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Extra Ausgabe
出産狂想曲⑦~元帥閣下ローラント
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ハインミュラー邸に着くと、玄関口にジェシカ・ハーネスがいた。
彼女はオレを待っていたらしく、車が正面に止まると同時に走り寄ってきた。
「閣下!早く来て!今山場ですわよっ!」
「山場!?」
山場とは何だ?
オレは一瞬頭が真っ白になった。
出産の山場って……はっ!
こうしてはいられない!
「良し!行くぞ!」
車から飛び出し、玄関扉を壊しそうな勢いで潜ると、一階居間へと向かう。
二階の部屋では移動が面倒になるからと、居間に新しくベッドを新調しクリスタの部屋に改装したのだった。
角を曲がると、ちょうど居間の前に、手に盥を持ったイーリスが出てきたところだった。
「イーリス!クリスタは!?」
「あっ!ローラント様!はい、大丈夫でございますよ!全て順調に進んでおりまして、今……」
そこまで言い掛けたイーリスは、居間の異変を感じて口を閉じ、耳を澄ませた。
一瞬の静寂の後。
何かが小さく泣く声が聞こえてきた。
それはとても小さいが、生命力に溢れている。
まさか……今……。
「おめでとうございます!」
「ああ!良かったですわ!本当に!ね?閣下?」
「……あ、ああ。うん……」
イーリスとジェシカの祝いの言葉に、オレは生返事で返した。
まさに今、生まれ出た生命の産声を聞けた奇跡……これをどう表現していいかわからない。
ただ、訳もなく体の中から込み上げてくるものを必死で押さえることしか出来なかった。
「さぁさぁ、あともう一人!クリスタ嬢の踏ん張りどころねっ!」
「ええ!クリスタ様ならサクッとお産みなさいますわ!」
オレの感動など鼻で笑うように、ジェシカとイーリスは勇ましく笑う。
なるほどな。
ルドガーが「男など何人いても邪魔になるだけ」と言っていた意味がわかった気がする。
少し気持ちが落ち着いたのも束の間、居間の中が俄に騒がしくなった。
「あっ、私、お湯を準備しなければなりませんので、失礼しますわ!ローラント様もジェシカ様も、いましばらくお待ち下さいませ!」
イーリスは力強く頷くとキッチンルームへと消えていった。
「……どっちでしょうね?」
隣でジェシカが呟いた。
「どっち……とは?」
「性別ですわ!男か女か。閣下はどちらがよろしくて?」
「……どちらでもいい。無事に元気に産まれてくれるならな」
ジェシカはあら?と不思議そうな顔をした。
軍人一家の子供なら、男の方がいいに決まっているし、当然そういう答えが返ってくるのだと思ったのだろう。
確かに以前の自分はそう考えていた。
だが、クリスタと出会って体験した幾つもの出来事で、オレの全ては一変したのだ。
「実は私……ここにスクープを求めてやって来ましたの」
ジェシカが静かに呟くと、居間も一瞬静かになった。
「……だろうな」
「でも、なんだか……どうでもいい感じだわ。閣下と同じで、無事に元気に産まれてくれればいい……って思うだけ」
オレとジェシカは顔を見合わせて、どちらからともなく微笑んだ。
その瞬間、甲高く元気な産声が屋敷に響いた。
「産まれましたわね!」
「……あ、ああ!」
入ってもいいのだろうか?
扉の前でそわそわしていると、キッチンルームから出てきたイーリスが大きな盥を重そうに運んで来た。
「ロ、ローラント様っ!申し訳ありませんが扉を開けて下さいませっ!」
「わかった!」
期せずして願いが叶った!
オレは何の躊躇いもなく扉を開け、まずイーリスを入れると、自分もついでのように滑り込んだ。
「まぁ!ローラント!」
母は何かを抱きながら目を丸くして言った。
オレがここに入ってきたのが相当以外だったようだ。
ベッドサイドにいたガブリエラとイレーネは一瞬だけ驚くと、にっこり笑って「おめでとうございます」と頭を下げた。
フィーネはイーリスが持ってきた盥で産まれた子に湯を掛けている。
子供も気になるが、オレは真っ先に確認したいことがあった。
「クリスタは……?」
天井から下がっているカーテンが邪魔して、クリスタが見えない。
少し心配になって覗き込むと、豊かなブロンドがフワリと揺れた。
「ローラントっ!おかえりなさい。ほら、見てあげて!男の子、二人よ!」
得意気にベッドで笑うクリスタに近づき、オレは抱き締めた。
「あら?何?どうしたのよ?」
全く……。
どうして君は、大変なことをいつもアッサリこなしてしまうんだろう。
こんな小さな体で、なんでいつも強くいられるんだろう。
言葉にならない思いを抱え、オレはクリスタを尚一層抱き締めた。
「ありがとう。良く頑張ってくれた」
「ふふ。みんなのお陰ね。フィーネを連れてきてくれたジェシカさんとか、手伝ってくれたお義母様やガブリエラ、イーリスやイレーネも。そして、町で領民を助けていたルドガーやローラント……」
「知っていたのか!?」
「ええ。ジェシカさんがね、事故のことを教えてくれて……」
話し込むオレ達の後ろから、フィーネが子供を抱いてやって来た。
向かいのベッドサイドからは母が子供をクリスタに渡す。
「はい、ローラント様。こちらが兄君。向こうが弟君だよ」
フィーネは兄をオレに手渡した。
声が元気な彼は、薄く輝く金髪に深い蒼色の瞳で真っ直ぐオレを見る。
「小さいな……」
その手を取ると、きゅっと握り返され何故かドキッとした。
彼女はオレを待っていたらしく、車が正面に止まると同時に走り寄ってきた。
「閣下!早く来て!今山場ですわよっ!」
「山場!?」
山場とは何だ?
オレは一瞬頭が真っ白になった。
出産の山場って……はっ!
こうしてはいられない!
「良し!行くぞ!」
車から飛び出し、玄関扉を壊しそうな勢いで潜ると、一階居間へと向かう。
二階の部屋では移動が面倒になるからと、居間に新しくベッドを新調しクリスタの部屋に改装したのだった。
角を曲がると、ちょうど居間の前に、手に盥を持ったイーリスが出てきたところだった。
「イーリス!クリスタは!?」
「あっ!ローラント様!はい、大丈夫でございますよ!全て順調に進んでおりまして、今……」
そこまで言い掛けたイーリスは、居間の異変を感じて口を閉じ、耳を澄ませた。
一瞬の静寂の後。
何かが小さく泣く声が聞こえてきた。
それはとても小さいが、生命力に溢れている。
まさか……今……。
「おめでとうございます!」
「ああ!良かったですわ!本当に!ね?閣下?」
「……あ、ああ。うん……」
イーリスとジェシカの祝いの言葉に、オレは生返事で返した。
まさに今、生まれ出た生命の産声を聞けた奇跡……これをどう表現していいかわからない。
ただ、訳もなく体の中から込み上げてくるものを必死で押さえることしか出来なかった。
「さぁさぁ、あともう一人!クリスタ嬢の踏ん張りどころねっ!」
「ええ!クリスタ様ならサクッとお産みなさいますわ!」
オレの感動など鼻で笑うように、ジェシカとイーリスは勇ましく笑う。
なるほどな。
ルドガーが「男など何人いても邪魔になるだけ」と言っていた意味がわかった気がする。
少し気持ちが落ち着いたのも束の間、居間の中が俄に騒がしくなった。
「あっ、私、お湯を準備しなければなりませんので、失礼しますわ!ローラント様もジェシカ様も、いましばらくお待ち下さいませ!」
イーリスは力強く頷くとキッチンルームへと消えていった。
「……どっちでしょうね?」
隣でジェシカが呟いた。
「どっち……とは?」
「性別ですわ!男か女か。閣下はどちらがよろしくて?」
「……どちらでもいい。無事に元気に産まれてくれるならな」
ジェシカはあら?と不思議そうな顔をした。
軍人一家の子供なら、男の方がいいに決まっているし、当然そういう答えが返ってくるのだと思ったのだろう。
確かに以前の自分はそう考えていた。
だが、クリスタと出会って体験した幾つもの出来事で、オレの全ては一変したのだ。
「実は私……ここにスクープを求めてやって来ましたの」
ジェシカが静かに呟くと、居間も一瞬静かになった。
「……だろうな」
「でも、なんだか……どうでもいい感じだわ。閣下と同じで、無事に元気に産まれてくれればいい……って思うだけ」
オレとジェシカは顔を見合わせて、どちらからともなく微笑んだ。
その瞬間、甲高く元気な産声が屋敷に響いた。
「産まれましたわね!」
「……あ、ああ!」
入ってもいいのだろうか?
扉の前でそわそわしていると、キッチンルームから出てきたイーリスが大きな盥を重そうに運んで来た。
「ロ、ローラント様っ!申し訳ありませんが扉を開けて下さいませっ!」
「わかった!」
期せずして願いが叶った!
オレは何の躊躇いもなく扉を開け、まずイーリスを入れると、自分もついでのように滑り込んだ。
「まぁ!ローラント!」
母は何かを抱きながら目を丸くして言った。
オレがここに入ってきたのが相当以外だったようだ。
ベッドサイドにいたガブリエラとイレーネは一瞬だけ驚くと、にっこり笑って「おめでとうございます」と頭を下げた。
フィーネはイーリスが持ってきた盥で産まれた子に湯を掛けている。
子供も気になるが、オレは真っ先に確認したいことがあった。
「クリスタは……?」
天井から下がっているカーテンが邪魔して、クリスタが見えない。
少し心配になって覗き込むと、豊かなブロンドがフワリと揺れた。
「ローラントっ!おかえりなさい。ほら、見てあげて!男の子、二人よ!」
得意気にベッドで笑うクリスタに近づき、オレは抱き締めた。
「あら?何?どうしたのよ?」
全く……。
どうして君は、大変なことをいつもアッサリこなしてしまうんだろう。
こんな小さな体で、なんでいつも強くいられるんだろう。
言葉にならない思いを抱え、オレはクリスタを尚一層抱き締めた。
「ありがとう。良く頑張ってくれた」
「ふふ。みんなのお陰ね。フィーネを連れてきてくれたジェシカさんとか、手伝ってくれたお義母様やガブリエラ、イーリスやイレーネも。そして、町で領民を助けていたルドガーやローラント……」
「知っていたのか!?」
「ええ。ジェシカさんがね、事故のことを教えてくれて……」
話し込むオレ達の後ろから、フィーネが子供を抱いてやって来た。
向かいのベッドサイドからは母が子供をクリスタに渡す。
「はい、ローラント様。こちらが兄君。向こうが弟君だよ」
フィーネは兄をオレに手渡した。
声が元気な彼は、薄く輝く金髪に深い蒼色の瞳で真っ直ぐオレを見る。
「小さいな……」
その手を取ると、きゅっと握り返され何故かドキッとした。
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