少将閣下の花嫁は、ちょっと変わった天才少女

藤 実花

文字の大きさ
上 下
58 / 59
Extra Ausgabe

出産狂想曲⑧~元帥閣下ローラント

しおりを挟む
「ねぇ、ローラント」

「ん?」

「この子達の名前なんだけど……」

「あ、ああ。そうか……そうだな……どうするか……」

全然考えてなかった……。
動揺するオレの顔を見て、クリスタはクスクスと笑う。
きっと、それもお見通しだったんだろうな……。

「あのね。あなたが良ければ、兄はアーダルベルト、弟はアルフォンス……で、どうかしら?」

「アーダルベルト……」

呟いて腕の中の我が子を見た。
すると、彼は小さく「ふぇ」っと泣いた。

「それはいいな!兄はその名前が気に入ったようだぞ?弟はどうだ?」

と言いながら、クリスタの腕の中を見ると、そちらはくぅくぅと熟睡している。
その様子をオレは可笑しくなって笑った。
兄アーダルベルトは人当たりが良くて豪快な人気者だった。
弟アルフォンスは優しくて穏やかで、良くうたた寝をしていた。
産まれた兄弟は、小さいながらも彼らに良く似ていたのである。

「良く似ているでしょう?」

向かいの母が笑う。
ハインミュラー家を襲った度重なる不幸を背負って、必死で頑張ってきた母、ベアトリクス。
兄弟が戦死し、不甲斐ない自分オレしか残らなかったのに、ただの一度も不満を口にしなかったよな。
穏やかに微笑む母を見て、オレは……やっと今、恩返しが出来たと思った。

「ローラント?」

考え事をしていると、クリスタが首を傾げながら話しかけてきた。

「……あ、いや。なんでもない。なんでもないよ……」

「そう?あ、ジェシカさんにもお礼を言いたいわ!外にいるんでしょう?」

「ああ。いるよ」

オレは扉近くのイレーネに目配せした。
イレーネが扉を開けると、そこにはカメラ一式を抱えたジェシカが待ってましたとばかりにニンマリとしていた。
……おい、待てよ。確か、さっきまで良いこと言ってなかったか?
無事に産まれれば、スクープなんてどうでもいい!とかなんとか……。
あれはウソか!?
半ば呆れるオレを、フフンと見下しながら、ジェシカは颯爽とクリスタの元にやって来た。

「おめでとうございます!閣下、クリスタ嬢!ならびにハインミュラー家の皆々様!」

と、優雅に挨拶をする変態記者ジェシカ。

「ありがとう。ジェシカさん。フィーネを連れてきてくれて。そして、領民を助けてくれて。心から感謝します」

「クリスタ嬢。私は記者です。お礼は、スクープで頂いてもよろしくて?」

「おいっ!今はよせ!クリスタも疲れているだろうし」

遮るオレを、クリスタは笑って窘めた。

「ローラント、私は大丈夫。ジェシカさんに協力してもいいわ。だってね、今回それだけの働きはしてもらっているもの。御返しはしないとね?」

「……クリスタ……はぁ、まったく……」

「ふふっ、ごめんなさいね。さぁ、ジェシカさん。どのような構図がいいかしら?私とローラントと子供達?それとも……」

「全員よ?ここにいる全員!この素晴らしいハインミュラー領の一致団結した泣ける話を隅から隅まで特集させて頂くわ!」

特集……。
何があっても、ただでは起きん女だな。
そうでなくては国を動かすような流行はつくれないか。
オレは、呆れながらもジェシカ・ハーネスを眩しく思った。
……いや、違うな。
ジェシカだけじゃなく、ここにいる強く逞しい女性全員をだ。

「はい!じゃあ皆さんクリスタ嬢と閣下を中心に集まって下さる?ちょっとー、執事さん?外にいないで入ってらして!」

ジェシカは扉付近でまごついていたルドガーを手招きした。
あいつも、きっと入るきっかけが掴めなかったんだな……オレもそうだったからな、良くわかるぞ。

そうして、嬉しそうに走ってきたルドガーがガブリエラの後ろに立つと、その場にいる全員がそろ……あ。
オレの視線の先には、扉の隙間から寂しそうにこちらを見るブルクハルトの姿があった。
その目は泣きそうに潤んでいる。

「クリスタ……ブルクハルトが……」

「あらっ。そういえば忙しくて今日はほったらかしだったわ。おいでブルクハルト」

クリスタが呼ぶと、ブルクハルトは「グワーーー」と必死で走ってくる。
そして、ベッドにピョンと飛び乗るとちゃんと座ってカメラの方を見た。
……調教されすぎじゃないか?
生物学にまでその天才ぶりを発揮し始めたのかと、オレは隣の妻を見る。

「なぁに?」

「いや……」

ああ、その惚けた仕草も大好きだ。
クリスタは締まりのないオレの顔を見て、いつものようにふふふと笑う。

「では、皆さん!はい、目線こっちにねー!」

ジェシカの合図と共に、付属の閃光電球が焚かれ、ボンッと大きな音がした。
それに驚いたアーダルベルトとアルフォンスが泣き出すと、ハインミュラー邸の居間は、朗らかな笑いに包まれたのである。


















しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

処理中です...