いた。
「ないわ。ファスナー……」
「ファスナーって何だ?」
呆然と私の奇行を見つめていた次郎太がポツリと言った。
「カッパの着ぐるみを着脱する為の……」
そこまで言って口をつぐむ。
私の目は次郎太の隣でケーキを頬張っていた三左に釘付けになった。
器用にフォークを使い、ケーキを刺して口に放り込む。
その口の中は、着ぐるみにはあり得ないほどリアルだったのである。
「嘘……カッパ?」
着ぐるみじゃない!?これ本物!?
「……だから、初めに……名乗ったではないか……」
一之丞が肩で息をしながら、こちらを睨む。
「は?名乗っただけでわかるわけないでしょうが!?」
「わかるであろう!契約書があるのだぞ?それに書いているのだが?」
契約書……?
それはまさか、石原仁左衛門が大昔カッパと取り交わしたという眉唾モノのあれかな?
「いや、そんなの伝説でしょう?何百年も前の……」
「文政2年のことだぞ。ほんの200年前ではないか」
200年前……えーと、何時代?既にわからないんですけど?
「全く……人間はすぐに代替わりをするからな。ほら、これだ。こちらは我らが持つ《写し》の方だ。見ると良い」
一之丞はどこからかふわりと緑の巻物を取り出すと、それを広げて私の前に掲げた。
ーーーー読めない。
達筆すぎて、全く意味がわからない。
そもそも、これは、人間の文字なんだろうか?
カッパ文字とかじゃないの?
黙り込んだ私の様子を見て、一之丞ははぁーーと長いため息をついた。
気付くと、私は一之丞の体を撫で回していた。
モチモチヒヤヒヤツルツル。
この手触りは癖になる!
とはいえ、子供相手にこれは駄目だわ。
児童なんとか法に触れたらいけないので、私は急いで一之丞を椅子に乗せ、後の2匹も続けて乗せた。
「ええと。オレンジジュースでいい?ケーキも食べるよね?」
気を取り直した私は、3匹に話しかけた。
すると右端に座った三左が嬉しそうに返事をする。
「うわーい、ケーキ、ケーキ!!僕ケーキ初めてー!」
な、何ですって!?
ケーキが初めてってどう言うこと?
誕生日とかに食べないの!?
愕然として三左を見つめていると、隣の次郎太が言った。
「三左、恥ずかしいぞ?ケーキごときで……で、ケーキとはなんだ?」
「ケーキ……食べるか?と聞かれたのだ。食べるものに決まっている」
一之丞が次郎太の問いに答えた。
そのやり取りを聞きながら、私は彼らの背景について勝手に考えた。
常連さん達のお孫さんかと思ったけど、その線はないかもしれない。
これでもか!と孫自慢をする常連さん達が可愛い孫にケーキの一つも与えてないなんてあり得ない。
もしそうだとしたら、経済的に……困窮した……はっ!そうか!
そして私の妄想は暴走した。
彼らはどこかの養護施設から逃げてきたんだ。
それはかなり劣悪な環境で、着るものも与えられず、あるのはカッパの着ぐるみだけ。
食べ物もロクに貰えず、ケーキなんて誕生日にすら食べられない。
そしてついに、彼らは逃げることにしたのだ。
その時の私の頭の中は、養護施設の鬼園長に対する怒りで一杯で、石原仁左衛門の件はスッポリと抜けていた。
「ううっ……なんてこと……」
「サユリ殿?」
「サユリさん?」
「サユリちゃん?」
目の前の3匹が首を傾げた。
その純真無垢な様子に、私の涙腺は崩壊し、持っていたオレンジジュースは大きく揺れた。
「大丈夫だから。大丈夫だからね!さ、ケーキ食べて!オレンジジュースもね!」
震える声で言いながら、さっとカウンターに3つ、ケーキとオレンジジュースを用意した。
「かたじけない。突然やって来たのに嫌な顔一つせず、このような歓迎を……」
一之丞はカウンターの上に両手を乗せ、ぎゅっと拳を握ると、小さな体をぷるぷると震わせた。
「いいのよ!事情はおいおい聞くから!今は食べて?」
「……すまん。さ、皆、頂こう!」
一之丞は次郎太と三左を見ると軽く頷いた。
「あ。待って?そのままじゃ食べにくくない?頭だけでも取ったら?」
いくらなんでも着ぐるみを着たままでは食べづらい。
そう思って言ったのに、3匹は驚愕の表情を浮かべた。
「待て……人とは……物を食べるとき、頭を取るのか?いつの間にそのような進化をしたのだ?ひょっとして、サユリ殿も頭を取るのか?」
一之丞は持っていたフォークを握り締めたまま問いかける。
「頭?いや、とらないけど。ていうかとれないけど?」
一体何を言い始めた?
さっさと頭を取って食べればいいのに。
訝しげに見る私の前で、彼らは目をパチクリとさせている。
「ほら、もういいから。あなた達、被ってるそのカッパの頭、取って」
そう言いながらカウンターの後ろに回り込み、一之丞の頭に手をかけ思いっきり上に引っ張った。
「ぎぃぇぇーー」
一之丞はバリトンボイスで叫ぶ。
「うわぁー兄者ーー!」
「いやぁ!兄さまぁーー」
そして、次郎太は吠え、三左は叫んだ。
「あれ?取れないなぁ……」
私は呟いた。
あ、そうか。きっと、一体型になっていて体の方にファスナーがあるんだ。
そう思い、背中にあるはずのファスナーを探す。
「ええっと。ここかな?ん?ここ?あれ?」
「ウヒャ……ちょっと……ヒャ……サユリ殿……ちょ……」
一之丞は変な声を出しながら体をクネクネさせ始めた。
意地になってファスナーを探していた私は、やがてそれが存在しないことに気付いた。
「ないわ。ファスナー……」
「ファスナーって何だ?」
呆然と私の奇行を見つめていた次郎太がポツリと言った。
「カッパの着ぐるみを着脱する為の……」
そこまで言って口をつぐむ。
私の目は次郎太の隣でケーキを頬張っていた三左に釘付けになった。
器用にフォークを使い、ケーキを刺して口に放り込む。
その口の中は、着ぐるみにはあり得ないほどリアルだったのである。
「嘘……カッパ?」
着ぐるみじゃない!?これ本物!?
「……だから、初めに……名乗ったではないか……」
一之丞が肩で息をしながら、こちらを睨む。
「は?名乗っただけでわかるわけないでしょうが!?」
「わかるであろう!契約書があるのだぞ?それに書いているのだが?」
契約書……?
それはまさか、石原仁左衛門が大昔カッパと取り交わしたという眉唾モノのあれかな?
「いや、そんなの伝説でしょう?何百年も前の……」
「文政2年のことだぞ。ほんの200年前ではないか」
200年前……えーと、何時代?既にわからないんですけど?
「全く……人間はすぐに代替わりをするからな。ほら、これだ。こちらは我らが持つ《写し》の方だ。見ると良い」
一之丞はどこからかふわりと緑の巻物を取り出すと、それを広げて私の前に掲げた。
ーーーー読めない。
達筆すぎて、全く意味がわからない。
そもそも、これは、人間の文字なんだろうか?
カッパ文字とかじゃないの?
黙り込んだ私の様子を見て、一之丞ははぁーーと長いため息をついた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる