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Extra Ausgabe
出産狂想曲⑧~元帥閣下ローラント
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「ねぇ、ローラント」
「ん?」
「この子達の名前なんだけど……」
「あ、ああ。そうか……そうだな……どうするか……」
全然考えてなかった……。
動揺するオレの顔を見て、クリスタはクスクスと笑う。
きっと、それもお見通しだったんだろうな……。
「あのね。あなたが良ければ、兄はアーダルベルト、弟はアルフォンス……で、どうかしら?」
「アーダルベルト……」
呟いて腕の中の我が子を見た。
すると、彼は小さく「ふぇ」っと泣いた。
「それはいいな!兄はその名前が気に入ったようだぞ?弟はどうだ?」
と言いながら、クリスタの腕の中を見ると、そちらはくぅくぅと熟睡している。
その様子をオレは可笑しくなって笑った。
兄アーダルベルトは人当たりが良くて豪快な人気者だった。
弟アルフォンスは優しくて穏やかで、良くうたた寝をしていた。
産まれた兄弟は、小さいながらも彼らに良く似ていたのである。
「良く似ているでしょう?」
向かいの母が笑う。
ハインミュラー家を襲った度重なる不幸を背負って、必死で頑張ってきた母、ベアトリクス。
兄弟が戦死し、不甲斐ない自分しか残らなかったのに、ただの一度も不満を口にしなかったよな。
穏やかに微笑む母を見て、オレは……やっと今、恩返しが出来たと思った。
「ローラント?」
考え事をしていると、クリスタが首を傾げながら話しかけてきた。
「……あ、いや。なんでもない。なんでもないよ……」
「そう?あ、ジェシカさんにもお礼を言いたいわ!外にいるんでしょう?」
「ああ。いるよ」
オレは扉近くのイレーネに目配せした。
イレーネが扉を開けると、そこにはカメラ一式を抱えたジェシカが待ってましたとばかりにニンマリとしていた。
……おい、待てよ。確か、さっきまで良いこと言ってなかったか?
無事に産まれれば、スクープなんてどうでもいい!とかなんとか……。
あれはウソか!?
半ば呆れるオレを、フフンと見下しながら、ジェシカは颯爽とクリスタの元にやって来た。
「おめでとうございます!閣下、クリスタ嬢!ならびにハインミュラー家の皆々様!」
と、優雅に挨拶をする変態記者ジェシカ。
「ありがとう。ジェシカさん。フィーネを連れてきてくれて。そして、領民を助けてくれて。心から感謝します」
「クリスタ嬢。私は記者です。お礼は、スクープで頂いてもよろしくて?」
「おいっ!今はよせ!クリスタも疲れているだろうし」
遮るオレを、クリスタは笑って窘めた。
「ローラント、私は大丈夫。ジェシカさんに協力してもいいわ。だってね、今回それだけの働きはしてもらっているもの。御返しはしないとね?」
「……クリスタ……はぁ、まったく……」
「ふふっ、ごめんなさいね。さぁ、ジェシカさん。どのような構図がいいかしら?私とローラントと子供達?それとも……」
「全員よ?ここにいる全員!この素晴らしいハインミュラー領の一致団結した泣ける話を隅から隅まで特集させて頂くわ!」
特集……。
何があっても、ただでは起きん女だな。
そうでなくては国を動かすような流行はつくれないか。
オレは、呆れながらもジェシカ・ハーネスを眩しく思った。
……いや、違うな。
ジェシカだけじゃなく、ここにいる強く逞しい女性全員をだ。
「はい!じゃあ皆さんクリスタ嬢と閣下を中心に集まって下さる?ちょっとー、執事さん?外にいないで入ってらして!」
ジェシカは扉付近でまごついていたルドガーを手招きした。
あいつも、きっと入るきっかけが掴めなかったんだな……オレもそうだったからな、良くわかるぞ。
そうして、嬉しそうに走ってきたルドガーがガブリエラの後ろに立つと、その場にいる全員がそろ……あ。
オレの視線の先には、扉の隙間から寂しそうにこちらを見るブルクハルトの姿があった。
その目は泣きそうに潤んでいる。
「クリスタ……ブルクハルトが……」
「あらっ。そういえば忙しくて今日はほったらかしだったわ。おいでブルクハルト」
クリスタが呼ぶと、ブルクハルトは「グワーーー」と必死で走ってくる。
そして、ベッドにピョンと飛び乗るとちゃんと座ってカメラの方を見た。
……調教されすぎじゃないか?
生物学にまでその天才ぶりを発揮し始めたのかと、オレは隣の妻を見る。
「なぁに?」
「いや……」
ああ、その惚けた仕草も大好きだ。
クリスタは締まりのないオレの顔を見て、いつものようにふふふと笑う。
「では、皆さん!はい、目線こっちにねー!」
ジェシカの合図と共に、付属の閃光電球が焚かれ、ボンッと大きな音がした。
それに驚いたアーダルベルトとアルフォンスが泣き出すと、ハインミュラー邸の居間は、朗らかな笑いに包まれたのである。
「ん?」
「この子達の名前なんだけど……」
「あ、ああ。そうか……そうだな……どうするか……」
全然考えてなかった……。
動揺するオレの顔を見て、クリスタはクスクスと笑う。
きっと、それもお見通しだったんだろうな……。
「あのね。あなたが良ければ、兄はアーダルベルト、弟はアルフォンス……で、どうかしら?」
「アーダルベルト……」
呟いて腕の中の我が子を見た。
すると、彼は小さく「ふぇ」っと泣いた。
「それはいいな!兄はその名前が気に入ったようだぞ?弟はどうだ?」
と言いながら、クリスタの腕の中を見ると、そちらはくぅくぅと熟睡している。
その様子をオレは可笑しくなって笑った。
兄アーダルベルトは人当たりが良くて豪快な人気者だった。
弟アルフォンスは優しくて穏やかで、良くうたた寝をしていた。
産まれた兄弟は、小さいながらも彼らに良く似ていたのである。
「良く似ているでしょう?」
向かいの母が笑う。
ハインミュラー家を襲った度重なる不幸を背負って、必死で頑張ってきた母、ベアトリクス。
兄弟が戦死し、不甲斐ない自分しか残らなかったのに、ただの一度も不満を口にしなかったよな。
穏やかに微笑む母を見て、オレは……やっと今、恩返しが出来たと思った。
「ローラント?」
考え事をしていると、クリスタが首を傾げながら話しかけてきた。
「……あ、いや。なんでもない。なんでもないよ……」
「そう?あ、ジェシカさんにもお礼を言いたいわ!外にいるんでしょう?」
「ああ。いるよ」
オレは扉近くのイレーネに目配せした。
イレーネが扉を開けると、そこにはカメラ一式を抱えたジェシカが待ってましたとばかりにニンマリとしていた。
……おい、待てよ。確か、さっきまで良いこと言ってなかったか?
無事に産まれれば、スクープなんてどうでもいい!とかなんとか……。
あれはウソか!?
半ば呆れるオレを、フフンと見下しながら、ジェシカは颯爽とクリスタの元にやって来た。
「おめでとうございます!閣下、クリスタ嬢!ならびにハインミュラー家の皆々様!」
と、優雅に挨拶をする変態記者ジェシカ。
「ありがとう。ジェシカさん。フィーネを連れてきてくれて。そして、領民を助けてくれて。心から感謝します」
「クリスタ嬢。私は記者です。お礼は、スクープで頂いてもよろしくて?」
「おいっ!今はよせ!クリスタも疲れているだろうし」
遮るオレを、クリスタは笑って窘めた。
「ローラント、私は大丈夫。ジェシカさんに協力してもいいわ。だってね、今回それだけの働きはしてもらっているもの。御返しはしないとね?」
「……クリスタ……はぁ、まったく……」
「ふふっ、ごめんなさいね。さぁ、ジェシカさん。どのような構図がいいかしら?私とローラントと子供達?それとも……」
「全員よ?ここにいる全員!この素晴らしいハインミュラー領の一致団結した泣ける話を隅から隅まで特集させて頂くわ!」
特集……。
何があっても、ただでは起きん女だな。
そうでなくては国を動かすような流行はつくれないか。
オレは、呆れながらもジェシカ・ハーネスを眩しく思った。
……いや、違うな。
ジェシカだけじゃなく、ここにいる強く逞しい女性全員をだ。
「はい!じゃあ皆さんクリスタ嬢と閣下を中心に集まって下さる?ちょっとー、執事さん?外にいないで入ってらして!」
ジェシカは扉付近でまごついていたルドガーを手招きした。
あいつも、きっと入るきっかけが掴めなかったんだな……オレもそうだったからな、良くわかるぞ。
そうして、嬉しそうに走ってきたルドガーがガブリエラの後ろに立つと、その場にいる全員がそろ……あ。
オレの視線の先には、扉の隙間から寂しそうにこちらを見るブルクハルトの姿があった。
その目は泣きそうに潤んでいる。
「クリスタ……ブルクハルトが……」
「あらっ。そういえば忙しくて今日はほったらかしだったわ。おいでブルクハルト」
クリスタが呼ぶと、ブルクハルトは「グワーーー」と必死で走ってくる。
そして、ベッドにピョンと飛び乗るとちゃんと座ってカメラの方を見た。
……調教されすぎじゃないか?
生物学にまでその天才ぶりを発揮し始めたのかと、オレは隣の妻を見る。
「なぁに?」
「いや……」
ああ、その惚けた仕草も大好きだ。
クリスタは締まりのないオレの顔を見て、いつものようにふふふと笑う。
「では、皆さん!はい、目線こっちにねー!」
ジェシカの合図と共に、付属の閃光電球が焚かれ、ボンッと大きな音がした。
それに驚いたアーダルベルトとアルフォンスが泣き出すと、ハインミュラー邸の居間は、朗らかな笑いに包まれたのである。
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