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Extra Ausgabe
出産狂想曲⑥~元帥閣下ローラント
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「向こうのバスも頼む!横倒しになってうまく救助が出来ないんだ!君の力を貸してやってくれ!」
「わかった」
軽く頷くとバスへと移動した。
車の普及により、最近導入された路線バスは、試験的に首都とクライムシュミットで運用中である。
しかし、その安全性については、様々な専門家から懸念の声が上がっていた。
バスは幅も高さもある。
ザナリアの道路をもう少し拡張しなければ運用は難しいのでは?と、議論されていたのだ。
「マリア!大丈夫か?」
「あっ、ローラント様!」
困った顔のマリアが、オレを見て叫んだ。
彼女は、横倒しになったバスから男の子を助けようとしている。
だが、沢山の座席が邪魔をしてそこまで辿りつくことが出来ないでいるようだ。
「邪魔な物が多いな」
「ええ。一つずつ退けているのですが、遅々として進まず……でも、早くしないと子供の体力が……」
「ああ。そうだな」
オレはその場を離れ、少しバスの周りを歩いてみた。
そして、一周してからマリアに言った。
「一度起こしても問題無さそうだ」
「えっ!?バスを……ですか?」
「そうだ。座席を一つずつ移動させるより早い」
「はぁ……」
マリアがなんとも形容しがたい変な顔をした。
それが出来るなら苦労はしない……とでも思っているのだろう。
彼女はその顔のまま、夫のアイスラーに視線を送る。
すると、彼らはアイコンタクトで何かを伝え合い、次の瞬間、マリアは言った。
「ローラント様!お力、お貸しください!」
「最初からそのつもりだ。マリア、君は周りの人を退避させ、バスの中にいる者に衝撃に備えるように言ってくれ!急げよ?」
「……あ、あっ!はい!」
腕捲りをするオレを見て、マリアは走る。
近くで救助をする警邏隊や、医術士、手当て中の怪我人を素早く退かせ、バスの中にも声をかけて回る。
すると、ものの数分でバスの周囲に人がいなくなった。
「さて、と」
オレは地面と接したバスの天井部分に指を掛け、グッと力を入れる。
そして、浮き上がって出来た隙間に指を差し入れ、そのまま持ち上げた。
思ったより重量がある……が、戦車よりははるかに軽い。
遊撃部隊にいたとき、溝にはまって故障した戦車を駐屯地まで引いて帰ったことがある。
その時と比べると全く手応えがなかった。
バスをあっさりと元の位置に戻すと、オレは窓枠を広げてそこから邪魔な座席を外へと出す。
いや、出すというか、投げるが正しいな。
一刻も早く、片付けたい。
そんな思いが行動にまで表れてしまっていた。
そして、全ての障害物がバスの中から消えると、マリアや他の医術士達が、乗客の診察を始めた。
やれやれ。
こんなものか……。
辺りを見回すオレに、ルドガーとアイスラーが声を掛けてきた。
「お疲れ様でございます。旦那様!」
「やっぱり凄いねぇー。素手でバスを持ち上げるなんて」
「ふん。もういいか?オレは行くぞ?」
ルドガーが恭しく渡してくる上着を受け取りながら、体についた埃を払う。
すると、アイスラーがにっこり微笑み言ったのだ。
「ありがとう。最後に一ついい?」
「何だ?」
「周りを見て?」
その言葉に従うと、遠巻きに見ていた領民や軽傷者、手伝いの警邏隊と医術士、皆が何故かこちらを見ている。
「どうしたんだ?」
「君を見てるんだよ。自分達の領主がいかに頼りになる指導者か……それを僕を含め彼らは今、再認識してるんだ」
「……そんな大したことはしていないが?」
「ふふ。君は昔から自分の評価には興味ないからね。でも、今から産まれる子供(達)のために、クライムシュミットの結束を固めておいてもいいんじゃない?」
アイスラーの言っていることは良くわからなかった。
だが、産まれてくる子供の為に、という言葉には何かしら感じ入るところもある。
オレは、スッと領民に向かって手を上げた。
すると……。
「ローラント様!」
「ザナリア帝国元帥閣下!万歳!」
「さすがは我らが御領主様!」
割れるような歓声と拍手。
領民は叫び、警邏隊は整列し敬礼する。
そのような光景は戦争に勝って凱旋する度に何度も見たことがあった。
しかし、この歓声は何かが違った。
もっと暖かいような、熱いような。
心の底からの喜びが直接伝わってくる……そんな気がした。
「旦那様!警邏隊から車を借りて来ております!さぁ、クリスタ様の元へ!」
ルドガーの声にオレは頷いた。
そうだ。
今、クリスタはいろいろなものと戦っている。
早く側に行って励ましてやらねば!
「わかった」
軽く頷くとバスへと移動した。
車の普及により、最近導入された路線バスは、試験的に首都とクライムシュミットで運用中である。
しかし、その安全性については、様々な専門家から懸念の声が上がっていた。
バスは幅も高さもある。
ザナリアの道路をもう少し拡張しなければ運用は難しいのでは?と、議論されていたのだ。
「マリア!大丈夫か?」
「あっ、ローラント様!」
困った顔のマリアが、オレを見て叫んだ。
彼女は、横倒しになったバスから男の子を助けようとしている。
だが、沢山の座席が邪魔をしてそこまで辿りつくことが出来ないでいるようだ。
「邪魔な物が多いな」
「ええ。一つずつ退けているのですが、遅々として進まず……でも、早くしないと子供の体力が……」
「ああ。そうだな」
オレはその場を離れ、少しバスの周りを歩いてみた。
そして、一周してからマリアに言った。
「一度起こしても問題無さそうだ」
「えっ!?バスを……ですか?」
「そうだ。座席を一つずつ移動させるより早い」
「はぁ……」
マリアがなんとも形容しがたい変な顔をした。
それが出来るなら苦労はしない……とでも思っているのだろう。
彼女はその顔のまま、夫のアイスラーに視線を送る。
すると、彼らはアイコンタクトで何かを伝え合い、次の瞬間、マリアは言った。
「ローラント様!お力、お貸しください!」
「最初からそのつもりだ。マリア、君は周りの人を退避させ、バスの中にいる者に衝撃に備えるように言ってくれ!急げよ?」
「……あ、あっ!はい!」
腕捲りをするオレを見て、マリアは走る。
近くで救助をする警邏隊や、医術士、手当て中の怪我人を素早く退かせ、バスの中にも声をかけて回る。
すると、ものの数分でバスの周囲に人がいなくなった。
「さて、と」
オレは地面と接したバスの天井部分に指を掛け、グッと力を入れる。
そして、浮き上がって出来た隙間に指を差し入れ、そのまま持ち上げた。
思ったより重量がある……が、戦車よりははるかに軽い。
遊撃部隊にいたとき、溝にはまって故障した戦車を駐屯地まで引いて帰ったことがある。
その時と比べると全く手応えがなかった。
バスをあっさりと元の位置に戻すと、オレは窓枠を広げてそこから邪魔な座席を外へと出す。
いや、出すというか、投げるが正しいな。
一刻も早く、片付けたい。
そんな思いが行動にまで表れてしまっていた。
そして、全ての障害物がバスの中から消えると、マリアや他の医術士達が、乗客の診察を始めた。
やれやれ。
こんなものか……。
辺りを見回すオレに、ルドガーとアイスラーが声を掛けてきた。
「お疲れ様でございます。旦那様!」
「やっぱり凄いねぇー。素手でバスを持ち上げるなんて」
「ふん。もういいか?オレは行くぞ?」
ルドガーが恭しく渡してくる上着を受け取りながら、体についた埃を払う。
すると、アイスラーがにっこり微笑み言ったのだ。
「ありがとう。最後に一ついい?」
「何だ?」
「周りを見て?」
その言葉に従うと、遠巻きに見ていた領民や軽傷者、手伝いの警邏隊と医術士、皆が何故かこちらを見ている。
「どうしたんだ?」
「君を見てるんだよ。自分達の領主がいかに頼りになる指導者か……それを僕を含め彼らは今、再認識してるんだ」
「……そんな大したことはしていないが?」
「ふふ。君は昔から自分の評価には興味ないからね。でも、今から産まれる子供(達)のために、クライムシュミットの結束を固めておいてもいいんじゃない?」
アイスラーの言っていることは良くわからなかった。
だが、産まれてくる子供の為に、という言葉には何かしら感じ入るところもある。
オレは、スッと領民に向かって手を上げた。
すると……。
「ローラント様!」
「ザナリア帝国元帥閣下!万歳!」
「さすがは我らが御領主様!」
割れるような歓声と拍手。
領民は叫び、警邏隊は整列し敬礼する。
そのような光景は戦争に勝って凱旋する度に何度も見たことがあった。
しかし、この歓声は何かが違った。
もっと暖かいような、熱いような。
心の底からの喜びが直接伝わってくる……そんな気がした。
「旦那様!警邏隊から車を借りて来ております!さぁ、クリスタ様の元へ!」
ルドガーの声にオレは頷いた。
そうだ。
今、クリスタはいろいろなものと戦っている。
早く側に行って励ましてやらねば!
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