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Extra Ausgabe
出産狂想曲③~従軍記者ジェシカ
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「さぁ、ここ!自由に使って!」
アンドレスに案内されたのは、レスボン新聞社の奥にあった、電信室だ。
この電信機は、軍部の施設、新聞社などにしか置いていないもので、普段は緊急の連絡でしか使わない。
いや、本来使ってはいけないものだ。
しかし、この非常事態に使わないでいつ使うのか!
私は電信室に入り、急いで各所に伝えることにした。
「ありがとう。ええと、この近辺の町の新聞社、軍の施設……」
目の前の番号表を見ながら、ボタンを押す。
そして、内容は一律でこうだ。
『クライムシュミット、ハインミュラー領レスボン新聞社より。 大事故発生。至急、医術士をクライムシュミット駅へと動員。重要度Ω』
「えっ!?そのコード(Ω)で行くの!?」
アンドレスは私の手元を見て叫んだ。
「ええ。元帥レベルの強権ね。でももし、ここに閣下がいれば同じことをするでしょう?」
「……た、確かにそうだね」
ブルッと震えながら、アンドレスは頷いた。
「じゃあ悪いけど、後は各所に同じ電文をたのむわ!私はクリスタ嬢のところに行くから!」
そう、ここからが大事だ。
なんとしても、産科医をハインミュラー家、クリスタ嬢の元へと送らねば!
「う、うん!気を付けろよ!ジェシカ!」
「わかってるわ!……あ、アンドレス?本当にありがとう……」
スクープを諦めて、私に力を貸してくれて。
全部を語らなくても、アンドレスはわかってくれたようだ。
彼は私に代わり電信室の椅子に座ると、早く行けと目で合図をした。
それを見て、私は駆け出した。
新聞社を出て駅前を覗くと、まだ混乱の真っただ中だった。
相変わらずバスは横転したまま救助も進まず、手伝ってくれている住民も指導者がいないので右往左往している。
早いとこ、熊……閣下に到着してもらわないと収拾がつかないわ。
と、思っていると、白い服の集団がなだれ込んできた。
「皆、下がって!手伝ってくれてる人は、大怪我をしてる人を動かさないで!」
中の一人、くせ毛で子供みたいな男が叫んだ。
男は辺りを見て事故の中心へと走り、執事が止血している運転手の診察を開始した。
「お手伝いして下さる方は、診察に邪魔になりそうな物を片づけるのに力を貸して下さい!」
そう回りに声を掛けるのは、髪を高い位置で結わえた女性だ。
ん!誰かに似ている……あっ!イザーク・フローリア!
そうか、そうだったわ。
妹はクライムシュミットで医術士をしているって言っていた!
ようやくブランケンハイム病院の医術士が駆けつけたのね!
取りあえず、これであちらは少し持つ。
後は……。
私は商店を見回して、酒屋を探した。
車がなければ、馬で行く!
大口の配達にまだ荷馬車を使用する酒屋なら馬を持っているはずなのだ。
駅から商店街奥へと入り目を凝らすと、大きな酒屋があった。
「こんにちは!こんにちはーーー!」
入るなり、私は叫び倒した。
すると、奥から初老の店主が面倒くさそうに顔を出しゆったりと言った。
「はい、ご用ですかな?」
駅前はあんなことになっているのに、少し離れているとはいえ、随分のんびりしたものね?
私は、呆れつつも、気を取り直し本題を切り出した。
「ご主人、馬をお持ちかしら?」
「……馬?ここは酒屋だよ?」
店主は眉間に皺を寄せた。
酒屋に馬を買いに来た馬鹿だと思ったのかしら!?
少し頭に来たけど、クリスタ嬢の麗しい姿を思い出して、必死に気を落ち着かせた。
「知ってますわ!酒屋なら、荷馬車がありますわよね?それを貸して頂きたいの!」
「荷馬車……まぁ、あるにはあるが……あんた、それをどうするんだい?」
ああもうっ!もどかしいっ!
一刻を争う事態なのよ!
私は金切り声で店主に叫んだ。
「領主の奥方様の一大事なのよっ!今、産気づいて……」
状況がどんなに切迫しているかを、捲し立ててやろうという私の言葉を、店主は遮った。
「奥方様か!?わかった!裏に繋いでいるから持っていけ!」
「い、いいんですの?」
まだ、何も言ってない。
馬を何に使うのかも話していないのに……。
「構わん!奥方様とお子様のためだろう?」
「ええ、まぁ……では、お借りしますわ!後程必ず返しに伺うのでっ……」
何故かはわからないけど、なんとかなったわ!
私は急いで酒屋の裏に行き、足の早そうな葦毛を一頭引くと、さっと馬に乗る。
その昔、ザナリア馬術大会で優勝した私の実力なら、後ろに誰かを乗せてても早く到着出来るはず!
すれ違う人々の驚きの表情を気にも止めず、私は駅前まで急いだ。
アンドレスに案内されたのは、レスボン新聞社の奥にあった、電信室だ。
この電信機は、軍部の施設、新聞社などにしか置いていないもので、普段は緊急の連絡でしか使わない。
いや、本来使ってはいけないものだ。
しかし、この非常事態に使わないでいつ使うのか!
私は電信室に入り、急いで各所に伝えることにした。
「ありがとう。ええと、この近辺の町の新聞社、軍の施設……」
目の前の番号表を見ながら、ボタンを押す。
そして、内容は一律でこうだ。
『クライムシュミット、ハインミュラー領レスボン新聞社より。 大事故発生。至急、医術士をクライムシュミット駅へと動員。重要度Ω』
「えっ!?そのコード(Ω)で行くの!?」
アンドレスは私の手元を見て叫んだ。
「ええ。元帥レベルの強権ね。でももし、ここに閣下がいれば同じことをするでしょう?」
「……た、確かにそうだね」
ブルッと震えながら、アンドレスは頷いた。
「じゃあ悪いけど、後は各所に同じ電文をたのむわ!私はクリスタ嬢のところに行くから!」
そう、ここからが大事だ。
なんとしても、産科医をハインミュラー家、クリスタ嬢の元へと送らねば!
「う、うん!気を付けろよ!ジェシカ!」
「わかってるわ!……あ、アンドレス?本当にありがとう……」
スクープを諦めて、私に力を貸してくれて。
全部を語らなくても、アンドレスはわかってくれたようだ。
彼は私に代わり電信室の椅子に座ると、早く行けと目で合図をした。
それを見て、私は駆け出した。
新聞社を出て駅前を覗くと、まだ混乱の真っただ中だった。
相変わらずバスは横転したまま救助も進まず、手伝ってくれている住民も指導者がいないので右往左往している。
早いとこ、熊……閣下に到着してもらわないと収拾がつかないわ。
と、思っていると、白い服の集団がなだれ込んできた。
「皆、下がって!手伝ってくれてる人は、大怪我をしてる人を動かさないで!」
中の一人、くせ毛で子供みたいな男が叫んだ。
男は辺りを見て事故の中心へと走り、執事が止血している運転手の診察を開始した。
「お手伝いして下さる方は、診察に邪魔になりそうな物を片づけるのに力を貸して下さい!」
そう回りに声を掛けるのは、髪を高い位置で結わえた女性だ。
ん!誰かに似ている……あっ!イザーク・フローリア!
そうか、そうだったわ。
妹はクライムシュミットで医術士をしているって言っていた!
ようやくブランケンハイム病院の医術士が駆けつけたのね!
取りあえず、これであちらは少し持つ。
後は……。
私は商店を見回して、酒屋を探した。
車がなければ、馬で行く!
大口の配達にまだ荷馬車を使用する酒屋なら馬を持っているはずなのだ。
駅から商店街奥へと入り目を凝らすと、大きな酒屋があった。
「こんにちは!こんにちはーーー!」
入るなり、私は叫び倒した。
すると、奥から初老の店主が面倒くさそうに顔を出しゆったりと言った。
「はい、ご用ですかな?」
駅前はあんなことになっているのに、少し離れているとはいえ、随分のんびりしたものね?
私は、呆れつつも、気を取り直し本題を切り出した。
「ご主人、馬をお持ちかしら?」
「……馬?ここは酒屋だよ?」
店主は眉間に皺を寄せた。
酒屋に馬を買いに来た馬鹿だと思ったのかしら!?
少し頭に来たけど、クリスタ嬢の麗しい姿を思い出して、必死に気を落ち着かせた。
「知ってますわ!酒屋なら、荷馬車がありますわよね?それを貸して頂きたいの!」
「荷馬車……まぁ、あるにはあるが……あんた、それをどうするんだい?」
ああもうっ!もどかしいっ!
一刻を争う事態なのよ!
私は金切り声で店主に叫んだ。
「領主の奥方様の一大事なのよっ!今、産気づいて……」
状況がどんなに切迫しているかを、捲し立ててやろうという私の言葉を、店主は遮った。
「奥方様か!?わかった!裏に繋いでいるから持っていけ!」
「い、いいんですの?」
まだ、何も言ってない。
馬を何に使うのかも話していないのに……。
「構わん!奥方様とお子様のためだろう?」
「ええ、まぁ……では、お借りしますわ!後程必ず返しに伺うのでっ……」
何故かはわからないけど、なんとかなったわ!
私は急いで酒屋の裏に行き、足の早そうな葦毛を一頭引くと、さっと馬に乗る。
その昔、ザナリア馬術大会で優勝した私の実力なら、後ろに誰かを乗せてても早く到着出来るはず!
すれ違う人々の驚きの表情を気にも止めず、私は駅前まで急いだ。
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